分析担当・小杉光正、探偵のような目が欠かせない

鹿島テクニカルスタッフが明かす、
「スカウティングの仕事とは?」

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 佐野美樹●写真 photo by Sano Miki

鹿島アントラーズ・テクニカルスタッフ、小杉光正氏に聞く(前編)

 Jリーグの各チームには、対戦相手を分析する担当者がいる。専門で動く人もいれば、一般的なコーチ業をこなしながら、傍らでその任に就く人もいる。分析とはスカウティング。偵察だ。選手を発見、発掘するスカウトとは違う。

 昨季のJリーグ覇者、鹿島アントラーズは、テクニカルスタッフという位置づけの専任者を置いている。チャンピオンシップを制し、クラブW杯準優勝という快挙を達成した昨季終盤の快進撃の要因として、石井正忠監督が口にしたのが、テクニカルスタッフの功績だった。

 鹿島が専任のポストを設けたのは2007年のJリーグを制し、アジアチャンピオンズリーグに初めて出場することになったタイミングだ。以来、その任に就いている小杉光正氏に話をうかがった。


分析が活かされている? 話し合う鹿島の石井正忠監督(右)と大岩剛コーチ

「取材されるのはありがたいですが、僕の仕事って、いつも陰でコソコソ分析している、いわゆるスパイじゃないですか。スパイなのにこうして取材で表舞台に出るのはどうなのか、と(笑)。鹿島のスタジアムではともかく、鹿島と関係のない2チームが試合をしている現場に、あなたたちの情報を盗みに来ましたよって出かけて行くのも、おかしな話だなと。一応、鹿島は王者なので、他のチームのファンから目の敵にされていやしないかと、スタンドの片隅で、人の目を気にしながらこっそり試合を見ています」

 小杉氏は東京学芸大学大学院出身。同大サッカー部の2学年先輩には、日本代表の現分析担当者、湯浅理平氏がいる。

「2001年のユニバーシアード(北京)に、学生からテクニカルスタッフを出そうということで、当時大学院生だった湯浅さんがチームに帯同することになった。優勝という結果が出たので、『2年後の大会(大邱)も学生スタッフで』となり、その役が僕に回ってきたのです。メンバーには大学の2年後輩にあたる岩政大樹がいました。そこで優勝。2連覇を達成し、次のイズミル大会(トルコ、2005年)は3連覇だ! ということに。そこでまた声をかけてもらい、優勝。3連覇を達成しました。大学院を卒業し、FC琉球でコーチをしているときです。その後、FC刈谷のコーチを経て、鹿島に分析担当として招かれたというわけです」

「当初の希望はプロコーチでしたが、湯浅さんがFC東京に分析担当として呼ばれ、プロの現場に仕事として関わる方法は他にもあると知り得たことが励みになった。大学の同期でプロになった選手がいましたが、彼らは引退してコーチになれば、選手時代の経験を活かすことができる。そうした中で、僕が彼らと競い合おうとすれば何が必要かと考えたとき、分析は自分の武器になるかなと思い、本格的に勉強を始めました。分析のプロになろうと思って、この道に進んだわけではありません。運がよかったというか、やはりユニバーシアードのスタッフに呼んでもらい、結果を出したことが大きかったと思います」

 テクニカルスタッフ。分析のスペシャリスト。どのような瞬間に、この仕事の喜びを感じるのだろうか。

「分析通りに事が運べば、ハマったという充実感を得られますが、それだけではサッカーがつまらなく見えてしまう。思い通りにいくこともあれば、いかないこともある。怒られちゃうかもしれませんが、思い通りにいかないのがサッカーの魅力で、そうした中で勝利の確率を上げるのが、分析担当の仕事の魅力かなと。サッカーは実際に始まってみないとわからない。でも、始まるまでにできるだけ多くの準備をした方が勝利の確率は上がる。そう信じて仕事をしています」

「現場で試合を見る場合は、せっかく会場に来ているんだから、テレビに映らない箇所を見ようとします。気になるシーン、プレーをメモします。それをもう一度後で見直すのですが、チームの傾向はハッキリ出ますね。たとえば、選手が走っていなくてもパスが出るというシーンを見せられると、普段から練習しているプレーなのかな、と」

 昨年のJリーグチャンピオンシップ決勝。浦和に逆転勝ちした第2戦が行なわれたのは12月3日で、クラブW杯の第1戦、対オークランド・シティ(ニュージーランド)は、そのわずか5日後(12月8日)に迫っていた。

「チャンピオンシップを戦うのが精一杯で、クラブW杯の準備はそこから始めました。オークランドは、ホームページに多くの情報を出しているんです。クラブ側から積極的に発信していかないと、アピールする機会が増えないと考えているのでしょう。YouTubeにも映像が多く出ていました。

 2年前のこの大会で広島が対戦していたことも幸いしました。その映像を見て、知り合いにどんなチームだったかを聞いて、監督は当時と同じなので、サッカーの質、やろうとしていることは変わりない。選手もあまり代わっていない。サッカーに大きな変化はないだろうと。情報は集めやすかったです」

 石井監督は大会前、「4試合するつもりで大会に臨む」と述べていた。ということは、分析も目前の試合の勝利を見越して、先々に進んでいる必要があった。

「集められる情報はすべて集めておこうと。1チームの分析が終わったら、次に進むというスタイルで対応していました。トーナメント戦なので、どちらが勝つかわからない状況ですが、その辺りを読みながら」

「とはいえ、次のマメロディ・サンダウンズ(南アフリカ)は、映像を見る限りでは強敵。かなりやるのではないかと思いました。代理人が売り出しを図りたいと考えたか、こちらもYouTubeに画像が多数掲載されていて、選手の特集やゴール集が組まれていました。中でも、”南アのクリスティアーノ・ロナウド(カーマ・ビリアッド=ジンバブエ代表)”など、前線にタレントのある選手が揃っていました」

「映像ではものすごいスピードで相手をブッちぎっていますが、DFの対応はどうなのかとよくよく見ると、同じような相手から、同じようなパターンでしか点を取っていないことがわかった。やりたいことをやらせてもらえる環境の中で奪った点なのかなと。いまネットには情報が溢れていますけれど、その取捨選択にはいつも気をつけています。すべて鵜呑みにしない。その辺りの情報をどこまで選手に提示するか、気をつけています」

 2-0で勝利した対マメロディ戦の前半。スコアは0-0ながら、鹿島はシュートなし。やられっぱなしの展開だった。

「相手の監督も、これは楽勝だと思っていたら後半やられた、みたいなコメントをしてましたが、鹿島の選手の対応力は、試合を追うごとに上がっていきました。速いとか、強いとか、巧いとかは、あらかじめ選手に伝えました。でも、それがどれほどなのかについては、実際に対戦した選手でなければわからない部分です。マメロディ戦は、対応できるまで45分かかったことになります」

「相手のエネルギーを鹿島が吸収した。45分耐えて、相手に慣れて、対応できるようになってから、鹿島のゲームが始まったという感じでした」

 続く準決勝の相手は、南米王者のアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)。日本から開催国枠で出場したJリーグのチームで準決勝に出場したチームは過去3チーム(浦和、G大阪、広島)あるが、いずれも敗退。まさか鹿島がこの壁を破るとは、想像だにしなかった。しかも3?0というスコアで。

「Jリーグの各チームは、鹿島を分析し、対策を練ってきます。クラブW杯に出場してくるチームは、鹿島のことを考えずに臨んでくる。対鹿島ではなく、自分たちのサッカーをすれば大丈夫だと思って。それがうまくいかなかったときにどう修正するか。しかし、残り時間はもう45分しかない。相手はおそらくそういう状況に陥ったのだと思います」

 アトレティコ・ナシオナル戦。土居聖真の先制PKが決まったのは33分。

「その前からボールをしっかり運べるようになっていました。相手に対応するまでの時間は、マメロディ戦の45分から30分に短縮されました。前線に突出した力を持つ選手がいる相手を、GKを含めたディフェンスラインの組織で抑えることができました」

「それが決勝のレアル・マドリード戦ではさらに短くなり15分になった。45分、30分、15分と、選手の対応力が、試合をこなすうちに上昇していったのです。石井監督も同じ見解でした」

鹿島スカウティング担当は「レアルなら
勝てなくはない」と分析していた

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 佐野美樹●写真 photo by Sano Miki

鹿島アントラーズ・テクニカルスタッフ、小杉光正氏に聞く(後編)

 クラブW杯で決勝に進出。レアル・マドリードと対戦した鹿島は、前半9分、ベンゼマに先制ゴールを許した。だが、ほどなくしてベテラン小笠原満男がミドルシュートを放つと、試合は一方的な内容ではなくなっていった。

「この大会で鹿島の選手の対応力が大きくアップした」と、鹿島アントラーズで分析を担当するテクニカルスタッフの小杉光正氏は回想する。


クラブW杯決勝でレアル・マドリードを追い詰めた鹿島アントラーズ

 レアル・マドリードの分析は、準決勝で勝つことを前提に、その前から行なわれていたという。

「30何試合負けなしで乗り込んできたレアル・マドリードでしたが、よくよく見ると、点を取られている試合はそれなりにあって、その失点シーンに目を向けると、意外にも同じような取られ方をしていることが多かった。点は奪われるかもしれないけれど、こちらが点を奪えないことはないかな、と」

 相手がレアル・マドリードではなくバルセロナなら、試合前に決着がついていたと述べたのはバルサファンを公言する石井正忠監督だが、小杉分析担当の見立ても同じだった。

「質が高いうえに、ボール回しを戦術的に行なうバルサの選手から、ボールを奪える気がしませんが、レアル・マドリードには、打ち合わなければ可能性はある。そう思いながら、分析をしていました」

「何試合、何十試合見ても、点を取っている選手は同じ。3トップのうちの2人、クリスティアーノ・ロナウドとベンゼマです。ここをどう抑えるか。というより、チームとしてどのように巧く対応するか。この2人が点を取るための形がどこにあるのかを掘り下げるのが分析の力です」

 決勝戦。鹿島は引かずに、可能な限り前から圧力をかけた。その点について石井監督は、こちらのインタビューの際に次のように胸を張った。

「強い相手にただ引くのではなくて、自分の方から奪いにいく姿が大勢の人に伝わったから、喜んでいただけたのかな、と。それでも打ちに出ていった。そこが嬉しかった。決勝だから強気にいけたこともあります。『相手を引き込むんじゃなくて、自分たちのスタイルを最後まで貫こうよ』と」

 鹿島が15分でレアル・マドリードに対応できたことと、石井監督の攻撃的な姿勢とは深い繋がりがある。

「打たれたシュートに反応するのか。ボールの出どころを抑え、シュートを打たせないことを考えるか。監督がどちらを求めるかで変わってきます。そうした監督の姿勢を全員が理解し、同じ方向に進んでいこうとしているのがいまの鹿島。チームとしてどう戦うか。それがハッキリしていたことが、あのような結果に繋がったのだと思います」

「レアル・マドリードとの決勝戦を含めて、実は分析をしながら、クラブW杯の前に、これは勝てそうもないなと思ったことは一度もなかったのです」

 昨季終盤、鹿島の快進撃は突如始まった。チャンピオンシップ準決勝で川崎フロンターレを下したその直前の試合までは、リーグ戦で4連敗を続けていた。

「サッカーとは、いくつかの小さなグループが集まって組織されたものだと思うのですが、それが少しズレてうまくいかなくなっていたのがJリーグの最後の4連敗。それがチャンピオンシップに向けてチームとして固まってきて、結果が出て、方向性に間違いがないことを確信し、個の対応力が上がり組織として戦うことができるようになった。その結果がクラブW杯準優勝だと思います」

 日本人は、勤勉で真面目で忠実だと言われる。その魅力をピッチの上で具体的によりよいものとして示しているのが現在の鹿島だろう。日本サッカー史上でも類を見ない頭脳的な集団に見える。そして、その一翼を分析担当者は確実に担っている。

「サッカーの分析はバスケットボールなどに比べて遅れているという側面があると思いますが、バスケットは手でボールを扱う球技なので、足で扱うサッカーに比べてミスが少ない。その分だけ計算できますが、サッカーは、ここにパスコースがあるので、通せばいいじゃんと言われても、通らない場合がある。分析できていても、個人の能力が上がらなければ、おそらくパスは繋がらない。バルサはそれを遂行する能力があります。クラブW杯でも、レアル・マドリードとの決勝に関しては、個人の差は相当にありました。でも、鹿島はその差を克服した」

「具体的にいえば、前のグループと後ろのグループの繋ぎ役を務めるボランチのところを分断してしまえば、チームは機能しなくなり、戦力は半減します。クラブW杯ではそこに狙いをつけながら戦いました」

 偶然ではなく、論理的に、知的レベルの高いプレーを披露した鹿島。その陰の功労者、小杉分析担当はそれでも控え目だ。

「僕は選手としては二流、三流。駆け引きだったり、プロ選手の感覚を知りません。その辺りの足りないところを、選手時代に優勝経験のあるコーチから教えてもらったり、手伝ってくれたり、補ってくれたりする。こういうことを知っていたら、ということは多いですね」

 例えば欧州のサッカーを見ていると、プロサッカー選手としての経験がない人が名監督になるケースが目立つ。「名選手名監督にあらず」が、むしろ常識として浸透しているほどだ。分析担当が監督になっても何ら不思議のない世界が広がっている。

「多分、バランスだと思います。経験者ばっかりだとうまくいかないこともあるし。選手経験のない監督の傍らには、選手経験のあるコーチが座っているのだと。その中で僕は、よくも悪くも客観的でいようと思っています。試合に勝っても、よくなかったところのあら探しをしたり(笑)。勝負には厳しくいきたいです。チームを去った後、やっぱりあいつじゃなきゃダメだったなと言われるような存在でありたいなと思います。スパイですが、この職業の価値を高められるような、いい人でありたいものです」

 次戦に向けて聞かれた監督が「自分たちのサッカーをするだけです」と、常套句のようにコメントするのを耳にすることがある。相手に対応しながら、自分たちのサッカーをする。これが今日的サッカーのあるべき姿だと思うが、一方だけを強調されると、破れかぶれの非論理的な思考法に聞こえる。

 小杉氏のような分析担当者が必要不可欠な存在に見える理由だ。小杉氏には、経験のなさを逆手に取ってメリットにしている印象を受けた。プロ経験者に不足しがちな知的な味でもある。勝利しても、よくない箇所を論理的に探そうとする客観的かつ冷静な分析。分析担当者の、探偵のような目が欠かせない時代を迎えていると痛切に感じるのだ。


鹿島のテクニカルスタッフである小杉光正を取材した杉山茂樹氏である。
分析という業務について詳しく語られる。
本来はプロのコーチを目指したというが、様々な要因が重なり鹿島にて分析の業務を行うこととなったとのこと。
CWCの躍進は小杉の素晴らしい手腕があってこそ。
杉山氏は「日本人は、勤勉で真面目で忠実だと言われる。その魅力をピッチの上で具体的によりよいものとして示しているのが現在の鹿島だろう。日本サッカー史上でも類を見ない頭脳的な集団に見える。そして、その一翼を分析担当者は確実に担っている」と小杉を評す。
小杉光正いてこその鹿島の躍進と言い切って良さそうである。
これからもスタッフも含めたクラブの力で勝利を積み重ねたい。
期待しておる。


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