石井監督、あれが理想だと考えます
鹿島・石井正忠監督が明かす、
クラブW杯「準優勝」の舞台裏
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki
昨季はJリーグ1stステージ及び年間優勝を飾り、天皇杯も優勝。クラブW杯では決勝でレアル・マドリードに敗れたものの見事な戦いを見せた鹿島アントラーズ。今季もゼロックススーパーカップを制し、AFCチャンピオンズリーグ初戦で蔚山現代を下すなど、滑り出しから好調だ。その強さの秘密はどこにあるのか。Jリーグ開幕直前、石井正忠監督に聞いた。
――昨年終盤の快進撃はお見事でした。その要因は?
「クラブW杯であのような成績(準優勝)を収めることができたのは、チャンピオンシップからの流れが大きかったです。セカンドステージの最後、4連敗しましたが、ラスト2試合の内容はすごくよかった。上向いているという感触を、その時点でつかむことができていました」

1967年2月1日、千葉県生まれ。現役時代はNTT関東、住友金属工業を経て、鹿島アントラーズ創設時のメンバーに。98年に現役引退後、鹿島で指導者の道に進む。2015年、監督に就任。2016年、Jリーグアウォーズで最優秀監督賞を受賞
――むしろ、いい感じでチャレンジャーの立場に回れましたね。
「チャンピオンシップのトーナメントも、端からの(3位からの)勝ち上がり。クラブW杯もそうした形。確かにその辺もよかったのだと思います。セカンドステージは成績が出なくて、僕自身、いったんチームを離れました(8月末、4日間休養)が、それもきっかけとしてあると思います」
――ファーストステージ優勝。セカンドステージは一転して低迷(11位)。世間の声は耳に入ったと思います。
「ファーストステージで優勝して、チャンピオンシップへの出場権を得ました。セカンドステージの成績がどうであろうと、勝ち点がどうであろうと、チャンピオンシップの勝者が、Jリーグのチャンピオンになるというレギュレーションですから、それに従っていけばいいのだと」
――セカンドステージは、選手をたくさん起用していました。
「それは常に意識していて、可能性を広げようと、複数のポジションをこなすことができるような練習をしてました」
――それはファーストステージ優勝という貯金があったから?
「そのような予定を立て、計画通りうまく進むと期待していたんですが、実際には途中でチームに一体感がなくなってしまい、立て直しにずいぶん時間を要しました。でも、それが、最後の最後に生きたと思います」
――石井監督の監督観についてですが、監督というイメージはどこから来ていますか。
「おこがましいですけど、オズワルド・オリベイラ。選手のモチベーションの高め方がうまく、スタッフにもやりがいを感じさせていた監督です。僕が現役時代の時は、ジョアン・カルロス。日本人選手とブラジル人選手とを区別なくフラットな目で見てくれる監督でした。
僕個人としては、押しつけたり、教え込むというのではなく、選手の能力を最大限発揮させるためには何をすればいいかに主眼を置いています」
――目指しているサッカーの中身とは?
「まずは守備の安定です。1点取られても、我慢し同点に追いついてしまえば、逆に相手は焦り出す。試合をコントロールできるはずだと。自信は、試合をやるごとについていきました。特に、守備の面で落ち着いた対応ができていた。Jリーグの最後の2試合でそれができて、チャンピオンシップまでの間にもう一回徹底させたんです。再度、守備の安定を図った。結果的にそこがよかったかなと」
――相手ボールの時に強かった印象があります。監督の現役時代のポジションは守備的MFでしたね。
「選手時代は、実は自分からボールを奪いにいくタイプだったんです。インターセプトを常に狙っていました。前へ出て奪う楽しさを知っているので、鹿島もそうしたチームにしたいんです。でも、勝利を前提に考えると、クラブの伝統を引き継ぎ、しっかりとした守備から入りたい。それでいながら、やはり自分たちから積極的にボールを奪いにいく。僕はこのスタイルをどんどん積み重ねていきたい。監督が僕に代わってから、前からのディフェンスは、意識できてきていると思うんです」
――昔の鹿島とはちょっと違いますね。堅守と言われますが、後ろでじっと守るイメージは薄い。鹿島のルーツはブラジルにあると思いますが、プレッシングという意味でヨーロッパ的。他のJリーグのクラブに比べると、それはより鮮明になります。
「そこを見てもらえているというのは僕は嬉しいです。クラブW杯でも、強い相手にただ引くのではなくて、自分の方からも奪いにいくという姿が大勢の人に伝わったから、喜んでいただけたのかな、と」
――レアル・マドリード戦のボール支配率は61対39。かつてサントスがバルセロナと戦った時が71対29(2011年、結果は4-0でバルサ)で、そうなったら絶対に勝てない。見てる人もつまらないだろうなと思います。ですが、最初の何分かを見て、これは期待できる、いけるかもしれないと閃(ひらめ)きました。よく引きませんでしたね。一歩間違えば、大敗もあり得るというのに。
「それでも打ちに出ていった。そこが嬉しかったです。決勝だから強気にいけたこともあります。ミーティングでも『相手を引き込むんじゃなくて、自分たちのスタイルを最後まで貫こうよ』って話しました。
まず、クラブW杯に臨むにあたり最初に話したのは、『4試合戦おう』ということでした。で、さらに『4試合勝つ』。ミーティングの最後に、クラブW杯のトロフィーを写真で見せて、『これを獲りにいこうよ』と。それが、試合が進む中で『現実味を帯びてきたね』という話も出てきて、決勝に進む頃には全選手が疑いなくそちらを向いていた。
もうひとつ、『鹿島はJリーグ発足の10チームに入ることが当初、”99.9999”パーセント不可能と言われたクラブだった』と、その経緯を示すYouTubeの映像を見せたんです。当時の川淵(三郎)チェアマンが出演した番組なんですけれど、その画面の右上に、小さい番組のサブタイトルが入っていたんです。『日本のサッカーが世界一になる日』。前日、その映像を見てそれに気がつき、思わず鳥肌が立っちゃって、これは選手に見せないわけにいかないとなり、『20何年前のこの映像に”日本が世界一になる日”って書いてあるよね。これってまさに、我々の明日の姿じゃないか』という話をしました」
――それにしてもあのような展開になるとは。
「でも、絶対に勝てない相手とは思っていませんでした。僕はバルセロナが好きで、バルサのようなサッカーがしたいなと思って試合を結構見ているのですが、それだけに、バルサにはカウンターで得点は奪えても、徹底的に繋がれて、結局は前の3人にゴールを獲られちゃうんだよな、というイメージしか抱くことができません。ですがレアルには、普段あまり試合を見てない分、そうしたイメージが湧いてこなかったんです」
――日本人はバルサの方がやりにくいのではないでしょうか。戦い方に差があるイタリアやチェルシーのようなチームは、バルサの方がやりやすいけど、日本人はよくも悪くも、何となくあのテイストを持ってしまっていて、同系列でしょう。
「似てますよね。似た部分の競い合いになると絶対に勝てない。ほんと、そう思います。もし相手がバルサだったら、その前に嬉しくて舞い上がってしまっていたかもしれませんが(笑)」
――レアルの方がズレが狙えそうな。
「点を取れるかもしれないと、ちょっと期待が持てたんです、イメージで。失点はするけど、点を取ることはできる。ディフェンスに隙はあるなと感じたので。やられるだけというイメージはなかったです」
――バルサはボールを取り返すのが速い。それが高い支配率の源だと言われます。
「そうなんです。そこがすごいところ。そういう意味では、うちは前線の選手も守備意識は凄く高いし、切り替えも速い。あの奪い方をうちも目指して、実践していきたいです」
鹿島・石井監督「相手チームも、
もっと前からバチバチやってほしい」
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki
――クラブW杯の決勝は、1-0になった後、レアル・マドリードが一瞬、緩みましたね。
「楽勝ムードになったと思います」
――そんな中、小笠原満男選手が惜しいミドルシュートを放った。そうしたら、スタンドも”おっ”という感じになり、それがピッチにも波及して、何となくムードが変わったような気がしました。
「遠藤康が打ったシュートで後半を終えたのですが、あれも自信をつけさせてくれたシーンでした。
2戦目のマメロディ・サンダウンズ、3戦目のアトレティコ・ナシオナル戦も前半は滅茶苦茶、押されながら、そこから逆転してるじゃないですか。あの2試合に勝ったことも、チームにとって大きな自信に繋がっていました」

1967年2月1日、千葉県生まれ。現役時代はNTT関東、住友金属工業を経て、鹿島アントラーズ創設時のメンバーに。98年に現役引退後、鹿島で指導者の道に進む。2015年、監督に就任。2016年、Jリーグアウォーズで最優秀監督賞を受賞
――セルヒオ・ラモスが退場になると思ったら、ならなかった判定の問題については、試合後の監督はことのほか冷静でした。
「あそこでいろいろ言っても仕方ないことで、冷静に対応できる方法はないかなと思って、ああいうコメントになりました。『レフェリーに勇気がなかった』という言い方をしたんですけど。こちらは勇気を持って戦ったのに。悔しかったですけれど、力の差は感じていました。
その中で、曽ヶ端(準)と小笠原ですね。やはりベテランの存在が大きかったと思います。小笠原はゲームの流れが読めます。いま待つべきか、もっと攻撃的にいくべきかの駆け引きが巧い。その点に関しては、他のチームのベテラン選手と比べても上かなと思います。それは彼が年々積み重ねていったもので、若いときにジョルジーニョ等に教わったり、ゲームに出ながら、彼らの姿を見て学んだ経験がいま生きているのだと思います」
――得点のパターンの話なのですが、チャンピオンシップからクラブW杯にかけて、そのほとんどが外からの折り返しでした。
「サイドから崩す。これは徹底してやっています。そこからはいろんなコンビネーションを使って崩そうとしていますが、Jリーグでは分析されているので、十分に発揮できていません。クラブW杯では研究されてない分、出せたのかなと。今季は、新加入選手の特徴を活かしながら、研究されても、さらにその上をいくような得点パターンを作っていきたい」
――メンバー交代も見事でした。昨季終盤の1カ月、試合が立て込んでいた時にうまく使い回すことができました。
「疲労度、パフォーマンスを見ながら、ハッキリ決断することが僕の大きな仕事だと思っています。誰であろうが、戦術も含めてダメなときはスパッと」
――4-4-2は今シーズンも継続しますか。
「中盤の4枚がどういう形になるか、いろいろ試したいと思います。横並びの2トップも、相手ボールの時は変わります。そこは従来の形にこだわらずに。試合が始まると、相手に対応しなくてはいけませんので」
――永木亮太選手がサイドハーフに出たり、サイドバックの西大伍選手がボランチに入ったり、ユーティリティな選手が多いのも鹿島の特徴です。
「それは練習を見ながら探っています。ボランチの選手でも、瞬間、ポジションが変わったりするじゃないですか、流れの中で。その時にどのような対応をしているのか、この場所でも使えるかどうか観察しています。それが後々、生きてくる」
――土居聖真選手はどこでもできますよね。もともとの資質なのでしょうか。それとも監督が練習でユーティリティ性を意識させているのですか。
「うちのサイドハーフは守備の役割が多いので、そこをやらせて、そして本来の2トップに戻す。そこでまたフォワードとしての守備の意識が薄らいできたら、またサイドハーフをやらせてみる。そうした試みを繰り返しながら、2トップ、サイドハーフともにできるようにしていく。そうした練習はしてますね」
――ああいう選手が1人いると……。
「楽ですね。聖真もそうですし、鈴木優磨、永木亮太、柴崎岳にはチャンピオンシップからですけれど、左のサイドハーフをやってもらいました」
――同時に、選手の潜在的な能力も上がりますよね。
「上がります。僕は柴崎岳には、代表でもボランチで出てほしかった。だからずっとボランチで起用してきましたが、代表ではちょっと高い位置で使われることが多かった。トップ下とか。ならば、うちでもサイドハーフをやっておくと代表に呼ばれたときにいいかなと思って(笑)」
――優しいですね。
「選手に能力があるからです。鈴木優磨にも練習で右サイドバックをやらせました。それをやっておくと、自分がサイドハーフとして高い位置で出たときに、後ろのサイドバックとの連携、動きのタイミングが分かる。ゲームの中で、サイドハーフは相手のサイドバックにオーバーラップされると、一緒に戻らなきゃならないじゃないですか。そうした時の対応の仕方とか、サイドバックをやったことがあるかないかで全く違います。紅白戦で20分間はやらせるとか。今シーズンもいろいろ試していきたいです」
――畑を耕しながら、シーズンを乗り切る?
「バランスが難しいですけどね。最初にガーンと落ちてしまうと、上位に戻るのが難しい。自分へのプレッシャーも少なくしながら(笑)、チーム内でいろんな形を作っていきたいなと」
――もう一度クラブW杯に出場するためには、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)に勝たなくてはなりません。並大抵のことではありません。
「今回のクラブW杯のように、短い時間で相手の分析をして、対応しなければいけない。前半は相手の力を見ながら耐えて、後半どううまく戦い、勝ち切るか。むしろクラブW杯の経験が生きてくると思う。ACLに出ても同じような戦いができるのではないでしょうか。今までとは違ったACLの戦いができると思います。
グループリーグはどうにか乗り切れるかなと考えています。その先、西アジアのチームと戦う時は、戦ったことのないタイプだと思うので、そういうときこそ、前半バタつかないで安定した戦いをして、相手の力量を見ながら、後半ゲームを変えていく。そうした戦いをしたいです」
――短期間の偵察は大変ですよね。
「今回、チャンピオンシップからクラブW杯にかけて、うちの分析の担当者が大活躍してくれました。僕とコーチ陣が映像を見ながら、その分析に合わせてミーティングをするのですが、チームはその分析の能力に支えられていました。彼のよさは、選手に与える情報量が適度だということです。与えすぎず少なすぎず。たくさん与えてもキャパをオーバーするので」
――監督としてもっと磨きたいことはありますか。
「一番はコミュニケーションの部分だと思います。選手とコーチングスタッフの間に入ったり、そういうことを意識してやっているつもりですが、もっとやらなければ、と。今年は有望な選手が多く加入したので、質の高い選手がサブに回るじゃないですか。ですから余計にコミュニケーションを取っていかないと。
また、Jリーグの監督としては、Jリーグ自体のレベルを上げていきたいと思うし、だから、他のチームももっと前からプレッシャーにいって、バチバチやってもらいたいなと思うんです」
――そういう試合を期待しています。
「こちらもチャンピオンシップ(準決勝)で、フロンターレ相手に守る感じになっちゃったんで、そこをもっともっと前からいかせなきゃいけないなと。そうすれば相手も来るわけです。強くなる要素は、そうした戦いの先にあると思います。とにかく仕掛けていきたいです。行ったり来たりではなく、サイドバックをそこに絡めながら、相手の陣内でしっかりボールを保持する形を目指したい。守備の時間を少なくしたい。
今季は左利きのサイドバック(三竿雄斗)が入りました。ペドロ・ジュニオール、レアンドロ、そして攻守にフルに活動できるレオ・シルバも入ってきたので、速い攻撃もできるし、相手陣内で保持する時間も増えるのではないかと。そういうサッカーにしていきたいです」
――バルセロナが目指すべき方向ですか。
「あれが理想だと考えます」
石井監督にインタビューを行ったSportivaの杉山茂樹氏である。
CWC以降、杉山氏は鹿島がお気に入りの様子。
それに応じた石井監督は、チーム作りの方向、CWCの戦い、そして選手配置と育成方について述べる。
こうしたやり方ならばと腑に落ちる言葉が並び納得させられるのは、石井監督の采配・戦術論が素晴らしいからであろう。
バルサを目指す鹿島が、Jリーグを席巻する。
楽しみである。

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クラブW杯「準優勝」の舞台裏
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki
昨季はJリーグ1stステージ及び年間優勝を飾り、天皇杯も優勝。クラブW杯では決勝でレアル・マドリードに敗れたものの見事な戦いを見せた鹿島アントラーズ。今季もゼロックススーパーカップを制し、AFCチャンピオンズリーグ初戦で蔚山現代を下すなど、滑り出しから好調だ。その強さの秘密はどこにあるのか。Jリーグ開幕直前、石井正忠監督に聞いた。
――昨年終盤の快進撃はお見事でした。その要因は?
「クラブW杯であのような成績(準優勝)を収めることができたのは、チャンピオンシップからの流れが大きかったです。セカンドステージの最後、4連敗しましたが、ラスト2試合の内容はすごくよかった。上向いているという感触を、その時点でつかむことができていました」

1967年2月1日、千葉県生まれ。現役時代はNTT関東、住友金属工業を経て、鹿島アントラーズ創設時のメンバーに。98年に現役引退後、鹿島で指導者の道に進む。2015年、監督に就任。2016年、Jリーグアウォーズで最優秀監督賞を受賞
――むしろ、いい感じでチャレンジャーの立場に回れましたね。
「チャンピオンシップのトーナメントも、端からの(3位からの)勝ち上がり。クラブW杯もそうした形。確かにその辺もよかったのだと思います。セカンドステージは成績が出なくて、僕自身、いったんチームを離れました(8月末、4日間休養)が、それもきっかけとしてあると思います」
――ファーストステージ優勝。セカンドステージは一転して低迷(11位)。世間の声は耳に入ったと思います。
「ファーストステージで優勝して、チャンピオンシップへの出場権を得ました。セカンドステージの成績がどうであろうと、勝ち点がどうであろうと、チャンピオンシップの勝者が、Jリーグのチャンピオンになるというレギュレーションですから、それに従っていけばいいのだと」
――セカンドステージは、選手をたくさん起用していました。
「それは常に意識していて、可能性を広げようと、複数のポジションをこなすことができるような練習をしてました」
――それはファーストステージ優勝という貯金があったから?
「そのような予定を立て、計画通りうまく進むと期待していたんですが、実際には途中でチームに一体感がなくなってしまい、立て直しにずいぶん時間を要しました。でも、それが、最後の最後に生きたと思います」
――石井監督の監督観についてですが、監督というイメージはどこから来ていますか。
「おこがましいですけど、オズワルド・オリベイラ。選手のモチベーションの高め方がうまく、スタッフにもやりがいを感じさせていた監督です。僕が現役時代の時は、ジョアン・カルロス。日本人選手とブラジル人選手とを区別なくフラットな目で見てくれる監督でした。
僕個人としては、押しつけたり、教え込むというのではなく、選手の能力を最大限発揮させるためには何をすればいいかに主眼を置いています」
――目指しているサッカーの中身とは?
「まずは守備の安定です。1点取られても、我慢し同点に追いついてしまえば、逆に相手は焦り出す。試合をコントロールできるはずだと。自信は、試合をやるごとについていきました。特に、守備の面で落ち着いた対応ができていた。Jリーグの最後の2試合でそれができて、チャンピオンシップまでの間にもう一回徹底させたんです。再度、守備の安定を図った。結果的にそこがよかったかなと」
――相手ボールの時に強かった印象があります。監督の現役時代のポジションは守備的MFでしたね。
「選手時代は、実は自分からボールを奪いにいくタイプだったんです。インターセプトを常に狙っていました。前へ出て奪う楽しさを知っているので、鹿島もそうしたチームにしたいんです。でも、勝利を前提に考えると、クラブの伝統を引き継ぎ、しっかりとした守備から入りたい。それでいながら、やはり自分たちから積極的にボールを奪いにいく。僕はこのスタイルをどんどん積み重ねていきたい。監督が僕に代わってから、前からのディフェンスは、意識できてきていると思うんです」
――昔の鹿島とはちょっと違いますね。堅守と言われますが、後ろでじっと守るイメージは薄い。鹿島のルーツはブラジルにあると思いますが、プレッシングという意味でヨーロッパ的。他のJリーグのクラブに比べると、それはより鮮明になります。
「そこを見てもらえているというのは僕は嬉しいです。クラブW杯でも、強い相手にただ引くのではなくて、自分の方からも奪いにいくという姿が大勢の人に伝わったから、喜んでいただけたのかな、と」
――レアル・マドリード戦のボール支配率は61対39。かつてサントスがバルセロナと戦った時が71対29(2011年、結果は4-0でバルサ)で、そうなったら絶対に勝てない。見てる人もつまらないだろうなと思います。ですが、最初の何分かを見て、これは期待できる、いけるかもしれないと閃(ひらめ)きました。よく引きませんでしたね。一歩間違えば、大敗もあり得るというのに。
「それでも打ちに出ていった。そこが嬉しかったです。決勝だから強気にいけたこともあります。ミーティングでも『相手を引き込むんじゃなくて、自分たちのスタイルを最後まで貫こうよ』って話しました。
まず、クラブW杯に臨むにあたり最初に話したのは、『4試合戦おう』ということでした。で、さらに『4試合勝つ』。ミーティングの最後に、クラブW杯のトロフィーを写真で見せて、『これを獲りにいこうよ』と。それが、試合が進む中で『現実味を帯びてきたね』という話も出てきて、決勝に進む頃には全選手が疑いなくそちらを向いていた。
もうひとつ、『鹿島はJリーグ発足の10チームに入ることが当初、”99.9999”パーセント不可能と言われたクラブだった』と、その経緯を示すYouTubeの映像を見せたんです。当時の川淵(三郎)チェアマンが出演した番組なんですけれど、その画面の右上に、小さい番組のサブタイトルが入っていたんです。『日本のサッカーが世界一になる日』。前日、その映像を見てそれに気がつき、思わず鳥肌が立っちゃって、これは選手に見せないわけにいかないとなり、『20何年前のこの映像に”日本が世界一になる日”って書いてあるよね。これってまさに、我々の明日の姿じゃないか』という話をしました」
――それにしてもあのような展開になるとは。
「でも、絶対に勝てない相手とは思っていませんでした。僕はバルセロナが好きで、バルサのようなサッカーがしたいなと思って試合を結構見ているのですが、それだけに、バルサにはカウンターで得点は奪えても、徹底的に繋がれて、結局は前の3人にゴールを獲られちゃうんだよな、というイメージしか抱くことができません。ですがレアルには、普段あまり試合を見てない分、そうしたイメージが湧いてこなかったんです」
――日本人はバルサの方がやりにくいのではないでしょうか。戦い方に差があるイタリアやチェルシーのようなチームは、バルサの方がやりやすいけど、日本人はよくも悪くも、何となくあのテイストを持ってしまっていて、同系列でしょう。
「似てますよね。似た部分の競い合いになると絶対に勝てない。ほんと、そう思います。もし相手がバルサだったら、その前に嬉しくて舞い上がってしまっていたかもしれませんが(笑)」
――レアルの方がズレが狙えそうな。
「点を取れるかもしれないと、ちょっと期待が持てたんです、イメージで。失点はするけど、点を取ることはできる。ディフェンスに隙はあるなと感じたので。やられるだけというイメージはなかったです」
――バルサはボールを取り返すのが速い。それが高い支配率の源だと言われます。
「そうなんです。そこがすごいところ。そういう意味では、うちは前線の選手も守備意識は凄く高いし、切り替えも速い。あの奪い方をうちも目指して、実践していきたいです」
鹿島・石井監督「相手チームも、
もっと前からバチバチやってほしい」
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki
――クラブW杯の決勝は、1-0になった後、レアル・マドリードが一瞬、緩みましたね。
「楽勝ムードになったと思います」
――そんな中、小笠原満男選手が惜しいミドルシュートを放った。そうしたら、スタンドも”おっ”という感じになり、それがピッチにも波及して、何となくムードが変わったような気がしました。
「遠藤康が打ったシュートで後半を終えたのですが、あれも自信をつけさせてくれたシーンでした。
2戦目のマメロディ・サンダウンズ、3戦目のアトレティコ・ナシオナル戦も前半は滅茶苦茶、押されながら、そこから逆転してるじゃないですか。あの2試合に勝ったことも、チームにとって大きな自信に繋がっていました」

1967年2月1日、千葉県生まれ。現役時代はNTT関東、住友金属工業を経て、鹿島アントラーズ創設時のメンバーに。98年に現役引退後、鹿島で指導者の道に進む。2015年、監督に就任。2016年、Jリーグアウォーズで最優秀監督賞を受賞
――セルヒオ・ラモスが退場になると思ったら、ならなかった判定の問題については、試合後の監督はことのほか冷静でした。
「あそこでいろいろ言っても仕方ないことで、冷静に対応できる方法はないかなと思って、ああいうコメントになりました。『レフェリーに勇気がなかった』という言い方をしたんですけど。こちらは勇気を持って戦ったのに。悔しかったですけれど、力の差は感じていました。
その中で、曽ヶ端(準)と小笠原ですね。やはりベテランの存在が大きかったと思います。小笠原はゲームの流れが読めます。いま待つべきか、もっと攻撃的にいくべきかの駆け引きが巧い。その点に関しては、他のチームのベテラン選手と比べても上かなと思います。それは彼が年々積み重ねていったもので、若いときにジョルジーニョ等に教わったり、ゲームに出ながら、彼らの姿を見て学んだ経験がいま生きているのだと思います」
――得点のパターンの話なのですが、チャンピオンシップからクラブW杯にかけて、そのほとんどが外からの折り返しでした。
「サイドから崩す。これは徹底してやっています。そこからはいろんなコンビネーションを使って崩そうとしていますが、Jリーグでは分析されているので、十分に発揮できていません。クラブW杯では研究されてない分、出せたのかなと。今季は、新加入選手の特徴を活かしながら、研究されても、さらにその上をいくような得点パターンを作っていきたい」
――メンバー交代も見事でした。昨季終盤の1カ月、試合が立て込んでいた時にうまく使い回すことができました。
「疲労度、パフォーマンスを見ながら、ハッキリ決断することが僕の大きな仕事だと思っています。誰であろうが、戦術も含めてダメなときはスパッと」
――4-4-2は今シーズンも継続しますか。
「中盤の4枚がどういう形になるか、いろいろ試したいと思います。横並びの2トップも、相手ボールの時は変わります。そこは従来の形にこだわらずに。試合が始まると、相手に対応しなくてはいけませんので」
――永木亮太選手がサイドハーフに出たり、サイドバックの西大伍選手がボランチに入ったり、ユーティリティな選手が多いのも鹿島の特徴です。
「それは練習を見ながら探っています。ボランチの選手でも、瞬間、ポジションが変わったりするじゃないですか、流れの中で。その時にどのような対応をしているのか、この場所でも使えるかどうか観察しています。それが後々、生きてくる」
――土居聖真選手はどこでもできますよね。もともとの資質なのでしょうか。それとも監督が練習でユーティリティ性を意識させているのですか。
「うちのサイドハーフは守備の役割が多いので、そこをやらせて、そして本来の2トップに戻す。そこでまたフォワードとしての守備の意識が薄らいできたら、またサイドハーフをやらせてみる。そうした試みを繰り返しながら、2トップ、サイドハーフともにできるようにしていく。そうした練習はしてますね」
――ああいう選手が1人いると……。
「楽ですね。聖真もそうですし、鈴木優磨、永木亮太、柴崎岳にはチャンピオンシップからですけれど、左のサイドハーフをやってもらいました」
――同時に、選手の潜在的な能力も上がりますよね。
「上がります。僕は柴崎岳には、代表でもボランチで出てほしかった。だからずっとボランチで起用してきましたが、代表ではちょっと高い位置で使われることが多かった。トップ下とか。ならば、うちでもサイドハーフをやっておくと代表に呼ばれたときにいいかなと思って(笑)」
――優しいですね。
「選手に能力があるからです。鈴木優磨にも練習で右サイドバックをやらせました。それをやっておくと、自分がサイドハーフとして高い位置で出たときに、後ろのサイドバックとの連携、動きのタイミングが分かる。ゲームの中で、サイドハーフは相手のサイドバックにオーバーラップされると、一緒に戻らなきゃならないじゃないですか。そうした時の対応の仕方とか、サイドバックをやったことがあるかないかで全く違います。紅白戦で20分間はやらせるとか。今シーズンもいろいろ試していきたいです」
――畑を耕しながら、シーズンを乗り切る?
「バランスが難しいですけどね。最初にガーンと落ちてしまうと、上位に戻るのが難しい。自分へのプレッシャーも少なくしながら(笑)、チーム内でいろんな形を作っていきたいなと」
――もう一度クラブW杯に出場するためには、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)に勝たなくてはなりません。並大抵のことではありません。
「今回のクラブW杯のように、短い時間で相手の分析をして、対応しなければいけない。前半は相手の力を見ながら耐えて、後半どううまく戦い、勝ち切るか。むしろクラブW杯の経験が生きてくると思う。ACLに出ても同じような戦いができるのではないでしょうか。今までとは違ったACLの戦いができると思います。
グループリーグはどうにか乗り切れるかなと考えています。その先、西アジアのチームと戦う時は、戦ったことのないタイプだと思うので、そういうときこそ、前半バタつかないで安定した戦いをして、相手の力量を見ながら、後半ゲームを変えていく。そうした戦いをしたいです」
――短期間の偵察は大変ですよね。
「今回、チャンピオンシップからクラブW杯にかけて、うちの分析の担当者が大活躍してくれました。僕とコーチ陣が映像を見ながら、その分析に合わせてミーティングをするのですが、チームはその分析の能力に支えられていました。彼のよさは、選手に与える情報量が適度だということです。与えすぎず少なすぎず。たくさん与えてもキャパをオーバーするので」
――監督としてもっと磨きたいことはありますか。
「一番はコミュニケーションの部分だと思います。選手とコーチングスタッフの間に入ったり、そういうことを意識してやっているつもりですが、もっとやらなければ、と。今年は有望な選手が多く加入したので、質の高い選手がサブに回るじゃないですか。ですから余計にコミュニケーションを取っていかないと。
また、Jリーグの監督としては、Jリーグ自体のレベルを上げていきたいと思うし、だから、他のチームももっと前からプレッシャーにいって、バチバチやってもらいたいなと思うんです」
――そういう試合を期待しています。
「こちらもチャンピオンシップ(準決勝)で、フロンターレ相手に守る感じになっちゃったんで、そこをもっともっと前からいかせなきゃいけないなと。そうすれば相手も来るわけです。強くなる要素は、そうした戦いの先にあると思います。とにかく仕掛けていきたいです。行ったり来たりではなく、サイドバックをそこに絡めながら、相手の陣内でしっかりボールを保持する形を目指したい。守備の時間を少なくしたい。
今季は左利きのサイドバック(三竿雄斗)が入りました。ペドロ・ジュニオール、レアンドロ、そして攻守にフルに活動できるレオ・シルバも入ってきたので、速い攻撃もできるし、相手陣内で保持する時間も増えるのではないかと。そういうサッカーにしていきたいです」
――バルセロナが目指すべき方向ですか。
「あれが理想だと考えます」
石井監督にインタビューを行ったSportivaの杉山茂樹氏である。
CWC以降、杉山氏は鹿島がお気に入りの様子。
それに応じた石井監督は、チーム作りの方向、CWCの戦い、そして選手配置と育成方について述べる。
こうしたやり方ならばと腑に落ちる言葉が並び納得させられるのは、石井監督の采配・戦術論が素晴らしいからであろう。
バルサを目指す鹿島が、Jリーグを席巻する。
楽しみである。

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