時代が移り変わっても、鹿島はいつも優勝争いを演じている
【蹴球日本を考える】「元に戻った」鹿島が示す、なにより大事なサッカーの本質
熊崎敬
2015年09月20日
鹿島の「穴熊」対策は、カンボジア戦の日本代表に欠けていたものだった。

多彩な攻撃で揺さぶりをかけ、最後は金崎(33)のヘッドでゴールを割る。鹿島のしたたかさは、甲府戦でも存分に発揮されていた。(C)J.LEAGUE PHOTOS
シルバーウィークの初日、鹿島が1-0で甲府を退けた一戦を観た。
最少得点差だったが、完勝と言って良い内容だった。
追加点のチャンスは逃したものの、前半からボールを支配して敵陣に攻め込み、甲府が巻き返しに出てきた後半もほとんど決定的なチャンスを許さなかった。
このところ鹿島のゲームを観る機会が多いが、そのなかではそれほど面白い試合だったわけではない。
調子の良い時の鹿島は両サイドの深いところでパスとドリブルを織り交ぜ、敵を大きく揺さぶるような嫌らしい攻めを見せる。だが、この日は甲府が5−4−1という布陣でスペースを消してきたため、右の遠藤、左のカイオは窮屈なプレーを強いられた。
苦労したサイドに代わって、攻撃を活性化したのが小笠原と柴崎の2ボランチだ。
大きなサイドチェンジ、ショートパスの応酬、絶妙なスルーパス、果敢なドリブル突破と、「穴熊」対策のアイデアを次々と繰り出し、流れを呼び込んだ。その多彩な攻めは、カンボジア戦の日本代表に欠けていたものでもあった。
生まれたゴールはひとつだけ。だが鹿島の攻撃を観ていると、それがゴールという目的を達成するために行なっているものだということが、良く分かる。
悪いチームの攻撃は得てしてワンパターンに陥りがちだが、鹿島の場合は決してそうはならない。リズム、スピード、ルート、球質、角度など、あらゆるものに変化をつけることで、彼らは心理的、肉体的に敵を揺さぶろうとする。
敵と駆け引きしながら、手の内に忍ばせた複数のカードを効果的に見せていく。このあたりのしたたかさは、鹿島の伝統といってもいい。
この伝統について、試合後の記者会見で石井監督に尋ねると、興味深い答えが返ってきた。
ブームを追いかけまわしても、結局、なにひとつ得られない。

小笠原らが受け継いできた勝利への厳しさが、今の鹿島の好調を支えている。(C)J.LEAGUE PHOTOS
「自分が監督になり、チームが変わったというより、元に戻ったという表現のほうが合っていると思う」
もうひとつ突っ込んで、具体的にはなにを大事にしているか尋ねてみた。
「それは最低限、戦う姿勢を見せるということです。そして球際ではしっかり勝つことを大事にしている。あとは選手自身が“自分たちがやらなければならない”という気持ちを持っていることが大きいと思う。勝負へのこだわりがあるんです」
ひと言でいえば、ジーコ時代から脈々と受け継がれてきた勝利への厳しさが、今の勝利をもたらしているということだ。
私は、鹿島は日本でも稀有なチームだと考えている。それは多少の浮き沈みはありながらも、Jリーグ20年の歴史で常にタイトル争いを繰り広げているからだ。
こういうチームは他にはない。東京V、磐田、横浜、浦和、名古屋など多くのチームが頂点に立ったが、いわゆる「黄金メンバー」が抜けていくと弱体化を余儀なくされた。
だが時代が移り変わっても、鹿島はいつも優勝争いを演じている。それはしっかりと築き上げられた哲学、精神を、新しい世代に受け継ぐことができているからだ。石井監督が述べたように、彼らには困った時に立ち返る場所がある。こういう組織は強い。
思えば日本サッカー界では、トルシエのフラット3やオシムの走るサッカー、ハリルホジッチの縦のサッカーなど、4年周期で方向性が大きく変わる。しっかりとした自分がないため、大きな舞台で敗れるたびに右往左往しているのだ。ブームを追いかけまわして、結局、なにひとつ得てはいない。
最先端を知るのは重要なことだ。日本らしさの追求も忘れてはならない。だが、サッカーの本質、勝負の本質をしっかりと理解するのは、もっと大事なことではないだろうか。
鹿島の戦いぶりは、そういうことを雄弁に物語っている。
取材・文:熊崎敬
甲府と鹿島の試合を観戦したサッカーダイジェストの熊崎氏である。
「それほど面白い試合だったわけではない」と言い切る。
引き籠もった相手を崩しきれぬゲームを楽しむのは難しいもの。
プロにもそのように見えるということが伝わってきて興味深い。
そして、「私は、鹿島は日本でも稀有なチームだと考えている。それは多少の浮き沈みはありながらも、Jリーグ20年の歴史で常にタイトル争いを繰り広げているからだ」とも言う。
常にタイトル争いをし続ける要因の一つとして、「しっかりと築き上げられた哲学、精神を、新しい世代に受け継ぐことができている」と伝えておる。
これが鹿島の伝統ということであろう。
熊崎氏は、この伝統の継続を是としておる。
これからも鹿島は鹿島であり続ける。
その鹿島を応援していきたい。
熊崎敬
2015年09月20日
鹿島の「穴熊」対策は、カンボジア戦の日本代表に欠けていたものだった。

多彩な攻撃で揺さぶりをかけ、最後は金崎(33)のヘッドでゴールを割る。鹿島のしたたかさは、甲府戦でも存分に発揮されていた。(C)J.LEAGUE PHOTOS
シルバーウィークの初日、鹿島が1-0で甲府を退けた一戦を観た。
最少得点差だったが、完勝と言って良い内容だった。
追加点のチャンスは逃したものの、前半からボールを支配して敵陣に攻め込み、甲府が巻き返しに出てきた後半もほとんど決定的なチャンスを許さなかった。
このところ鹿島のゲームを観る機会が多いが、そのなかではそれほど面白い試合だったわけではない。
調子の良い時の鹿島は両サイドの深いところでパスとドリブルを織り交ぜ、敵を大きく揺さぶるような嫌らしい攻めを見せる。だが、この日は甲府が5−4−1という布陣でスペースを消してきたため、右の遠藤、左のカイオは窮屈なプレーを強いられた。
苦労したサイドに代わって、攻撃を活性化したのが小笠原と柴崎の2ボランチだ。
大きなサイドチェンジ、ショートパスの応酬、絶妙なスルーパス、果敢なドリブル突破と、「穴熊」対策のアイデアを次々と繰り出し、流れを呼び込んだ。その多彩な攻めは、カンボジア戦の日本代表に欠けていたものでもあった。
生まれたゴールはひとつだけ。だが鹿島の攻撃を観ていると、それがゴールという目的を達成するために行なっているものだということが、良く分かる。
悪いチームの攻撃は得てしてワンパターンに陥りがちだが、鹿島の場合は決してそうはならない。リズム、スピード、ルート、球質、角度など、あらゆるものに変化をつけることで、彼らは心理的、肉体的に敵を揺さぶろうとする。
敵と駆け引きしながら、手の内に忍ばせた複数のカードを効果的に見せていく。このあたりのしたたかさは、鹿島の伝統といってもいい。
この伝統について、試合後の記者会見で石井監督に尋ねると、興味深い答えが返ってきた。
ブームを追いかけまわしても、結局、なにひとつ得られない。

小笠原らが受け継いできた勝利への厳しさが、今の鹿島の好調を支えている。(C)J.LEAGUE PHOTOS
「自分が監督になり、チームが変わったというより、元に戻ったという表現のほうが合っていると思う」
もうひとつ突っ込んで、具体的にはなにを大事にしているか尋ねてみた。
「それは最低限、戦う姿勢を見せるということです。そして球際ではしっかり勝つことを大事にしている。あとは選手自身が“自分たちがやらなければならない”という気持ちを持っていることが大きいと思う。勝負へのこだわりがあるんです」
ひと言でいえば、ジーコ時代から脈々と受け継がれてきた勝利への厳しさが、今の勝利をもたらしているということだ。
私は、鹿島は日本でも稀有なチームだと考えている。それは多少の浮き沈みはありながらも、Jリーグ20年の歴史で常にタイトル争いを繰り広げているからだ。
こういうチームは他にはない。東京V、磐田、横浜、浦和、名古屋など多くのチームが頂点に立ったが、いわゆる「黄金メンバー」が抜けていくと弱体化を余儀なくされた。
だが時代が移り変わっても、鹿島はいつも優勝争いを演じている。それはしっかりと築き上げられた哲学、精神を、新しい世代に受け継ぐことができているからだ。石井監督が述べたように、彼らには困った時に立ち返る場所がある。こういう組織は強い。
思えば日本サッカー界では、トルシエのフラット3やオシムの走るサッカー、ハリルホジッチの縦のサッカーなど、4年周期で方向性が大きく変わる。しっかりとした自分がないため、大きな舞台で敗れるたびに右往左往しているのだ。ブームを追いかけまわして、結局、なにひとつ得てはいない。
最先端を知るのは重要なことだ。日本らしさの追求も忘れてはならない。だが、サッカーの本質、勝負の本質をしっかりと理解するのは、もっと大事なことではないだろうか。
鹿島の戦いぶりは、そういうことを雄弁に物語っている。
取材・文:熊崎敬
甲府と鹿島の試合を観戦したサッカーダイジェストの熊崎氏である。
「それほど面白い試合だったわけではない」と言い切る。
引き籠もった相手を崩しきれぬゲームを楽しむのは難しいもの。
プロにもそのように見えるということが伝わってきて興味深い。
そして、「私は、鹿島は日本でも稀有なチームだと考えている。それは多少の浮き沈みはありながらも、Jリーグ20年の歴史で常にタイトル争いを繰り広げているからだ」とも言う。
常にタイトル争いをし続ける要因の一つとして、「しっかりと築き上げられた哲学、精神を、新しい世代に受け継ぐことができている」と伝えておる。
これが鹿島の伝統ということであろう。
熊崎氏は、この伝統の継続を是としておる。
これからも鹿島は鹿島であり続ける。
その鹿島を応援していきたい。