シャルケ・篤人、組み立てとボールを落ち着かせるということなのかな
CLで価値あるドローは内田のおかげ?
流れを変えた“ボランチ的”センス。
ミムラユウスケ = 文
text by Yusuke Mimura
photograph by AFLO
2週間前、チェルシーとのCLの初戦に挑む前とはずいぶん異なる状況で、シャルケはCLの第2節を迎えた。
ブンデス開幕3試合で1分け2敗だった2週間前、次の試合に負ければケラー監督の解任は避けられない状態にあったが、チェルシーに引き分け、ブレーメンから今季初勝利をつかむと、3日前には宿敵ドルトムントとのレヴィアーダービーを制した。
その勢いに乗って、ホームでマリボルを倒すというのがシャルケの目論見だった。
「内田のように長期離脱していた選手が4日間で2試合を戦ったのだから休みを与えようとするのは当然のことだ」
試合前日の記者会見でケラー監督はそのように語り、内田篤人はベンチで試合開始のホイッスルを聞くことになった。
スロベニアリーグから参戦しているマリボルはグループGの中でもっとも力の劣るチームだ。そんなチームとのホームゲームなのだから、シャルケが優位に試合を進めることは疑いようがないと思われた。
シャルケは“格下”マリボル相手に精彩を欠いた。
しかし、ここ3試合負けなしのシャルケは思うような攻撃を見せられない。引いた相手を前に攻めあぐね、クロスから強引にシュートを狙いに行く場面が目立った。決定機と呼べるのは、26分のフクスのアーリークロスにファーサイドでボアテンクが頭で合わせたシーンくらい。これもゴール右に外れてしまった。
逆にマリボルは、前線に2人を残し、それ以外の選手が自陣の低い位置に下がって守備を固め、カウンターを狙った。クリアボールを2トップがしっかり収められていたため、前半に狙い通りのサッカーが出来ていたのはむしろ、マリボルの方だった。
すると、37分には速攻からのダイレクトパス交換で左サイドを破ると、クロスにボハルが合わせてマリボルに先制ゴールが生まれる。こうして、力の劣るマリボルが1点をリードして試合はハーフタイムを迎えた。
そんなシャルケ劣勢の中で後半開始とともに、ピッチに送り込まれたのが内田だった。
後半開始から投入された内田が意識したテンポ。
「0−1で負けていて、サイドバックのオレがなぜ試合に入るのかと考えたときに、組み立ての役目をするんだろうと思いました。点を獲りたいだけなら前の選手を入れるでしょうし。オレが入るのはたぶん、組み立てとボールを落ち着かせるということなのかなと」
内田が意識したのは、パスを回すテンポを上げつつ、攻撃の中心であるフンテラールを活かすということだった。
「前半に出ていたわけではないので何とも言えないのですが」と前置きしつつ、シャルケの攻撃が相手の脅威になっていなかったのはテンポにあったと考えていた。
「もっと、ポンポンはたけばいいのにと思っていた。余裕がある分、持ちすぎてしまうので。そうすると、相手にも(パスカットを)狙われてしまうから」
そして、テンポを上げていくために考えていたのが、チームの攻撃の中心であるフンテラールへパスを出すことだった。近くにいる右MFやトップ下の選手へパスを出していくと、相手守備陣の動く距離も短く対応しやすい。さらに遠いところにいるフンテラールにボールを預けることで、相手の守備はずれ、攻撃はスピードアップしていく。
「シャルケの攻撃の中心は彼だから。彼がボールを収められれば、散らしてくれる。だから、多少きつくても、フンテラールの足元に当てたいという思いはありました」
まるでボランチのようなボールさばきと展開力。
試合に入ってからの内田は、ボールを呼び込むと、素早くそれをさばいていった。もちろん、縦方向のパスだけではなく、逆サイドへ展開するシーンもあった。まるでボランチの選手のようにボールを散らしていった。
実際、立て続けにフンテラールへパスを通したことで、シャルケの攻撃はスピード感を増していく。しかも、試合に出場してから最初の20分で11本のパスを出し、そのうち10本を通していた。
その姿勢が後半11分に実る。内田からの横パスを受けたチョウポ・モティンクがしかけ、こぼれたボールを相手がクリアミス。これを拾ったフンテラールが左隅に決めて、同点ゴールが生まれた。
的確なオーバーラップを仕掛けつつ周囲を鼓舞した。
さらに後半15分には、サイドバックらしく、右MFのチョウポ・モティンクが高い位置でボールを持つと、その外側をオーバーラップ。そこでパスを引き出すと、ゴールライン手前へグラウンダーのクロスを送った。ファーサイドで受けたドラクスラーがトラップしてから放ったシュートは相手GKの正面をついてしまったが、確実にリズムは上がっていった。
他にも相手陣内の深い位置で、相手ボールのスローインとなると周囲に声を出して、高い位置からプレッシャーをかけるように指示を送る。同点のまま試合が続いていた後半37分には両手を叩いて、味方を鼓舞するシーンも見られた。実際のプレーのみならず、一つひとつアクションでも周囲を動かそうとするシーンは、ゲームを操るボランチのようだった。
「パスをくれと思っている」姿勢が示すボールタッチ数。
「シャルケにいるときには、どんどんパスをくれと思っている」
以前、内田はそのように語っていたが、まさにそうした姿勢を見せていた。実際、内田は復帰してから2つのリーグ戦ではいずれもチーム最多のボールタッチを記録しており、身体を張った守備だけではなく、攻撃の組み立てでもチームの中心となっているのだ。
もう一つ見逃せないのは、ボールを収める選手が出て、ミスも少なくなったため、後半になると悪い形でボールを奪われて、カウンターを受けるシーンが激減したことだった。
しかし、シャルケの選手たちからは連戦でたまった疲労の色が見えていたし、マリボルが最後まで集中を切らさなかったこともあり、その後に追加点は奪えず。結局、試合は1−1の引き分けで終わってしまった。
「次の試合で勝てないようだと厳しいと思う」
内田は試合後に、こう語った。
「自分たちのホームで勝ち点3を取っていかないと、後々、苦しむのは目に見えていますから。次の試合(ホームで行なわれるスポルティング戦)で勝てないようだと厳しいと思う」
今シーズンはバイエルンやチェルシーと引き分け、ドルトムントに勝つなど、力のある相手に対してはまずますの試合をするものの、力の差がある相手からしっかり勝ち点を獲ることが出来てない。この試合の前半で見えた課題は、この試合で急にわきあがったものではないのだ。
この試合で見せたようなプレーを続けていくことで、攻撃のリズムを作る。それこそが、ドイツに来てから守備での成長を目指してきた内田に求められる新たな役割なのではないだろうか。

今朝のCLマリボルの篤人について記すNumberのミムラ氏である。
「サイドバックのオレがなぜ試合に入るのかと考えたときに、組み立ての役目をするんだろうと思いました」と語る篤人にクレバーなサッカー頭脳を感じさせる。
そして、まるでボランチの選手のようにボールを散らしたプレイは、篤人の1ランク上の存在を感じさせられる。
以前、篤人が藤田氏との対談にて語ったように、日本復帰時はボランチとして凱旋するやも知れぬ。
ブンデスリーガにて右SBで活躍し、Jリーグでボランチとして躍動する背番号2。
これは鹿島のレジェンドとしてまた歴史に名を刻むこととなろう。
ボランチ・篤人を夢見て、欧州にて右SBとして躍動する姿を応援したい。
楽しみにしておる。
流れを変えた“ボランチ的”センス。
ミムラユウスケ = 文
text by Yusuke Mimura
photograph by AFLO
2週間前、チェルシーとのCLの初戦に挑む前とはずいぶん異なる状況で、シャルケはCLの第2節を迎えた。
ブンデス開幕3試合で1分け2敗だった2週間前、次の試合に負ければケラー監督の解任は避けられない状態にあったが、チェルシーに引き分け、ブレーメンから今季初勝利をつかむと、3日前には宿敵ドルトムントとのレヴィアーダービーを制した。
その勢いに乗って、ホームでマリボルを倒すというのがシャルケの目論見だった。
「内田のように長期離脱していた選手が4日間で2試合を戦ったのだから休みを与えようとするのは当然のことだ」
試合前日の記者会見でケラー監督はそのように語り、内田篤人はベンチで試合開始のホイッスルを聞くことになった。
スロベニアリーグから参戦しているマリボルはグループGの中でもっとも力の劣るチームだ。そんなチームとのホームゲームなのだから、シャルケが優位に試合を進めることは疑いようがないと思われた。
シャルケは“格下”マリボル相手に精彩を欠いた。
しかし、ここ3試合負けなしのシャルケは思うような攻撃を見せられない。引いた相手を前に攻めあぐね、クロスから強引にシュートを狙いに行く場面が目立った。決定機と呼べるのは、26分のフクスのアーリークロスにファーサイドでボアテンクが頭で合わせたシーンくらい。これもゴール右に外れてしまった。
逆にマリボルは、前線に2人を残し、それ以外の選手が自陣の低い位置に下がって守備を固め、カウンターを狙った。クリアボールを2トップがしっかり収められていたため、前半に狙い通りのサッカーが出来ていたのはむしろ、マリボルの方だった。
すると、37分には速攻からのダイレクトパス交換で左サイドを破ると、クロスにボハルが合わせてマリボルに先制ゴールが生まれる。こうして、力の劣るマリボルが1点をリードして試合はハーフタイムを迎えた。
そんなシャルケ劣勢の中で後半開始とともに、ピッチに送り込まれたのが内田だった。
後半開始から投入された内田が意識したテンポ。
「0−1で負けていて、サイドバックのオレがなぜ試合に入るのかと考えたときに、組み立ての役目をするんだろうと思いました。点を獲りたいだけなら前の選手を入れるでしょうし。オレが入るのはたぶん、組み立てとボールを落ち着かせるということなのかなと」
内田が意識したのは、パスを回すテンポを上げつつ、攻撃の中心であるフンテラールを活かすということだった。
「前半に出ていたわけではないので何とも言えないのですが」と前置きしつつ、シャルケの攻撃が相手の脅威になっていなかったのはテンポにあったと考えていた。
「もっと、ポンポンはたけばいいのにと思っていた。余裕がある分、持ちすぎてしまうので。そうすると、相手にも(パスカットを)狙われてしまうから」
そして、テンポを上げていくために考えていたのが、チームの攻撃の中心であるフンテラールへパスを出すことだった。近くにいる右MFやトップ下の選手へパスを出していくと、相手守備陣の動く距離も短く対応しやすい。さらに遠いところにいるフンテラールにボールを預けることで、相手の守備はずれ、攻撃はスピードアップしていく。
「シャルケの攻撃の中心は彼だから。彼がボールを収められれば、散らしてくれる。だから、多少きつくても、フンテラールの足元に当てたいという思いはありました」
まるでボランチのようなボールさばきと展開力。
試合に入ってからの内田は、ボールを呼び込むと、素早くそれをさばいていった。もちろん、縦方向のパスだけではなく、逆サイドへ展開するシーンもあった。まるでボランチの選手のようにボールを散らしていった。
実際、立て続けにフンテラールへパスを通したことで、シャルケの攻撃はスピード感を増していく。しかも、試合に出場してから最初の20分で11本のパスを出し、そのうち10本を通していた。
その姿勢が後半11分に実る。内田からの横パスを受けたチョウポ・モティンクがしかけ、こぼれたボールを相手がクリアミス。これを拾ったフンテラールが左隅に決めて、同点ゴールが生まれた。
的確なオーバーラップを仕掛けつつ周囲を鼓舞した。
さらに後半15分には、サイドバックらしく、右MFのチョウポ・モティンクが高い位置でボールを持つと、その外側をオーバーラップ。そこでパスを引き出すと、ゴールライン手前へグラウンダーのクロスを送った。ファーサイドで受けたドラクスラーがトラップしてから放ったシュートは相手GKの正面をついてしまったが、確実にリズムは上がっていった。
他にも相手陣内の深い位置で、相手ボールのスローインとなると周囲に声を出して、高い位置からプレッシャーをかけるように指示を送る。同点のまま試合が続いていた後半37分には両手を叩いて、味方を鼓舞するシーンも見られた。実際のプレーのみならず、一つひとつアクションでも周囲を動かそうとするシーンは、ゲームを操るボランチのようだった。
「パスをくれと思っている」姿勢が示すボールタッチ数。
「シャルケにいるときには、どんどんパスをくれと思っている」
以前、内田はそのように語っていたが、まさにそうした姿勢を見せていた。実際、内田は復帰してから2つのリーグ戦ではいずれもチーム最多のボールタッチを記録しており、身体を張った守備だけではなく、攻撃の組み立てでもチームの中心となっているのだ。
もう一つ見逃せないのは、ボールを収める選手が出て、ミスも少なくなったため、後半になると悪い形でボールを奪われて、カウンターを受けるシーンが激減したことだった。
しかし、シャルケの選手たちからは連戦でたまった疲労の色が見えていたし、マリボルが最後まで集中を切らさなかったこともあり、その後に追加点は奪えず。結局、試合は1−1の引き分けで終わってしまった。
「次の試合で勝てないようだと厳しいと思う」
内田は試合後に、こう語った。
「自分たちのホームで勝ち点3を取っていかないと、後々、苦しむのは目に見えていますから。次の試合(ホームで行なわれるスポルティング戦)で勝てないようだと厳しいと思う」
今シーズンはバイエルンやチェルシーと引き分け、ドルトムントに勝つなど、力のある相手に対してはまずますの試合をするものの、力の差がある相手からしっかり勝ち点を獲ることが出来てない。この試合の前半で見えた課題は、この試合で急にわきあがったものではないのだ。
この試合で見せたようなプレーを続けていくことで、攻撃のリズムを作る。それこそが、ドイツに来てから守備での成長を目指してきた内田に求められる新たな役割なのではないだろうか。

今朝のCLマリボルの篤人について記すNumberのミムラ氏である。
「サイドバックのオレがなぜ試合に入るのかと考えたときに、組み立ての役目をするんだろうと思いました」と語る篤人にクレバーなサッカー頭脳を感じさせる。
そして、まるでボランチの選手のようにボールを散らしたプレイは、篤人の1ランク上の存在を感じさせられる。
以前、篤人が藤田氏との対談にて語ったように、日本復帰時はボランチとして凱旋するやも知れぬ。
ブンデスリーガにて右SBで活躍し、Jリーグでボランチとして躍動する背番号2。
これは鹿島のレジェンドとしてまた歴史に名を刻むこととなろう。
ボランチ・篤人を夢見て、欧州にて右SBとして躍動する姿を応援したい。
楽しみにしておる。