小笠原満男、ボランチが“怖がる”と、チームは機能しない
【鹿島インタビュー】小笠原満男が語る理想のボランチ像。「(柴崎岳は)あの年齢にしてはちょっと落ち着き過ぎてますね(笑)」
増山直樹(サッカーダイジェスト)
2015年10月22日
「ボランチが“怖がる”と、チームは機能しない」

中盤で攻守に絡まなくてはならないボランチは、「自分がこうしたい」ではなく、「流れを読んで、どこでなにをすべきかを観察する」ことが重要だという。写真:徳原隆元
残り3試合とクライマックスが迫るJ1第2ステージ。石井監督の就任以降、飛躍的に成績を伸ばす鹿島は、首位の広島と勝点31で並ぶ2位に付けている。復活した常勝軍団が目指すのは、ステージ制覇とその先のチャンピオンシップ。不動の要として中盤で存在感を放つ小笠原満男が、自身のポジション=ボランチの重要性と理想像について、私見を語ってくれた。
――◆――◆――◆――
――ボランチとひと言で言っても、そのプレーには様々なイメージがあります。
「ボランチは、特に多くの要素が求められるポジションです。攻守両面で働くのはもちろん、全体を見渡してチームのバランスも考えなきゃいけない。時には前線に出て得点に絡んだり、声を掛けて周りを動かす必要もあります」
――まさにチームの心臓、頭脳と言えますね。
「360度全方向からプレッシャーを受けるし……。本当に頭を使うポジションですね」
――なかでも、重きを置いている仕事はありますか?
「自分が大事にしているのは、試合の状況を読んで、それに応じて的確にプレーすること。FWであれば点を取る、DFなら対峙した相手を封じ込めて失点をゼロにするといった明確な役割がありますが、ボランチは点を狙いに行くだけ、守るだけじゃダメですから」
――具体的に言うと?
「パスにしても、無難な横パスだけでなくスイッチを入れる縦パスが必要になる。当然、守備で強く当たるべきシーンもあります。試合の点差や相手の状況まで頭に入れて、効果的なプレーを選択する。『自分がこうしたい』じゃなく、流れを読んで、どこでなにをすべきかを観察するってことですね」
――では逆に、ボランチとしてやってはいけないプレーは?
「怖がることかな。ミスを恐れてボールを受けないとか、五分五分のボールにビビって飛び込まないとか。そこで怖がってボランチが機能しないと、チームは勝てない」
――相手のボランチが機能しないようにするのも、仕事のひとつですね。
「そこは相手を見ます。例えば足もとが上手くてパスをさばけるキーマンにはボールを触らせないようにするし、あえてボールを持たせる選手もいる。そこは全員に同じように対応するんじゃなくて、相手の機能性を落とすように仕向けます」
――例えば、第2ステージ12節の浦和戦(1-2)では、試合の状況に応じて柴崎選手と横ではなく縦に並ぶなど、相手を牽制しているなと感じました。
「実際に柴崎とも話をしましたし、感覚的に動いた部分もあります。あまり戦術的な話はできませんが、ボランチの位置取りは状況に応じて変えていますね。浦和戦では後半に向こうがシステムや配置を変えてきて、ウチも対応する必要があった。そこは周りの選手と話して、相手が嫌がることをやってこっちの良さが出せるように考えています」
「伊達に試合を重ねていない。“引き出し”は作ってきた」

コーチングで周囲を動かすのもボランチの仕事。試合の状況に応じて自身のプレーを変えつつ、「声で周りを動かせるボランチがいるのは、攻守において重要」だ。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)
――常に微調整しているんですね。
「よく“自分たちのスタイル”って言いますけど、それがハマらなかったり、相手のほうが上手く行っている時間帯は必ずある。そこで微調整して変化を付けられるのは、アントラーズの強みでもあると思います。まずは自分たちのスタイルで押し切ろうとするけど、それが上手く行かない時でも対応する術を持っているチームです」
――状況に対応する術は練習で身に付くものでしょうか?
「感覚的なものが大きいかな。あとはやっぱり、自分としては伊達に試合数を重ねていないんで。リーグ、天皇杯、ナビスコカップ、五輪代表や日本代表。満員の国立で勝てば優勝、負ければなにも残らないといったタイトルが懸かった状況……。いろんなケース、シチュエーションで、何試合やらせてもらったか分からない。どうすれば勝てるという絶対的なものはないけど、そのなかで『こうやれば上手く行くんじゃないかな』という“引き出し”は作ってきたし、そこは俺らがやるべき仕事だと思っています」
――その引き出し作りは、チームの中心である小笠原選手というキャラクターだけでなく、ボランチというポジションに求められる役割でもあると思います。
「そういう“サッカーを知っている選手”がボランチにいるのは、チームにとって大きい。強いチームには、中心にどっしりと構える選手がいます。例えば、0-1から失点して0-2になった時には、1点差の戦い方はできないわけで。だからと言って、いちいち監督に指示を仰ぐ暇はない。そこは自分たちで対応すべきです。試合の状況が変われば、プレーも変化させなければいけない。それを自分でできて、声で周りを動かせるボランチがいるのは、攻守において重要です」
――以前の小笠原選手は、攻撃的なポジションで活躍していました。今のスタイルへのターニングポイントとなったのは、やはりセリエA挑戦でしょうか?
「そうですね。俺が06年から約1年プレーしたメッシーナは、最終的には2部に落ちたように“勝てないチーム”でした。だから当然、自分たちがボールを持てる時間は少なかった。セカンドボールを拾ったり、カウンターを潰したりして、そこからサッカーが始まりましたから。そのなかで中盤に求められたのは、まずは守備をしてボールを奪う仕事。生き残るためには守備をするしかなかったし、そこで守備のほとんどを学んだと思います」
――まさにボランチに近付いていった感じですね。
「自分に足りなかったものを勉強させてもらいました。それまではとにかく点に絡みたかったし、ゴール前で仕事がしたかった。でも、当時はまったく逆の部分を求められていたので。イタリアの選手は相手を潰すのが上手いから、学ぶところは多かったですね」
――攻撃的MFにはない、ボランチの楽しみを見つけた?
「それはあります。相手からボールを奪う感覚っていうか。向こうのチャンスの時、ボールを追うだけでズルズル下がるのと、食い止めてこっちの攻撃につなげられるのとでは、本当に大きな差が出る。自分たちのピンチを、一気にチャンスへと変えるようなプレー。そこに快感を覚えるようになりました」
「(柴崎は)もっと我が強くて“ヤンチャ”くらいでいい」

鹿島でボランチコンビを組む柴崎には、期待を込めて「代表でポジションを取って、日本を引っ張って行くような選手になってほしい」とハッパをかける。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)
――ボランチとしての理想像は?
「チームを勝たせられる選手ですね。自分が点を取りたいとか、そういうのは薄れてきました。SBが上がった後のスペースを埋めたり、チームとして前から圧力を掛け、その後ろでボールを奪ったりとか。どうしたら相手が嫌がるか、どうしたら勝てるかばかりを考えています。それと、日本では運動量ばかりがフォーカスされがちですが、自分が長く指導を受けたトニーニョ・セレーゾ監督はよく、『動き過ぎるな』という表現を使いました。要するに、ただ動き回っていては逆に守備の穴が空いてしまうと。基本的には肝心な場所にいなきゃいけないし、行くなら仕事をして終わるのがボランチです。攻撃に出る時は、確実にチャンスに絡むか最低でもシュートで終わらないとダメ。守備でもそうですが、大切なのは走りの質です。効果的に動かないと意味がありません」
――鹿島でボランチコンビを組む柴崎選手も「勝たせられる選手」を目標に掲げていました。小笠原選手にとって、柴崎選手はどう映っているのでしょうか?
「非常に賢い選手。だけど、あの年齢にしてはちょっと落ち着き過ぎてますね(笑)。もっと我が強くて“ヤンチャ”くらいでいいと思います」
――若い頃の小笠原選手みたいに?
「それだと、我が強過ぎる(笑)。でも、あいつはもっとできるし、自分で考えてやれる。だからこそ、若いうちは無茶をしてもいい。自分の20代前半の頃と比べても、大人だな、と。当時の俺はボランチより前のポジションだったけど、周りから怒られても無茶していた。それに比べると、柴崎はだいぶ大人ですよね。もっと要求していいと思う」
――「俺にボールを寄こせ!」みたいな?
「少しずつそういった面も出てきていますけどね。近くで見ている分、あいつには期待してるし、代表でポジションを取って、日本を引っ張って行くような選手になってほしい。まだまだできる選手なんで」
――柴崎選手以外に、ボランチとして印象的な選手はいますか?
「プロに入ってまず印象深かったのが、本田(泰人/元鹿島)さん。どんなボールも絡み取ってくるし、とにかく奪いに来るから。ああいうボランチは、敵に回すと嫌だなと感じました。あと、ボールを動かすのが上手かったのは名波(浩/磐田監督)さんかな。単純に当時のジュビロは強かったけど、怖いのはやはり中盤、特に名波さんの配球が肝でしたから」
「日本が世界に勝つには、まずボールを奪えなきゃいけない」

「似たような選手」が増えてきた現在の状況を憂う小笠原は、名波(7)のような”怖い選手”が必要だと訴える。写真:サッカーダイジェスト
――90年代後半から2000年代前半の鹿島と磐田は、国内2強でした。
「あの時の名波さんは嫌らしかったですね。とにかく、いなし方が抜群に上手いんです。今の選手って、相手がプレッシャーに来ると蹴っちゃうケースが少なくないけど、名波さんは奪いに行ってもかわしてくる。そして、こっちの嫌な場所に配球する。本当にサッカーをよく知っている選手だな、と。年下の俺が言うのもあれですけど」
――海外の選手、または現役選手では誰か思い当たりますか?
「海外サッカーは、あまり見ませんから……。今のJリーグの選手は、『走ります』とか『頑張ります』が売りの選手が多すぎて、本当に“怖い”選手ってなかなかいませんよね。今のサッカーのスタイルでもあるんでしょうが、監督が絶対に抑えたいと感じるような、マンツーマンでマークせざるを得ないような選手がいない。言ってしまえば、みんな似たような選手。もっと自分のスタイルがあっていいんじゃないかな」
――昔の名波選手みたいな?
「そう。海外でいえばガットゥーゾ(元イタリア代表)とかね。足もとは全然上手くないんだけど、相手を全力で潰すような。ああいう個性的な選手は好きです。日本人でも潰し屋タイプが出てきていいですよね。今はどうしてもボール扱いが重視されるから、奪える選手が減っている」
――今の日本には、上手いだけの選手が増えたとも言われますね。
「多いですね。この先、日本が世界の強豪に勝つには、まずボールを奪えなきゃいけない。いくら上手い選手がいても、ボールを持てなければ意味ないんで。本当に強い国と戦う時には、ボールを奪える選手が必要になります」
――球際だったり、個の守備力の向上が必須だと?
「でも、いくら個人が守備力を上げても、1対1でアフリカや南米の選手に勝てるかって言ったら厳しいですよ。極端な話、メッシなんて向こうのトッププレーヤーでも止められないわけで。だからこそ、組織で追い込むことが大事になる。例えば相手のパスコースを限定して、3つからひとつに減らす。前から追い込んで、選択肢を奪っていく。最後は1対1ですけど、いかにグループで奪うかが大事で、それが日本の理想形じゃないかな」
――そのグループの中心にいるべきなのが、ボランチなのでしょうか。
「そうですね。周りを上手く動かして、やりやすい状況を作ってあげるのはボランチの仕事ですから」
「相手の嫌がることをして、逆を突く。将棋に近い感覚かもしれない」

本田泰人や秋田豊、柳沢敦らから受け継いできた”ジーコスピリッツ”を「下の選手につないでいく義務があります」。小笠原は伝道師として、これからも走り続ける。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)
――ボランチというポジションは気に入っていますか?
「ボランチをやり始めた頃はもっと前でやりたかったけど、今はボランチが面白い。狙いどおりに試合を運べて、思ったことを実現できた時は、本当に気持ちが良いんです。1-0で勝っていれば無理に攻めずにボールを回して、相手をおびき出してからカウンターで2点目を奪うとか。頭を使って自分たちの思いどおりに相手を動かせた時は、やっぱり最高ですね」
――そんなボランチになるための秘訣は?
「自分のケースは、鹿島の伝統があったからこそですね。さっき言ったような、相手の嫌なことをする、勝ちに徹するサッカーはアントラーズの持ち味でもあります。ジーコを筆頭に、本田さん、秋田(豊)さん、柳沢(敦)さんらが勝つ術を伝えてくれましたから。言ってしまえば、俺らはそれを真似しているだけ。だからこそ、その財産を下の選手につないでいく義務があります」
――鹿島の鈴木常務取締役は小笠原選手を「以前に在籍したサントスのようにチームのバランスが取れて、周りを安心させる存在感がある」と言っていました。どうすればそれを身に付けられるのでしょう?
「勝った試合、負けた試合があって、その都度いろんな人にいろんなことを教えられてきた。自分自身、そもそもこれほど長くアントラーズにいるなんて思ってなかったし、ここまで多くのタイトルを取れるとも思っていませんでした。周りの人の助けがあったからこそ、自分は今ここにいる。やっぱり、多くの勝利を積み重ねてきた先輩たちに教えてもらうのは、重みが違う。その助言が自分に染みついていて、たくさんの経験を積んできたのが大きいのではないでしょうか」
――チームのバランスを司るコツはありますか?
「言葉では言い表わせませんね。相手や状況に応じて、いろいろ試行錯誤して……。マークの付き方ひとつとっても、セカンドボールを拾いたければ相手の横か少し前にも出るし、後ろに味方が余っていれば前に入る。逆に後ろが手薄であれば、インターセプトより潰すことを重視する。常に360度を見回し、相手の嫌がることをして、逆を突く。それを考えています。将棋に近い感覚かもしれません」
――やはりボランチは頭を使うポジションですね。
「使うし、(流れを)読めなきゃいけないと思います」
――では最後に、小笠原選手が思うボランチの在り方とは?
「こうだ、って決めつけるべきではないと思う。でも、強みは持っていてほしい。全部が70点じゃなくて。どこか抜きん出た選手は魅力的ですから。今の若い人たちを見て感じるのは、攻撃でも守備でも、パッと見た時に目立つ選手が減っているということ。そういう選手がボランチで出てくれば、日本のサッカーはもっと面白くなると思います」
取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)
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PROFILE
おがさわら・みつお/1979年4月5日生まれ、岩手県出身。173センチ・72キロ。J1通算460試合・69得点。日本代表通算55試合・7得点。多彩なキックでチャンスを海、体感の強さと危機察知能力でピンチを潰す日本屈指のボランチ。代表、クラブで買うかずの経験を重ねた男のサッカー観は、成熟の極みにある。
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サッカーダイジェストの増山氏のインタビューに応じる小笠原満男である。
満男のボランチ像が朧気ながら浮かび上がってくる。
ボランチの楽しさ、難しさが伝わってくるようである。
2007年に戻ってきてより、ボランチとしてチームを司ってきた。
常にポジションを動かし、試合の流れを読む姿は、チームに欠くことが出来ぬ。
テレビ映像では追い切れぬ、満男の動きがある。
これからもチームに勝利をもたらせてくれるであろう。
信頼しておる。
増山直樹(サッカーダイジェスト)
2015年10月22日
「ボランチが“怖がる”と、チームは機能しない」

中盤で攻守に絡まなくてはならないボランチは、「自分がこうしたい」ではなく、「流れを読んで、どこでなにをすべきかを観察する」ことが重要だという。写真:徳原隆元
残り3試合とクライマックスが迫るJ1第2ステージ。石井監督の就任以降、飛躍的に成績を伸ばす鹿島は、首位の広島と勝点31で並ぶ2位に付けている。復活した常勝軍団が目指すのは、ステージ制覇とその先のチャンピオンシップ。不動の要として中盤で存在感を放つ小笠原満男が、自身のポジション=ボランチの重要性と理想像について、私見を語ってくれた。
――◆――◆――◆――
――ボランチとひと言で言っても、そのプレーには様々なイメージがあります。
「ボランチは、特に多くの要素が求められるポジションです。攻守両面で働くのはもちろん、全体を見渡してチームのバランスも考えなきゃいけない。時には前線に出て得点に絡んだり、声を掛けて周りを動かす必要もあります」
――まさにチームの心臓、頭脳と言えますね。
「360度全方向からプレッシャーを受けるし……。本当に頭を使うポジションですね」
――なかでも、重きを置いている仕事はありますか?
「自分が大事にしているのは、試合の状況を読んで、それに応じて的確にプレーすること。FWであれば点を取る、DFなら対峙した相手を封じ込めて失点をゼロにするといった明確な役割がありますが、ボランチは点を狙いに行くだけ、守るだけじゃダメですから」
――具体的に言うと?
「パスにしても、無難な横パスだけでなくスイッチを入れる縦パスが必要になる。当然、守備で強く当たるべきシーンもあります。試合の点差や相手の状況まで頭に入れて、効果的なプレーを選択する。『自分がこうしたい』じゃなく、流れを読んで、どこでなにをすべきかを観察するってことですね」
――では逆に、ボランチとしてやってはいけないプレーは?
「怖がることかな。ミスを恐れてボールを受けないとか、五分五分のボールにビビって飛び込まないとか。そこで怖がってボランチが機能しないと、チームは勝てない」
――相手のボランチが機能しないようにするのも、仕事のひとつですね。
「そこは相手を見ます。例えば足もとが上手くてパスをさばけるキーマンにはボールを触らせないようにするし、あえてボールを持たせる選手もいる。そこは全員に同じように対応するんじゃなくて、相手の機能性を落とすように仕向けます」
――例えば、第2ステージ12節の浦和戦(1-2)では、試合の状況に応じて柴崎選手と横ではなく縦に並ぶなど、相手を牽制しているなと感じました。
「実際に柴崎とも話をしましたし、感覚的に動いた部分もあります。あまり戦術的な話はできませんが、ボランチの位置取りは状況に応じて変えていますね。浦和戦では後半に向こうがシステムや配置を変えてきて、ウチも対応する必要があった。そこは周りの選手と話して、相手が嫌がることをやってこっちの良さが出せるように考えています」
「伊達に試合を重ねていない。“引き出し”は作ってきた」

コーチングで周囲を動かすのもボランチの仕事。試合の状況に応じて自身のプレーを変えつつ、「声で周りを動かせるボランチがいるのは、攻守において重要」だ。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)
――常に微調整しているんですね。
「よく“自分たちのスタイル”って言いますけど、それがハマらなかったり、相手のほうが上手く行っている時間帯は必ずある。そこで微調整して変化を付けられるのは、アントラーズの強みでもあると思います。まずは自分たちのスタイルで押し切ろうとするけど、それが上手く行かない時でも対応する術を持っているチームです」
――状況に対応する術は練習で身に付くものでしょうか?
「感覚的なものが大きいかな。あとはやっぱり、自分としては伊達に試合数を重ねていないんで。リーグ、天皇杯、ナビスコカップ、五輪代表や日本代表。満員の国立で勝てば優勝、負ければなにも残らないといったタイトルが懸かった状況……。いろんなケース、シチュエーションで、何試合やらせてもらったか分からない。どうすれば勝てるという絶対的なものはないけど、そのなかで『こうやれば上手く行くんじゃないかな』という“引き出し”は作ってきたし、そこは俺らがやるべき仕事だと思っています」
――その引き出し作りは、チームの中心である小笠原選手というキャラクターだけでなく、ボランチというポジションに求められる役割でもあると思います。
「そういう“サッカーを知っている選手”がボランチにいるのは、チームにとって大きい。強いチームには、中心にどっしりと構える選手がいます。例えば、0-1から失点して0-2になった時には、1点差の戦い方はできないわけで。だからと言って、いちいち監督に指示を仰ぐ暇はない。そこは自分たちで対応すべきです。試合の状況が変われば、プレーも変化させなければいけない。それを自分でできて、声で周りを動かせるボランチがいるのは、攻守において重要です」
――以前の小笠原選手は、攻撃的なポジションで活躍していました。今のスタイルへのターニングポイントとなったのは、やはりセリエA挑戦でしょうか?
「そうですね。俺が06年から約1年プレーしたメッシーナは、最終的には2部に落ちたように“勝てないチーム”でした。だから当然、自分たちがボールを持てる時間は少なかった。セカンドボールを拾ったり、カウンターを潰したりして、そこからサッカーが始まりましたから。そのなかで中盤に求められたのは、まずは守備をしてボールを奪う仕事。生き残るためには守備をするしかなかったし、そこで守備のほとんどを学んだと思います」
――まさにボランチに近付いていった感じですね。
「自分に足りなかったものを勉強させてもらいました。それまではとにかく点に絡みたかったし、ゴール前で仕事がしたかった。でも、当時はまったく逆の部分を求められていたので。イタリアの選手は相手を潰すのが上手いから、学ぶところは多かったですね」
――攻撃的MFにはない、ボランチの楽しみを見つけた?
「それはあります。相手からボールを奪う感覚っていうか。向こうのチャンスの時、ボールを追うだけでズルズル下がるのと、食い止めてこっちの攻撃につなげられるのとでは、本当に大きな差が出る。自分たちのピンチを、一気にチャンスへと変えるようなプレー。そこに快感を覚えるようになりました」
「(柴崎は)もっと我が強くて“ヤンチャ”くらいでいい」

鹿島でボランチコンビを組む柴崎には、期待を込めて「代表でポジションを取って、日本を引っ張って行くような選手になってほしい」とハッパをかける。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)
――ボランチとしての理想像は?
「チームを勝たせられる選手ですね。自分が点を取りたいとか、そういうのは薄れてきました。SBが上がった後のスペースを埋めたり、チームとして前から圧力を掛け、その後ろでボールを奪ったりとか。どうしたら相手が嫌がるか、どうしたら勝てるかばかりを考えています。それと、日本では運動量ばかりがフォーカスされがちですが、自分が長く指導を受けたトニーニョ・セレーゾ監督はよく、『動き過ぎるな』という表現を使いました。要するに、ただ動き回っていては逆に守備の穴が空いてしまうと。基本的には肝心な場所にいなきゃいけないし、行くなら仕事をして終わるのがボランチです。攻撃に出る時は、確実にチャンスに絡むか最低でもシュートで終わらないとダメ。守備でもそうですが、大切なのは走りの質です。効果的に動かないと意味がありません」
――鹿島でボランチコンビを組む柴崎選手も「勝たせられる選手」を目標に掲げていました。小笠原選手にとって、柴崎選手はどう映っているのでしょうか?
「非常に賢い選手。だけど、あの年齢にしてはちょっと落ち着き過ぎてますね(笑)。もっと我が強くて“ヤンチャ”くらいでいいと思います」
――若い頃の小笠原選手みたいに?
「それだと、我が強過ぎる(笑)。でも、あいつはもっとできるし、自分で考えてやれる。だからこそ、若いうちは無茶をしてもいい。自分の20代前半の頃と比べても、大人だな、と。当時の俺はボランチより前のポジションだったけど、周りから怒られても無茶していた。それに比べると、柴崎はだいぶ大人ですよね。もっと要求していいと思う」
――「俺にボールを寄こせ!」みたいな?
「少しずつそういった面も出てきていますけどね。近くで見ている分、あいつには期待してるし、代表でポジションを取って、日本を引っ張って行くような選手になってほしい。まだまだできる選手なんで」
――柴崎選手以外に、ボランチとして印象的な選手はいますか?
「プロに入ってまず印象深かったのが、本田(泰人/元鹿島)さん。どんなボールも絡み取ってくるし、とにかく奪いに来るから。ああいうボランチは、敵に回すと嫌だなと感じました。あと、ボールを動かすのが上手かったのは名波(浩/磐田監督)さんかな。単純に当時のジュビロは強かったけど、怖いのはやはり中盤、特に名波さんの配球が肝でしたから」
「日本が世界に勝つには、まずボールを奪えなきゃいけない」

「似たような選手」が増えてきた現在の状況を憂う小笠原は、名波(7)のような”怖い選手”が必要だと訴える。写真:サッカーダイジェスト
――90年代後半から2000年代前半の鹿島と磐田は、国内2強でした。
「あの時の名波さんは嫌らしかったですね。とにかく、いなし方が抜群に上手いんです。今の選手って、相手がプレッシャーに来ると蹴っちゃうケースが少なくないけど、名波さんは奪いに行ってもかわしてくる。そして、こっちの嫌な場所に配球する。本当にサッカーをよく知っている選手だな、と。年下の俺が言うのもあれですけど」
――海外の選手、または現役選手では誰か思い当たりますか?
「海外サッカーは、あまり見ませんから……。今のJリーグの選手は、『走ります』とか『頑張ります』が売りの選手が多すぎて、本当に“怖い”選手ってなかなかいませんよね。今のサッカーのスタイルでもあるんでしょうが、監督が絶対に抑えたいと感じるような、マンツーマンでマークせざるを得ないような選手がいない。言ってしまえば、みんな似たような選手。もっと自分のスタイルがあっていいんじゃないかな」
――昔の名波選手みたいな?
「そう。海外でいえばガットゥーゾ(元イタリア代表)とかね。足もとは全然上手くないんだけど、相手を全力で潰すような。ああいう個性的な選手は好きです。日本人でも潰し屋タイプが出てきていいですよね。今はどうしてもボール扱いが重視されるから、奪える選手が減っている」
――今の日本には、上手いだけの選手が増えたとも言われますね。
「多いですね。この先、日本が世界の強豪に勝つには、まずボールを奪えなきゃいけない。いくら上手い選手がいても、ボールを持てなければ意味ないんで。本当に強い国と戦う時には、ボールを奪える選手が必要になります」
――球際だったり、個の守備力の向上が必須だと?
「でも、いくら個人が守備力を上げても、1対1でアフリカや南米の選手に勝てるかって言ったら厳しいですよ。極端な話、メッシなんて向こうのトッププレーヤーでも止められないわけで。だからこそ、組織で追い込むことが大事になる。例えば相手のパスコースを限定して、3つからひとつに減らす。前から追い込んで、選択肢を奪っていく。最後は1対1ですけど、いかにグループで奪うかが大事で、それが日本の理想形じゃないかな」
――そのグループの中心にいるべきなのが、ボランチなのでしょうか。
「そうですね。周りを上手く動かして、やりやすい状況を作ってあげるのはボランチの仕事ですから」
「相手の嫌がることをして、逆を突く。将棋に近い感覚かもしれない」

本田泰人や秋田豊、柳沢敦らから受け継いできた”ジーコスピリッツ”を「下の選手につないでいく義務があります」。小笠原は伝道師として、これからも走り続ける。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)
――ボランチというポジションは気に入っていますか?
「ボランチをやり始めた頃はもっと前でやりたかったけど、今はボランチが面白い。狙いどおりに試合を運べて、思ったことを実現できた時は、本当に気持ちが良いんです。1-0で勝っていれば無理に攻めずにボールを回して、相手をおびき出してからカウンターで2点目を奪うとか。頭を使って自分たちの思いどおりに相手を動かせた時は、やっぱり最高ですね」
――そんなボランチになるための秘訣は?
「自分のケースは、鹿島の伝統があったからこそですね。さっき言ったような、相手の嫌なことをする、勝ちに徹するサッカーはアントラーズの持ち味でもあります。ジーコを筆頭に、本田さん、秋田(豊)さん、柳沢(敦)さんらが勝つ術を伝えてくれましたから。言ってしまえば、俺らはそれを真似しているだけ。だからこそ、その財産を下の選手につないでいく義務があります」
――鹿島の鈴木常務取締役は小笠原選手を「以前に在籍したサントスのようにチームのバランスが取れて、周りを安心させる存在感がある」と言っていました。どうすればそれを身に付けられるのでしょう?
「勝った試合、負けた試合があって、その都度いろんな人にいろんなことを教えられてきた。自分自身、そもそもこれほど長くアントラーズにいるなんて思ってなかったし、ここまで多くのタイトルを取れるとも思っていませんでした。周りの人の助けがあったからこそ、自分は今ここにいる。やっぱり、多くの勝利を積み重ねてきた先輩たちに教えてもらうのは、重みが違う。その助言が自分に染みついていて、たくさんの経験を積んできたのが大きいのではないでしょうか」
――チームのバランスを司るコツはありますか?
「言葉では言い表わせませんね。相手や状況に応じて、いろいろ試行錯誤して……。マークの付き方ひとつとっても、セカンドボールを拾いたければ相手の横か少し前にも出るし、後ろに味方が余っていれば前に入る。逆に後ろが手薄であれば、インターセプトより潰すことを重視する。常に360度を見回し、相手の嫌がることをして、逆を突く。それを考えています。将棋に近い感覚かもしれません」
――やはりボランチは頭を使うポジションですね。
「使うし、(流れを)読めなきゃいけないと思います」
――では最後に、小笠原選手が思うボランチの在り方とは?
「こうだ、って決めつけるべきではないと思う。でも、強みは持っていてほしい。全部が70点じゃなくて。どこか抜きん出た選手は魅力的ですから。今の若い人たちを見て感じるのは、攻撃でも守備でも、パッと見た時に目立つ選手が減っているということ。そういう選手がボランチで出てくれば、日本のサッカーはもっと面白くなると思います」
取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)
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PROFILE
おがさわら・みつお/1979年4月5日生まれ、岩手県出身。173センチ・72キロ。J1通算460試合・69得点。日本代表通算55試合・7得点。多彩なキックでチャンスを海、体感の強さと危機察知能力でピンチを潰す日本屈指のボランチ。代表、クラブで買うかずの経験を重ねた男のサッカー観は、成熟の極みにある。
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サッカーダイジェストの増山氏のインタビューに応じる小笠原満男である。
満男のボランチ像が朧気ながら浮かび上がってくる。
ボランチの楽しさ、難しさが伝わってくるようである。
2007年に戻ってきてより、ボランチとしてチームを司ってきた。
常にポジションを動かし、試合の流れを読む姿は、チームに欠くことが出来ぬ。
テレビ映像では追い切れぬ、満男の動きがある。
これからもチームに勝利をもたらせてくれるであろう。
信頼しておる。