鹿島、勝負だと思ったら、監督が困るくらいの選手を連れてきて、監督と選手に覚悟を迫る
勝利のメンタリティー(山本昌邦)
J1優勝争い 私が鹿島優位とみる根拠
2017/2/22 6:30
18日に行われた富士ゼロックス・スーパーカップを見て、25日に開幕するJリーグの新しいシーズンに思いをはせた。昨年末のクラブワールドカップ(W杯)でレアル・マドリードと優勝を争った鹿島の充実に目を見張りながら、Jクラブの理想的な在り方について、さまざまな考えをめぐらせたのだった。
■Jリーガー、もっと夢ある職業に

富士ゼロックス・スーパーカップで優勝し、喜ぶ鹿島イレブン=共同
優勝賞金・分配金の高騰が刺激になったのか。冬の移籍市場はいつになく活発で大物選手が相次いで所属先を変えた。それが試合のレベルアップに何とかつながってほしいと願っている。投資に見合う移籍の成功例が増えれば、おのずと選手の価値も上がると思うからだ。それが選手の年俸に反映されたら、今よりもっと夢のある職業にJリーガーがなるだろう。
活発な移籍劇の中で鹿島は3人のブラジル人選手と韓国人のGK権純泰(クォン・スンテ)を新たに補強した。そのやる気が浦和とのスーパーカップでも垣間見えた。昨季、リーグ最多の勝ち点74(鹿島は59)を挙げた浦和に対し、格の違いさえ見せつけたように思う。
鹿島と浦和に技術の差があるわけではない。差があるとすれば、予測の質だった。特にボールのないところでの予測の質、思考のスピードで鹿島が上回っているように感じた。スコアは3―2で競り合いになったし、0―2から追い上げた浦和の反撃は見事だった。が、落ち着いてゲームを振り返ると、FW興梠を入れてからリズムが生まれ、2点差を追いついた時間帯を除けば、浦和が鹿島の肝を冷やす場面はほとんどなかったと思う。
率直に言って、浦和がボールを持つと、それがそのまま鹿島の休み時間になっているような感さえあった。ボクシングでいえば、パンチは出しているが、どれもガードの上からで相手に怖さを与えていないというか。鹿島にすれば、打たせるだけ打たせて、浦和の打ち疲れやラフになった瞬間をとらえて、必殺のカウンターを繰り出せばよかった。そういう意味では怖さを感じていたのはパスをつないで攻めた浦和の方だったと思う。
昨年末、チャンピオンシップで覇権を争ったときは鹿島と浦和に差はなかったように思う。むしろ、積み上げた勝ち点どおり、浦和の方が分は良かったかもしれない。しかし、チャンピオンシップの後行われたクラブW杯の戦いは鹿島を大きく変貌させた。これまで体験したことがなかった欧州王者、南米王者の次から次に連動してくるスピーディーな攻めにさらされながら、必死に応戦しているうちに極限のスピード、極度の緊張感の中で自分とチームをマネジメントするコツのようなものを体得したように思うのだ。それがチーム全体の判断の質を押し上げた。
鹿島の決勝点は売り出し中のFW鈴木が、DF遠藤とGK西川の連係ミスを突いて奪ったが、あれを「ただのラッキーパンチ」と思ったりすると、鹿島の強さを見誤ることになる。というのも、試合の中で鹿島のパスカットは前半からさえにさえていたからだ。たまたま得点に結びつかなかっただけで、浦和がボールを持つと複数の選手が巧みにパスコースを消すポジションを取ってボールを絡め取り、ゴールに迫るシーンが鹿島には何度もあった。世界のトップを体感したことから生まれる余裕のようなものを感じさせた。
■フロントからの強烈メッセージ
1ステージ制の長丁場に戻る今季、優勝争いは予断を許さない。鹿島が優勝争いに絡んでくるのは間違いないが、開幕当初はアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の1次ラウンドとも重なるし、コンディションの調整は難しい。ACLに出場する鹿島、浦和、川崎、G大阪はJリーグに関してロケットスタートは難しいかもしれない。1次ラウンドをクリアしたらしたで、ACLとJリーグの掛け持ちはさらに続くことになる。
それでも鹿島優位と思うのは、昨季優勝したにもかかわらず、神戸からペドロジュニオール、新潟からレオシルバというJリーグで既に実力を証明済みのビッグネームを補強したことにある。これが中途半端な補強だと、クラブW杯で活躍した昨季のレギュラー陣は鼻で笑っていたことだろう。「こいつらには負ける心配はねえな」と。
それを見越した鹿島のフロントは、実力者をこれでもかと獲得して選手の尻に火をつけた。フロントから選手への「休むことなく、さらに上を目指す」という強烈なメッセージ。クラブW杯でその名をとどろかせ、今季はレギュラー争いに食い込むものと思われた鈴木や日本代表のボランチ・永木でさえ、スーパーカップはベンチスタートだった。

鹿島のフロントは石井監督にも覚悟を迫る=共同
メッセージの厳しさをひしひしと感じているのは石井監督も同様だろう。他のチームなら普通に試合に出られる選手がベンチにごろごろいる。これは監督にとっても強烈なプレッシャーである。監督も甘やかさない。これも鹿島のすごみである。
監督と選手が和気あいあい、ファミリーみたいなチームがいいと考えるフロントもあるだろう。それで成果が出るときもあるが、長く続けばマンネリに堕すものだ。監督は選手から、選手は監督から吸収できるものがなくなってチーム全体の成長が止まる。
鹿島は違う。勝負だと思ったら、監督が困るくらいの選手を連れてきて、監督と選手に覚悟を迫る。石井監督は大変だと思うけれど、このハードルを乗り越えたら素晴らしい監督の仲間入りを果たすことになるだろう。
■G大阪と広島もV争いに加わるか
鹿島と浦和の優勝争いに割って入るクラブにはG大阪と広島を推す。一定水準の戦力がある上に、G大阪・長谷川、広島・森保両監督の手腕を評価するからである。2人とも選手を鍛えて成長させることができる監督だ。長丁場のレースの中でヤマ場のつくり方とか、優勝をかけた大一番でのメンタルの持って行き方などを熟知する選手が両クラブには多いのも好材料だろう。
昨季、浦和に迫る勝ち点72を挙げた川崎は得点源のFW大久保がFC東京に去った穴を簡単には埋められないと見る。ざっと見積もってもチームの20ゴールに絡む男がいなくなったのである。元来、攻撃型のチームだけに得点が取れないと、行き詰まるリスクは膨らむ。
川崎には日本代表FWの小林がいる。チームも期待していると思うが、小林も大久保という「目立つ」相棒がいてくれたおかげでゴールを量産できた部分がある。今度は自分が「目立つ」番である。そういう役回りでどれだけ得点できるかどうか。小林と個性を補完し合えるいいFWが見つかればいいが、下手をしたら、大久保を失ったことで小林の良さまで失うリスクがある。
大久保を手に入れたFC東京は鹿島、浦和、G大阪、広島の4強に迫る可能性がある。今季補強した大久保、永井(前所属・名古屋)、高萩(同FCソウル)、太田(同フィテッセ)は全員日本代表経験者。それぞれの良さをどう組み合わせるか、その正解が見つかったときはとてつもない爆発力を発揮するだろう。それにはバイタルエリア、DFの背後、ペナルティーエリア内に質の高いボールをいかに供給できるかにかかっている。
昇格組ではセビリアから復帰した清武がいるC大阪に注目だろう。相手に引いて守られても一瞬のコンビネーションで崩せるタレント力は魅力だ。監督にOBで、鳥栖を走れるチームに仕立てた尹晶煥氏を招いた。新監督が要求する運動量、走力に応えられるようになったら上位に進出する力はある。
■10代選手、貪欲に出場機会つかめ
リーグ全体でいえば、10代の選手にどんどん出場機会をつかんでほしいもの。ACミランのGKドンナルンマは17歳、ボランチのロカテッリ、マンチェスター・ユナイテッドのFWラッシュフォードは19歳。そんな選手がごろごろいるのが今の欧州サッカーである。「若手」の感覚が日本とは2、3歳は違う感じだ。大学を経由してプロの世界に入ってくる選手が多い日本の特殊事情があるとはいえ、20歳を超えた選手を「若手」と呼ぶのは、もうやめにした方がいいと思っている。
2020年東京五輪のことを考えても10代の選手を今から積極的に使いたい。そうしないと、一線で活躍する欧州や南米の同世代の選手と3年後の五輪で対峙したときに勝てる気がしないだろう。
今年は5月にU―20(20歳以下)W杯が韓国である。その予選を兼ねた昨年のU―19アジア選手権で日本は優勝し、代表選手たちは堂安(G大阪)にしても三好(川崎)や中山(柏)、冨安(福岡)にしてもぐんと伸びた。大会の質はJリーグより低かったにもかかわらず、帰国した選手たちがJリーグで堂々とプレーするようになったのは、国際試合の重みやプレッシャーの大きさ、極限状態の中でもミスが許されない厳しさを体験できたからだった。
今年はそういう経験をW杯でも積める。Jリーグで使われ、W杯で戦い、その両方の経験をうまくかみ合わせ、相乗効果で選手の力を伸ばすチャンスだ。それは3年先の東京五輪で花を咲かせることにつながってくるはずだ。スーパーカップで一回り大きくなったプレーを見せた鹿島のCB昌子にしても、決してクラブW杯だけが覚醒を促したのではない。鹿島が将来を見越してJリーグで辛抱して使い続けたことが土台としてあったのである。
今回は少し鹿島を褒めすぎたかもしれない。が、1993年に発足したJリーグの創業メンバー、いわゆる「オリジナル10」で今や鹿島と横浜Mだけが2部降格を知らない。特に鹿島は単に2部落ちを免れているだけではなく、国内3大タイトル(Jリーグ、天皇杯、ルヴァンカップ=旧ナビスコカップ)で19もの優勝を積み上げている。どれだけ褒めても褒めたりないくらいだろう。
■ないものを埋める方策見つける
なぜ、鹿島にだけ、そういうことが可能なのか。思うに、オリジナル10といっても、ほとんどのクラブは日本サッカーリーグ(JSL)の企業チームが横滑りしたものだった。鹿島も母体は当時JSL2部だった住友金属だった。が、他のクラブと、ひと味違ったのは2部という実力的ハンディ、鹿島という地理的ハンディを抱えていたために、川淵三郎チェアマン(当時)からJリーグ参入の条件として高いハードルを課せられたことだった。それを乗り越えるために鹿島はブラジルの至宝ジーコを呼び、サッカー専用のスタジアムを建設した。
今から振り返っても相当な冒険であり、実現に至るまでには大変な苦労があったと思う。しかし、選手が苦労しているとき、大変なときが一番伸びるときであるように、鹿島も初動の段階で必死に知恵を絞り、汗を流したことが今につながっていると思うのである。ないもの、足りないものを嘆いても仕方ない。それを埋める方策を見つけて勝ちに結びつける。そういうマインドが「ジーコ・スピリット」という名で脈々と受け継がれ、クラブの奥深くに根付いている素晴らしさ。
実は今年は私が会長を務めるアスルクラロ沼津というクラブが「Jリーグ元年」を迎える。JFLからJ3に昇格した最初のシーズンを戦うのだ。船出にあたり、私はクラブのスタッフにもスポンサー企業やファン、サポーターの方々たちにも「みんなで鹿島のようになりましょう」と話すようにしている。
アスルクラロは90年に幼稚園の中のサッカー教室として産声を上げた。高校の先生を辞めた私の弟が幼児教育を勉強し直し、幼稚園の正課の下で園児にサッカーを教えることから始めた。園児が小学生、中学生、高校生と大きくなるにつれてスクールも拡大、今では2000人のお子さんを預かるクラブになった。
アスルクラロの歩みを見続けて思うことは、J1のクラブのようにバックに大きな出資企業はないけれど、園児の月謝でクラブの生計を立てた昔から、その価値を認められて支援してくれる人や企業が集まり、J3まで来られた今日に至るまで、自分たちは自分たちで食いぶちを稼ぎ、自分たちの足で歩いてきた「プロのクラブ」だということである。そこは鹿島と張り合えるところ、と言ったら、身の程知らずと笑われるだろうか。
■いつか追いかけられるクラブに
J3に上がったばかりの沼津から世界2位の鹿島までの距離は遠い。鹿島の背中は、はるかかなたにある。それでも、その距離がわかるところまで来た。幼稚園児を教えることから始めたクラブが「鹿島のようになりたい」なんて夢を描ける時代になったのは、間違いなくJリーグのおかげである。Jリーグができて25年目。そういうクラブが全国各地にあることはJリーグが誇っていい成果のように思える。
東京を起点にすると、鹿島と沼津の距離はほとんど同じ。新幹線を使えば、こちらの方が近いくらい。人口もこちらの方が多い。そんなことを思うと、やってやれないことはないと勇気が湧いてくる。鹿島を追いかけながら、いつの日か、自分たちも追いかけられるクラブになりたいと夢を膨らませている。
(サッカー解説者)
2017年シーズンのJリーグについて語る日経新聞の山本昌邦氏である。
スーパー杯の結果と内容から、鹿島を優勝の筆頭に挙げておる。
それだけでなく、これまでの鹿島の歴史を語り、鹿島の文化、持っている背景から、ここまでのクラブに成り立ったことも述べてくれた。
他のJクラブとは一線を画す。
今季はその鹿島がJリーグを席巻する。
新たな歴史を作ることとなろう。
楽しみなシーズンである。

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J1優勝争い 私が鹿島優位とみる根拠
2017/2/22 6:30
18日に行われた富士ゼロックス・スーパーカップを見て、25日に開幕するJリーグの新しいシーズンに思いをはせた。昨年末のクラブワールドカップ(W杯)でレアル・マドリードと優勝を争った鹿島の充実に目を見張りながら、Jクラブの理想的な在り方について、さまざまな考えをめぐらせたのだった。
■Jリーガー、もっと夢ある職業に

富士ゼロックス・スーパーカップで優勝し、喜ぶ鹿島イレブン=共同
優勝賞金・分配金の高騰が刺激になったのか。冬の移籍市場はいつになく活発で大物選手が相次いで所属先を変えた。それが試合のレベルアップに何とかつながってほしいと願っている。投資に見合う移籍の成功例が増えれば、おのずと選手の価値も上がると思うからだ。それが選手の年俸に反映されたら、今よりもっと夢のある職業にJリーガーがなるだろう。
活発な移籍劇の中で鹿島は3人のブラジル人選手と韓国人のGK権純泰(クォン・スンテ)を新たに補強した。そのやる気が浦和とのスーパーカップでも垣間見えた。昨季、リーグ最多の勝ち点74(鹿島は59)を挙げた浦和に対し、格の違いさえ見せつけたように思う。
鹿島と浦和に技術の差があるわけではない。差があるとすれば、予測の質だった。特にボールのないところでの予測の質、思考のスピードで鹿島が上回っているように感じた。スコアは3―2で競り合いになったし、0―2から追い上げた浦和の反撃は見事だった。が、落ち着いてゲームを振り返ると、FW興梠を入れてからリズムが生まれ、2点差を追いついた時間帯を除けば、浦和が鹿島の肝を冷やす場面はほとんどなかったと思う。
率直に言って、浦和がボールを持つと、それがそのまま鹿島の休み時間になっているような感さえあった。ボクシングでいえば、パンチは出しているが、どれもガードの上からで相手に怖さを与えていないというか。鹿島にすれば、打たせるだけ打たせて、浦和の打ち疲れやラフになった瞬間をとらえて、必殺のカウンターを繰り出せばよかった。そういう意味では怖さを感じていたのはパスをつないで攻めた浦和の方だったと思う。
昨年末、チャンピオンシップで覇権を争ったときは鹿島と浦和に差はなかったように思う。むしろ、積み上げた勝ち点どおり、浦和の方が分は良かったかもしれない。しかし、チャンピオンシップの後行われたクラブW杯の戦いは鹿島を大きく変貌させた。これまで体験したことがなかった欧州王者、南米王者の次から次に連動してくるスピーディーな攻めにさらされながら、必死に応戦しているうちに極限のスピード、極度の緊張感の中で自分とチームをマネジメントするコツのようなものを体得したように思うのだ。それがチーム全体の判断の質を押し上げた。
鹿島の決勝点は売り出し中のFW鈴木が、DF遠藤とGK西川の連係ミスを突いて奪ったが、あれを「ただのラッキーパンチ」と思ったりすると、鹿島の強さを見誤ることになる。というのも、試合の中で鹿島のパスカットは前半からさえにさえていたからだ。たまたま得点に結びつかなかっただけで、浦和がボールを持つと複数の選手が巧みにパスコースを消すポジションを取ってボールを絡め取り、ゴールに迫るシーンが鹿島には何度もあった。世界のトップを体感したことから生まれる余裕のようなものを感じさせた。
■フロントからの強烈メッセージ
1ステージ制の長丁場に戻る今季、優勝争いは予断を許さない。鹿島が優勝争いに絡んでくるのは間違いないが、開幕当初はアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の1次ラウンドとも重なるし、コンディションの調整は難しい。ACLに出場する鹿島、浦和、川崎、G大阪はJリーグに関してロケットスタートは難しいかもしれない。1次ラウンドをクリアしたらしたで、ACLとJリーグの掛け持ちはさらに続くことになる。
それでも鹿島優位と思うのは、昨季優勝したにもかかわらず、神戸からペドロジュニオール、新潟からレオシルバというJリーグで既に実力を証明済みのビッグネームを補強したことにある。これが中途半端な補強だと、クラブW杯で活躍した昨季のレギュラー陣は鼻で笑っていたことだろう。「こいつらには負ける心配はねえな」と。
それを見越した鹿島のフロントは、実力者をこれでもかと獲得して選手の尻に火をつけた。フロントから選手への「休むことなく、さらに上を目指す」という強烈なメッセージ。クラブW杯でその名をとどろかせ、今季はレギュラー争いに食い込むものと思われた鈴木や日本代表のボランチ・永木でさえ、スーパーカップはベンチスタートだった。

鹿島のフロントは石井監督にも覚悟を迫る=共同
メッセージの厳しさをひしひしと感じているのは石井監督も同様だろう。他のチームなら普通に試合に出られる選手がベンチにごろごろいる。これは監督にとっても強烈なプレッシャーである。監督も甘やかさない。これも鹿島のすごみである。
監督と選手が和気あいあい、ファミリーみたいなチームがいいと考えるフロントもあるだろう。それで成果が出るときもあるが、長く続けばマンネリに堕すものだ。監督は選手から、選手は監督から吸収できるものがなくなってチーム全体の成長が止まる。
鹿島は違う。勝負だと思ったら、監督が困るくらいの選手を連れてきて、監督と選手に覚悟を迫る。石井監督は大変だと思うけれど、このハードルを乗り越えたら素晴らしい監督の仲間入りを果たすことになるだろう。
■G大阪と広島もV争いに加わるか
鹿島と浦和の優勝争いに割って入るクラブにはG大阪と広島を推す。一定水準の戦力がある上に、G大阪・長谷川、広島・森保両監督の手腕を評価するからである。2人とも選手を鍛えて成長させることができる監督だ。長丁場のレースの中でヤマ場のつくり方とか、優勝をかけた大一番でのメンタルの持って行き方などを熟知する選手が両クラブには多いのも好材料だろう。
昨季、浦和に迫る勝ち点72を挙げた川崎は得点源のFW大久保がFC東京に去った穴を簡単には埋められないと見る。ざっと見積もってもチームの20ゴールに絡む男がいなくなったのである。元来、攻撃型のチームだけに得点が取れないと、行き詰まるリスクは膨らむ。
川崎には日本代表FWの小林がいる。チームも期待していると思うが、小林も大久保という「目立つ」相棒がいてくれたおかげでゴールを量産できた部分がある。今度は自分が「目立つ」番である。そういう役回りでどれだけ得点できるかどうか。小林と個性を補完し合えるいいFWが見つかればいいが、下手をしたら、大久保を失ったことで小林の良さまで失うリスクがある。
大久保を手に入れたFC東京は鹿島、浦和、G大阪、広島の4強に迫る可能性がある。今季補強した大久保、永井(前所属・名古屋)、高萩(同FCソウル)、太田(同フィテッセ)は全員日本代表経験者。それぞれの良さをどう組み合わせるか、その正解が見つかったときはとてつもない爆発力を発揮するだろう。それにはバイタルエリア、DFの背後、ペナルティーエリア内に質の高いボールをいかに供給できるかにかかっている。
昇格組ではセビリアから復帰した清武がいるC大阪に注目だろう。相手に引いて守られても一瞬のコンビネーションで崩せるタレント力は魅力だ。監督にOBで、鳥栖を走れるチームに仕立てた尹晶煥氏を招いた。新監督が要求する運動量、走力に応えられるようになったら上位に進出する力はある。
■10代選手、貪欲に出場機会つかめ
リーグ全体でいえば、10代の選手にどんどん出場機会をつかんでほしいもの。ACミランのGKドンナルンマは17歳、ボランチのロカテッリ、マンチェスター・ユナイテッドのFWラッシュフォードは19歳。そんな選手がごろごろいるのが今の欧州サッカーである。「若手」の感覚が日本とは2、3歳は違う感じだ。大学を経由してプロの世界に入ってくる選手が多い日本の特殊事情があるとはいえ、20歳を超えた選手を「若手」と呼ぶのは、もうやめにした方がいいと思っている。
2020年東京五輪のことを考えても10代の選手を今から積極的に使いたい。そうしないと、一線で活躍する欧州や南米の同世代の選手と3年後の五輪で対峙したときに勝てる気がしないだろう。
今年は5月にU―20(20歳以下)W杯が韓国である。その予選を兼ねた昨年のU―19アジア選手権で日本は優勝し、代表選手たちは堂安(G大阪)にしても三好(川崎)や中山(柏)、冨安(福岡)にしてもぐんと伸びた。大会の質はJリーグより低かったにもかかわらず、帰国した選手たちがJリーグで堂々とプレーするようになったのは、国際試合の重みやプレッシャーの大きさ、極限状態の中でもミスが許されない厳しさを体験できたからだった。
今年はそういう経験をW杯でも積める。Jリーグで使われ、W杯で戦い、その両方の経験をうまくかみ合わせ、相乗効果で選手の力を伸ばすチャンスだ。それは3年先の東京五輪で花を咲かせることにつながってくるはずだ。スーパーカップで一回り大きくなったプレーを見せた鹿島のCB昌子にしても、決してクラブW杯だけが覚醒を促したのではない。鹿島が将来を見越してJリーグで辛抱して使い続けたことが土台としてあったのである。
今回は少し鹿島を褒めすぎたかもしれない。が、1993年に発足したJリーグの創業メンバー、いわゆる「オリジナル10」で今や鹿島と横浜Mだけが2部降格を知らない。特に鹿島は単に2部落ちを免れているだけではなく、国内3大タイトル(Jリーグ、天皇杯、ルヴァンカップ=旧ナビスコカップ)で19もの優勝を積み上げている。どれだけ褒めても褒めたりないくらいだろう。
■ないものを埋める方策見つける
なぜ、鹿島にだけ、そういうことが可能なのか。思うに、オリジナル10といっても、ほとんどのクラブは日本サッカーリーグ(JSL)の企業チームが横滑りしたものだった。鹿島も母体は当時JSL2部だった住友金属だった。が、他のクラブと、ひと味違ったのは2部という実力的ハンディ、鹿島という地理的ハンディを抱えていたために、川淵三郎チェアマン(当時)からJリーグ参入の条件として高いハードルを課せられたことだった。それを乗り越えるために鹿島はブラジルの至宝ジーコを呼び、サッカー専用のスタジアムを建設した。
今から振り返っても相当な冒険であり、実現に至るまでには大変な苦労があったと思う。しかし、選手が苦労しているとき、大変なときが一番伸びるときであるように、鹿島も初動の段階で必死に知恵を絞り、汗を流したことが今につながっていると思うのである。ないもの、足りないものを嘆いても仕方ない。それを埋める方策を見つけて勝ちに結びつける。そういうマインドが「ジーコ・スピリット」という名で脈々と受け継がれ、クラブの奥深くに根付いている素晴らしさ。
実は今年は私が会長を務めるアスルクラロ沼津というクラブが「Jリーグ元年」を迎える。JFLからJ3に昇格した最初のシーズンを戦うのだ。船出にあたり、私はクラブのスタッフにもスポンサー企業やファン、サポーターの方々たちにも「みんなで鹿島のようになりましょう」と話すようにしている。
アスルクラロは90年に幼稚園の中のサッカー教室として産声を上げた。高校の先生を辞めた私の弟が幼児教育を勉強し直し、幼稚園の正課の下で園児にサッカーを教えることから始めた。園児が小学生、中学生、高校生と大きくなるにつれてスクールも拡大、今では2000人のお子さんを預かるクラブになった。
アスルクラロの歩みを見続けて思うことは、J1のクラブのようにバックに大きな出資企業はないけれど、園児の月謝でクラブの生計を立てた昔から、その価値を認められて支援してくれる人や企業が集まり、J3まで来られた今日に至るまで、自分たちは自分たちで食いぶちを稼ぎ、自分たちの足で歩いてきた「プロのクラブ」だということである。そこは鹿島と張り合えるところ、と言ったら、身の程知らずと笑われるだろうか。
■いつか追いかけられるクラブに
J3に上がったばかりの沼津から世界2位の鹿島までの距離は遠い。鹿島の背中は、はるかかなたにある。それでも、その距離がわかるところまで来た。幼稚園児を教えることから始めたクラブが「鹿島のようになりたい」なんて夢を描ける時代になったのは、間違いなくJリーグのおかげである。Jリーグができて25年目。そういうクラブが全国各地にあることはJリーグが誇っていい成果のように思える。
東京を起点にすると、鹿島と沼津の距離はほとんど同じ。新幹線を使えば、こちらの方が近いくらい。人口もこちらの方が多い。そんなことを思うと、やってやれないことはないと勇気が湧いてくる。鹿島を追いかけながら、いつの日か、自分たちも追いかけられるクラブになりたいと夢を膨らませている。
(サッカー解説者)
2017年シーズンのJリーグについて語る日経新聞の山本昌邦氏である。
スーパー杯の結果と内容から、鹿島を優勝の筆頭に挙げておる。
それだけでなく、これまでの鹿島の歴史を語り、鹿島の文化、持っている背景から、ここまでのクラブに成り立ったことも述べてくれた。
他のJクラブとは一線を画す。
今季はその鹿島がJリーグを席巻する。
新たな歴史を作ることとなろう。
楽しみなシーズンである。

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コメントの投稿
原理主義様、素敵な記事を紹介頂き、ありがとうございます。
今期は鹿島とともに沼津の事も追いかけてみたくなりました。
今期は鹿島とともに沼津の事も追いかけてみたくなりました。
No title
鹿島サポとして嬉しくなる記事でした。
口をはさんで恐縮ですが、「日経新聞の山本昌邦氏」と表記すると、
新聞社の関係者かと思われますので。。(TVで試合の解説している人ですね)
口をはさんで恐縮ですが、「日経新聞の山本昌邦氏」と表記すると、
新聞社の関係者かと思われますので。。(TVで試合の解説している人ですね)
山本さん、「鹿島のようになりましょう」。はっきり言ってそれ正解です。
山本昌邦さん
いやあ、山本昌邦さんですよ。様々な年代の監督コーチを歴任し、トルシエ、ジーコの元では、コーチとして本当に頑張ってましたし、アテネでは監督として五輪出場に導いてくれた方(でも、誓志を最終的に選考外にしたので、未だに僕は根に持ってますが・・・)。誰も新聞社の関係者とは思わんでしょう。寄稿したってわかるはずですよ。
確かにNHKでウチ贔屓の解説もしていますが。
確かにNHKでウチ贔屓の解説もしていますが。
No title
いやーここまで言ってくれるとうれしいですねー
長年、なぜ日本の他のクラブは鹿島という成功事例を
参考にせず、海外のクラブばかりに
目を向けるのか、疑問に思っていました。
ようやく山本氏のような考え方が出てきて安心しました。
参考にせず、海外のクラブばかりに
目を向けるのか、疑問に思っていました。
ようやく山本氏のような考え方が出てきて安心しました。
テレビ解説の時はいつも鹿島贔屓の解説なのはこうした理由があったのですねw
沼津がいつかJ1に上がったら面白い
沼津がいつかJ1に上がったら面白い