ウルヴズ・田代、トップ下で躍動

楠神順平と田代有三、シドニーの地で活躍する2人の元J戦士。それぞれの立場で挑む異国での戦い
楠神順平と田代有三。かつてセレッソ大阪でともにプレーした2人は今、オーストラリアの地で奮闘している。それぞれ違った道を歩んではいるが、ともに現地で高い評価を獲得した2人は異国の地で何を思いサッカーに打ち込んでいるのだろうか。(取材・文:植松久隆【シドニー】)

2017年05月03日(Wed)9時00分配信
text by 植松久隆 photo Taka Uematsu, Nino Lo Guidice

PKを外してシーズン終了。120分の末に背負った重圧

 家族と買い物に行く前の貴重なオフの午後に時間を割いてくれた楠神順平(29/ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ、以下WSW)。シドニーのお洒落な店が並ぶエリアのカフェの一角、リラックスした雰囲気の中でのやり取りで質問に打てば響くように応えてくれた姿は、前回のインタビュー時とは別人のようだった。

 それもそのはず。前回楠神と顔を合わせたのは、Aリーグ年間王者を決めるプレーオフ「ファイナルシリーズ」の「セミファイナル進出決定戦」対ブリスベン・ロア戦(4月21日)の敗戦直後。PK戦にもつれ込んだ激戦で、WSWの6人目として蹴ったPKが相手GKに弾き出されて、がくりと両膝からピッチに崩れ落ちた直後だった。

 その夜、ロッカー裏で待ち構えた筆者の前に現れた楠神は、大事な試合の敗戦の責任の大きさに呆然自失。「あの時はボーッとしてて、質問にきちんと答えられたか全然覚えていない」と本人が後に振り返ったその落胆ぶりは、筆者も最低限のことを聞いて手短にインタビューを終えなければならないほどだった。

 プロ入りしてからほとんど蹴ったことがないというPK。しかも、両軍の誰もが失敗していない状況下で、猛るアウェイサポーターの眼前。6人目としてボールをセットした時には計り知れない重圧があったろう。120分の死闘で最も動き回り、足も攣っていた選手に誰かが背負わなければいけない辛い役回りが回ってくる運命の皮肉だろうか。

 そのPK自体は「もう、頭が真っ白で……」と顔面蒼白になりながら振り返るのが精一杯だった。実際、自分がPKを外してからの試合後の記憶はかなり曖昧だという。

「うーん、皆に申し訳ないのが一番…120分、皆、本当に集中して戦ってたし、本当に頑張っていた。うーん、それなのに、俺が(PKを)外して負けちゃったから…」

 絞り出すように「うーん」という間投詞を何度も挟みながら試合後の楠神は懸命に言葉を繋いだ。その日のコメントは、「こっち(豪州)にチャレンジしに来て、なかなか満足のいく結果が出ず、最後はこんな形で(Aリーグのシーズンを)終えることになって本当に悔しい」との一言で終わった。

「来年はこの悔しさを全部ぶつけたい」

 そのわずか5日後の4月26日、楠神の姿は浦和レッズの本拠地・埼玉スタジアムにあった。ショックが抜けきれないまま臨んだアジアチャンピオンズリーグ(ACL)での日本凱旋試合は、1‐6と浦和に力の差を見せつけられ屈した。

 しかし、その試合で元アジア王者WSWの意地を見せる技ありのゴールで一矢を報いるなど、楠神は敗者の中で一際目立っていた。ピッチ上を諦めずに駆け回る姿は、何とかして少しでもファイナルシリーズ敗退の責任を償おうとしているかのようにも見えた。

 そして、その日本遠征から帰国した翌々日、シドニーのカフェで相対した。指定の場所に向かう途中、ふと気づいた。インタビューを行うカフェのあるエリアには、シドニー・フットボールスタジアム(アリアンツ・スタジアム)がある。もしあの日、ブリスベン・ロアに勝っていれば、相まみえるはずだった地元のライバルであるシドニーFCのお膝元。しかもその日は、Aリーグ・ファイナルシリーズのセミファイナル当日だった。

 セミファイナル進出の夢が絶たれたブリスベン戦の後には「ダービーどうのよりも、このチームで歴史を創ろうと話していたので、それが出来なくなって申し訳ない気持ちでいっぱい」と話していた楠神。

 Aリーグ史上最高の勝ち点を挙げ、圧倒的な強さを誇ったシドニーFCに今季の公式戦で唯一土を付けたのは、WSW(2月18日の第20節)で、ダービーで仇敵を倒してのファイナル制覇という新たな「歴史」を刻む、力になりたいーーそんな思いは叶わないままに終わった。

「きつかった。でもやっぱり、それも自分の実力。でも、(ファイナルシリーズでの)敗戦後にみんながとてもいい言葉をかけてくれて、自分の中で切り替えることができて、次の試合(ACL浦和戦)で点が取れた。来年はこの悔しさを全部ぶつけたい」と語る顔に、まだ一抹の悔しさが残る。

楠神は来季も豪州で「得点という結果も求めていきたい」

「これだけ(筆者注:チーム最多タイの公式戦34試合に出場)出してもらって、3得点は本当に申し訳ないという気持ちが強いし、全然納得していない。そこが自分の課題で、ただ走るだけでなくて、アタッカーとして得点という結果も来年は求めていきたい」

 問わず語りに「将来」の話が出た。

 元々2年契約の楠神は、余程のことがない限りは残留が基本路線。ACLグループステージ最終節を終えた後にトニー・ポポヴィッチ監督と面談を行って今後の話をするというが、本人は既にしっかりと来季を見据える。

 それだけではない。「すごく住み心地がいいし、チームの仲間やスタッフにもとても良くしてもらっている。このチームで出来ることがあるのなら、自分としてはできるだけ長くやっていきたい」と契約が切れる来季以降も視野に入れている。

 今季の挑戦で日本時代になかったタフネスを身に付けた楠神の雄姿が来年のAリーグの舞台でも見られるものと期待して待つことにしたい。

 このインタビューで、Aリーグに来た日本人選手にあまねくぶつけてきた質問をぶつけた。

「日本人選手でAリーグに来たら面白いのは誰?」との問いにしばらく逡巡した楠神の口からは、意外な名前が飛び出た。

「それこそ、(田代)有三さんが、うち(WSW)の1トップだったら相当いいと思う」

 今季を通じて1トップを張れる選手の不在に泣いた楠神が抱いた切実な思い。その熱い思いが「あそこで全部収まるし、困ったときにボールを収めてくれる技術のある1トップがいれば、本当に助かる」との言葉で豪州にやってきたばかりのセレッソ大阪時代の先輩へのラブコールとなった。

3月に豪州へ渡った田代有三。新天地で任されたポジションは…


今年から豪州でプレーしている元日本代表FWの田代有三【写真:Taka Uematsu】

 楠神と会った同日の夜、その熱い思いを携えて電車を乗り継ぎ、シドニーの南郊ミランダまで、2月に来豪した元日本代表FW田代有三(34/ウーロンゴン・ウルヴズ)の出場試合の取材に足を延ばした。

 NSW州1部(豪州2部相当)ナショナル・プレミアリーグ(NPL)NSWのサザーランド・シャークス対ウーロンゴン・ウルヴズの試合には、ウルヴズの田代に加えて、サザーランドにも村山拓也、梶山知裕と日本人選手が所属しており、さながら「日本人ダービー」となっていた。とはいえ7人の日本人が活躍するリーグではさほど珍しいことではないのだが。

 この試合の前、すでに7試合で3得点を決めている田代。この日のポジションは、2トップの下のいわゆる“トップ下”。聞けば、ここ数試合はこのポジションでの起用が続くという。長いキャリアをチームの最前線で体を張り続けてきた生粋のセンターFWが慣れないポジションで起用されるのは何とも不思議な光景だったが、試合を通じて古豪ウルヴズの攻撃の中心にいたのは田代だった。

「2,3試合試合ボールが回らず、うまく行かない試合が続いた。他にパスを出せる選手がいなくて、監督にボールをもう少し触ってくれと言われてひとつポジションを下げてから4試合目。それで3勝しているから、こっちの方がしっくりきてるという感じ」と語る田代。

「このポジションだとボールを蹴れるから自分でリズムを掴みやすいですけど、やっぱり僕は前の選手なんで、あまり下がり過ぎてもゴールに届かなくなる」とストライカーとしての矜持も覗かせる。

 慣れないポジションでも結果を出さなければいけない“助っ人”の立場と義務に変わりはない。この試合での田代は、今季ここまで1勝となかなか波に乗れないサザーランド相手に、チームが求める以上の働きを見せ後半途中でベンチに退いた。交代直前には、フリーキックからのゴール前の交錯でボールがゴールに吸い込まれた。

 スタンドの観衆やメディアボックスにいた筆者など誰もが「うわ、ハットトリック!?」と騒いだが、試合後には「僕は触れてないので、キッカーのゴールかオウンゴール。自分のゴールになればラッキー(笑)」と涼しい顔。それでも「こういうゴールがもっと必要」と自画自賛する流れからのファインゴールとPKで2得点、幻のハットトリックの大活躍と充分の働きを見せた。

監督やファンから高評価を獲得した田代。ニックネームは「シショウ」

 そんな田代にチームの評価もすこぶる高い。試合後、典型的なストライカーのトップ下起用の意図などをウルヴズのジェイコブ・ティンパノ監督に聞いた。

「ここまでのユウゾウの働きは期待以上のものだ。最近は中盤でも彼の経験でチームの力となり、それでいてゴールも決め続けている。素晴らしい人間性と高いプロ意識を見せる得難い選手だ。トップ下でも非常に自信をもって、その経験でチームにいい影響をもたらてくれている。今のように少し下がり目で彼にプレーしてもらうのがよりチームにフィットすると思う」と語った。

 ここまで、22試合しかないリーグで8試合5得点とコンスタントにネットを揺らし続ける田代。このハイペースを維持できれば、残り13試合で公言している「15得点」というノルマの達成も夢ではない。そして、チームが目標とするプレーオフ進出圏内入りも十分に可能だ。

 しかし、自身の好調にも浮かれることはない。「(好調とは言っても)強い相手、上位陣相手にもゴールを決めていかなきゃいけないし、チームが良くないときに(チームを救うような)1点を決められるようやっていきたい」とゴールの“質”にもこだわっていく。

 最後に日中に楠神から預かった「ワンダラーズ(WSW)で待ってる」とのメッセージを伝えると、「ワンダラーズ? 入れてたら、入ってましたけどね(笑)」と笑ってリアクションするも「でも、このチーム(ウルヴズ)で僕はとても居心地がいいし、すごく大事にしてもらって、チームの中心として考えてくれているので、とてもやりがいがある」とキッパリ。

 早ければ2018/19シーズンから実現するAリーグのチーム数拡大に、単独または近郊地域とのジョイントでの参戦を目指すチームのために尽くしていくことを第一義とする姿勢に変わりはない。

「体やコンディションは万全なので、とにかくケガなくやりたい」と笑顔の田代。親しいチームメイトには「シショウ(師匠)」のニックネームで呼ばれ、ファンにも「ユウゾウ」と頻繁に声を掛けられるなど、すっかりチームにも馴染み、シドニーの南の外れからAリーグ入りを目指す古豪で自分の居場所を作っていた。

 セレッソ大阪で2015年に共にプレーした楠神と田代。お互いが「まさか豪州で再会するとは思っていなかった」と口を揃える。田代の本拠地ウーロンゴンが少し遠いこともあって、ここまできちんと会って話せていないという2人は、この取材の翌日に家族ぐるみでシドニー中心部の遊園地に出かける予定とのことだった。そこで、2人がどんなことを語り合って旧交を温めたのかは、次回の取材で聞くことにしたい。

 豪州でチャレンジする日本人選手のトップを走る両名の活躍を今後もしっかりと追っていきたいと思う。

(取材・文:植松久隆【シドニー】)

【了】


豪州にて活躍する日本人選手を取材したフットボールチャンネルの植松氏である。
ウェスタン・シドニーの楠神は「(田代)有三さんが、うち(WSW)の1トップだったら相当いいと思う」と語る。
セレッソにて共に戦った田代の才能を高く評価しておる。
その田代も今季より豪州二部にてプレイしておる。
8試合で4ゴールを決めておるウーロンゴン・ウルヴズの田代は、ここしばらくトップ下を任されておるとのこと。
慣れぬポジションも助っ人としてゴールを狙っておる。
そして、「でも、このチーム(ウルヴズ)で僕はとても居心地がいいし、すごく大事にしてもらって、チームの中心として考えてくれているので、とてもやりがいがある」と語る。
充実したフットボール人生を送っておる様子。
豪州の地にて躍動し、活躍の報を日本に届けて欲しい。
期待しておる。

にほんブログ村 サッカーブログへ
にほんブログ村


鹿島アントラーズ ブログランキングへ

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Fundamentalism

Author:Fundamentalism
鹿島愛。
狂おしいほどの愛。
深い愛。
我が鹿島アントラーズが正義の名のもとに勝利を重ねますように。

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
RSSフィード
リンク