真摯に走り続ける限り、近い将来、鹿島はまたタイトルを手にするだろう
Jを面白くする浦和の守護神・西川の足技と鹿島の若手育成力|浦和 1-1 鹿島

カテゴリ:Jリーグ・国内
熊崎敬
2014年07月28日
連続無失点記録は破られたが、攻撃への貢献は計り知れない西川。
1対1に終わった首位浦和と鹿島の一戦は、試合後、会う人会う人に喋りたくなる素晴らしいゲームだった。
浦和が樹立したJ1連続無失点記録は、7試合で途切れた。横浜、FC東京、甲府、大宮、C大阪、新潟、徳島。この7チームが決められなかった浦和のゴールを打ち破ったのは、鹿島の柴崎だった。
0-1で迎えた30分、植田が敵のパスをカットすると、土居、ダヴィと間髪入れず縦につなぐ。最後に右サイドを駆け上がった柴崎が、角度のないところから鋭い「天井シュート」を突き刺した。
駆け引きの巧さが光る、良いシュートだった。
ドリブルでゴールに迫った柴崎は、ゴール前に詰めた土居を横目で見て、次に視線を下に落とした直後、キーパーが一番反応できない真上を撃ち抜いた。これは西川でも止めようがない。決めた柴崎を褒めるべきだろう。
連続無失点は途切れたものの、西川は相変わらず素晴らしい。すでに誰もが認めるところだが、ゴールを守るだけではなく、11人目のフィールドプレーヤーとして攻撃への貢献は計り知れない。
昨年も浦和は最後尾から丁寧にパスをつなごうとしていたが、プレッシャーをかけられると慌ててしまい、無残に失点するケースが多かった。それがフィールドプレーヤーと遜色ない技術を持つ西川の加入によって、格段にパス回しが安定した。
敵のリズムを壊すことに長けた鹿島は、チャンスと見るや何度も押し包むように浦和のパス回しに圧力をかけた。
だが最後尾に西川がいるというのは、浦和にとって最高の精神安定剤だ。厳しくなったら西川に預けておけば間違いはない。それどころか彼は精度の高いパスによって、ラインを上げてきた敵の背後を突くこともできる。
このゲームでも、一気に網を狭めてきた鹿島の裏、森脇にロングパスを通し、何人もの敵を置き去りにする場面があった。終盤にはボールを持ったまま足を止め、単独でチャージをかけてきた本山を目前まで引きつけると、スッとかわして縦パスを出した。
奪いに行けば外される。体力を消耗するし、それどころか背後を取られるかもしれない――。こうなると敵は、なかなか西川にプレッシャーをかけに行けない。だがプレッシャーをかけなければ、浦和は自由に時間を使ってしまう。
先制した浦和が圧倒的な勝率を誇っているのは、GKを使った巧みな駆け引きができるからだ。ゴールに鍵をかけるだけではなく、西川は最後尾からゲームを支配する。そして敵を心理面から揺さぶる。
西川をどう破るか、そしてどう抑えるか。J1後半戦、対戦相手の多くが西川対策に頭を痛めることだろう。
ジーコの教えを守り続け、真摯に次世代へ受け継いでいく鹿島の姿勢。

浦和の李の突破を阻む2年目の昌子。若手の効果的な抜擢で、鹿島は明るい未来が描けているようだ。 (C) SOCCER DIGEST
西川が輝いた夜、鹿島もまた明るい未来を垣間見せた。
3連覇を達成したころに比べると、メンバーは大きく若返った。高卒2、3年目の若手がチームの半数近くを占め、19歳の植田、21歳の昌子のCBはJ1最年少コンビだろう。
だが、駆け引きの巧さ、球際での激しさといった伝統は失われていない。
かつての鹿島は、百戦錬磨のベテランたちに守られて、若手が伸びていくというサイクルがあった。だが今は、荒削りな原石だらけ。その中でいぶし銀が独特の輝きを放っている。小笠原だ。
小笠原は文字通り、背中で若者たちを教育している。敵が加速しそうになると真っ先に現場に駆けつけ、激しく腰から当たって勢いをばっさりと断ち切る。弱気になって下がりかけた最終ラインに、大丈夫だ、上げろ、と身振りで鼓舞する。
出場時間は短いが、本山も効いていた。終盤、曽ヶ端がボールを持ち、ゲームが途切れた瞬間、彼だけがするすると前線に動き出し、そこからチャンスが生まれたのだ。
鹿島というチームは、Jリーグ開幕から22年が経った今も、ジーコの教えを守り続けている。それはベテランたちが若手時代に教わったことを、真摯に次世代に受け継いでいるからだ。
「いまどきの若いもんは……」と愚痴をこぼしている人たちは、鹿島の姿勢を見習うべきだろう。
この日、鹿島は杉本太郎をデビューさせた。昨年のU−17ワールドカップでも活躍した、この世代最高のタレント。
杉本はまだ線が細く、チャンスに絡む場面はあったものの、浦和の脅威にはならなかった。対面の槙野にも格の違いを見せつけられた。だが、首位との一戦、しかも1対1の緊迫した場面で大事なルーキーを使うところに鹿島の見識が感じられる。
この杉本の起用について訊ねると、トニーニョ・セレーゾ監督がいいことを言っていた。
「杉本は自分のためではなく、チームのために取り組む自己犠牲の精神を持っている。弱い相手に活躍するのは、誰でもできる。強い相手と戦ってこそ、能力が分かるんだ。意欲が枯れかけたベテランを使うなら、意欲や願望の強い若手を使う方が明るい未来が待っている。たとえ失敗したとしても」
T・セレーゾ監督によると、ブラジルには「ボールは止まらない」という格言があるのだそうだ。
「過去のミスを引きずって頭を抱えている間も、人生は進んでいく。新しい選手も出てくるだろう。だから頭を抱えたり、下を向いている暇があるなら、走り出した方がいい」
真摯に走り続ける限り、近い将来、鹿島はまたタイトルを手にするだろう。
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
「駆け引きの巧さ、球際での激しさといった伝統は失われていない」とサッカーダイジェストに記す熊崎氏である。
「19歳の植田、21歳の昌子のCBはJ1最年少コンビ」に伝統をもたらせるのはベテランの背中である。
それが鹿島の神髄であろう。
若きルーキー杉本太郎が大舞台でデビューしたのも、その伝統が成せるワザ。
自己犠牲が身に付いておるが故である。
「過去のミスを引きずって頭を抱えている間も、人生は進んでいく。新しい選手も出てくるだろう。だから頭を抱えたり、下を向いている暇があるなら、走り出した方がいい」
現状を嘆く時間があるのであれば、未来に向けて行動を起こすのだ。
鹿島は我らに良いお手本を見せてくれる。
前を向いて走って行きたい。

カテゴリ:Jリーグ・国内
熊崎敬
2014年07月28日
連続無失点記録は破られたが、攻撃への貢献は計り知れない西川。
1対1に終わった首位浦和と鹿島の一戦は、試合後、会う人会う人に喋りたくなる素晴らしいゲームだった。
浦和が樹立したJ1連続無失点記録は、7試合で途切れた。横浜、FC東京、甲府、大宮、C大阪、新潟、徳島。この7チームが決められなかった浦和のゴールを打ち破ったのは、鹿島の柴崎だった。
0-1で迎えた30分、植田が敵のパスをカットすると、土居、ダヴィと間髪入れず縦につなぐ。最後に右サイドを駆け上がった柴崎が、角度のないところから鋭い「天井シュート」を突き刺した。
駆け引きの巧さが光る、良いシュートだった。
ドリブルでゴールに迫った柴崎は、ゴール前に詰めた土居を横目で見て、次に視線を下に落とした直後、キーパーが一番反応できない真上を撃ち抜いた。これは西川でも止めようがない。決めた柴崎を褒めるべきだろう。
連続無失点は途切れたものの、西川は相変わらず素晴らしい。すでに誰もが認めるところだが、ゴールを守るだけではなく、11人目のフィールドプレーヤーとして攻撃への貢献は計り知れない。
昨年も浦和は最後尾から丁寧にパスをつなごうとしていたが、プレッシャーをかけられると慌ててしまい、無残に失点するケースが多かった。それがフィールドプレーヤーと遜色ない技術を持つ西川の加入によって、格段にパス回しが安定した。
敵のリズムを壊すことに長けた鹿島は、チャンスと見るや何度も押し包むように浦和のパス回しに圧力をかけた。
だが最後尾に西川がいるというのは、浦和にとって最高の精神安定剤だ。厳しくなったら西川に預けておけば間違いはない。それどころか彼は精度の高いパスによって、ラインを上げてきた敵の背後を突くこともできる。
このゲームでも、一気に網を狭めてきた鹿島の裏、森脇にロングパスを通し、何人もの敵を置き去りにする場面があった。終盤にはボールを持ったまま足を止め、単独でチャージをかけてきた本山を目前まで引きつけると、スッとかわして縦パスを出した。
奪いに行けば外される。体力を消耗するし、それどころか背後を取られるかもしれない――。こうなると敵は、なかなか西川にプレッシャーをかけに行けない。だがプレッシャーをかけなければ、浦和は自由に時間を使ってしまう。
先制した浦和が圧倒的な勝率を誇っているのは、GKを使った巧みな駆け引きができるからだ。ゴールに鍵をかけるだけではなく、西川は最後尾からゲームを支配する。そして敵を心理面から揺さぶる。
西川をどう破るか、そしてどう抑えるか。J1後半戦、対戦相手の多くが西川対策に頭を痛めることだろう。
ジーコの教えを守り続け、真摯に次世代へ受け継いでいく鹿島の姿勢。

浦和の李の突破を阻む2年目の昌子。若手の効果的な抜擢で、鹿島は明るい未来が描けているようだ。 (C) SOCCER DIGEST
西川が輝いた夜、鹿島もまた明るい未来を垣間見せた。
3連覇を達成したころに比べると、メンバーは大きく若返った。高卒2、3年目の若手がチームの半数近くを占め、19歳の植田、21歳の昌子のCBはJ1最年少コンビだろう。
だが、駆け引きの巧さ、球際での激しさといった伝統は失われていない。
かつての鹿島は、百戦錬磨のベテランたちに守られて、若手が伸びていくというサイクルがあった。だが今は、荒削りな原石だらけ。その中でいぶし銀が独特の輝きを放っている。小笠原だ。
小笠原は文字通り、背中で若者たちを教育している。敵が加速しそうになると真っ先に現場に駆けつけ、激しく腰から当たって勢いをばっさりと断ち切る。弱気になって下がりかけた最終ラインに、大丈夫だ、上げろ、と身振りで鼓舞する。
出場時間は短いが、本山も効いていた。終盤、曽ヶ端がボールを持ち、ゲームが途切れた瞬間、彼だけがするすると前線に動き出し、そこからチャンスが生まれたのだ。
鹿島というチームは、Jリーグ開幕から22年が経った今も、ジーコの教えを守り続けている。それはベテランたちが若手時代に教わったことを、真摯に次世代に受け継いでいるからだ。
「いまどきの若いもんは……」と愚痴をこぼしている人たちは、鹿島の姿勢を見習うべきだろう。
この日、鹿島は杉本太郎をデビューさせた。昨年のU−17ワールドカップでも活躍した、この世代最高のタレント。
杉本はまだ線が細く、チャンスに絡む場面はあったものの、浦和の脅威にはならなかった。対面の槙野にも格の違いを見せつけられた。だが、首位との一戦、しかも1対1の緊迫した場面で大事なルーキーを使うところに鹿島の見識が感じられる。
この杉本の起用について訊ねると、トニーニョ・セレーゾ監督がいいことを言っていた。
「杉本は自分のためではなく、チームのために取り組む自己犠牲の精神を持っている。弱い相手に活躍するのは、誰でもできる。強い相手と戦ってこそ、能力が分かるんだ。意欲が枯れかけたベテランを使うなら、意欲や願望の強い若手を使う方が明るい未来が待っている。たとえ失敗したとしても」
T・セレーゾ監督によると、ブラジルには「ボールは止まらない」という格言があるのだそうだ。
「過去のミスを引きずって頭を抱えている間も、人生は進んでいく。新しい選手も出てくるだろう。だから頭を抱えたり、下を向いている暇があるなら、走り出した方がいい」
真摯に走り続ける限り、近い将来、鹿島はまたタイトルを手にするだろう。
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
「駆け引きの巧さ、球際での激しさといった伝統は失われていない」とサッカーダイジェストに記す熊崎氏である。
「19歳の植田、21歳の昌子のCBはJ1最年少コンビ」に伝統をもたらせるのはベテランの背中である。
それが鹿島の神髄であろう。
若きルーキー杉本太郎が大舞台でデビューしたのも、その伝統が成せるワザ。
自己犠牲が身に付いておるが故である。
「過去のミスを引きずって頭を抱えている間も、人生は進んでいく。新しい選手も出てくるだろう。だから頭を抱えたり、下を向いている暇があるなら、走り出した方がいい」
現状を嘆く時間があるのであれば、未来に向けて行動を起こすのだ。
鹿島は我らに良いお手本を見せてくれる。
前を向いて走って行きたい。