常勝軍団の秘密に迫る

強化部長に聞く。アントラーズが「勝負強く」あるために、植えつけたもの
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー1
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 /写真:西尾和生 2017年06月13日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q1.「鹿島は勝負強い」というイメージが定着しています。他クラブと比べて「ここだけは負けない」と思える部分はどこでしょうか。



――就任から20年以上にわたり、強化部長として重点を置いてきたのはどんなことですか。

鈴木 私のクラブづくりの一番のテーマはいかに選手、スタッフの帰属意識を醸成するかです。
 チームには約50人の人間が集まっていて、それぞれが個人事業主です。簡単にいうと、選手は試合に出ないと報酬が上がりません。だから、常に自分が試合に出るために競争をします。もちろん、それは必要なことです。しかし、「自分のために」という思いだけでは組織の力になりません。みんなが「チームのために」という思いを持ったとき、組織は力を発揮します。そこで重要になるのが帰属意識です。帰属意識が持つパワーは計りしれません。
 鹿島にはクラブの礎を築いたジーコの教えをまとめた「ジーコスピリット」という哲学があります。「献身、誠実、尊重」とまとめていますが、私はそれを「結束力と勝利へのこだわり」と要約しています。この二つを具現化するにはどうしたらいいかと考えた末、帰属意識を植えつけるという答えに行き着きました。

――帰属意識を醸成するために、どういう工夫をされていますか。

鈴木 自分がこの組織に関わっているという参画意識がないと帰属意識は生まれません。そのために私は「適正戦力」というものを意識してチームを編成しています。いい選手がたくさんいれば勝てるというものではありません。10の力を持った選手が10人集まれば100の力になるとは限りません。戦力が過剰になると不協和音が生じたり、足の引っ張り合いが始まったりして、マイナスの作用が働いてしまいます。だから、戦力補強は「薄すぎず、厚すぎず」を意識しています。厚すぎないほうが選手は参画意識を持ち、それが帰属意識につながり、結束力が生まれます。
 コーチングスタッフにしても、ちょっと人が足りないくらいのほうがいい。うまくいっている組織はそういうものではないでしょうか。

――他のクラブより鹿島が上回っているものは何でしょうか。

鈴木 これまで話してきた帰属意識と、もう一つは「クラブ全体で戦うんだ」という思いです。戦っているのはチームだけではありません。事業、広報、運営などに携わっているすべての部署のスタッフが自分は「チームの勝利のために働いている」という意識を強く持って戦っています。
 たとえばスポンサー営業も、チケット販売もチームの勝利のためなんだという思いを抱いて働いています。チームに勝ってもらいたいから自分は頑張ってチケットを売るんだという思いです。それは入場料収入でいい選手を補強できるからというようなお金の問題ではありません。重要なのは職員の思いです。その思いを選手が肌で感じているから、負けられないという気持ちが高まります。これが、ジーコスピリットである勝利へのこだわりを生んでいるのだと思います。

――それにしても鹿島は勝負強いですね。昨季の終盤のJ1チャンピオンシップ、クラブワールドカップ、天皇杯の戦いで勝負強さを見せつけました。(※2016シーズンJリーグ王者、CWC準優勝、天皇杯優勝)

鈴木 大事な試合を前にすると、自然に選手たちは「ここで勝たなきゃ、何のためにやってきたのかわからない」ということを口にします。結束して集中力が高まっていくのを、端から見ていて感じます。
 そういうときに注意しなければならないことがあります。大舞台ではアドレナリンが出て、気持ちが高揚します。野球でいえば、ここで一発、ホームランを打ってやるという気持ちになりがちです。
 でも、大きな試合をものにするには、ほんの小さなことを正確にこなして、積み上げていくのが大切です。あと50センチ相手に体を寄せるとか、1メートル余計に走るとか、ちょっとポジションを修正するとか、ささいなことを積み重ねることが勝利につながります。野球でいえば送りバントをきっちり決めるということです。
 鹿島は2002年度の天皇杯決勝で京都サンガに敗れました。あのときは相手を甘くみて、負けるわけがないという雰囲気の中、選手たちが「オレが試合を決めてやる」という気持ちを抱いてしまいました。その反省を踏まえて、私は大きな試合の前に必ず「小さなことをいかに正確にこなすかが大切なんだよ」という話をします。鹿島が勝負強くなったのは、敗戦から学んできたからでもあるのです。

監督交代、選手移籍……それでも鹿島が伝統を受け継げる理由
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー2
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 /写真:西尾和生 2017年06月13日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q2.クラブの伝統を継承していくために、どんなことを考えていましたか?



――鹿島にはいかにも鹿島らしい選手がそろっていて、若い選手、他のクラブから移籍してきた選手も徐々に発言が鹿島らしくなっていきます。

鈴木 勝利へのこだわりとか、チームへの献身とか、ジーコが残した哲学がクラブのベースにあります。その哲学、文化、しきたりを失ったら、アントラーズがアントラーズではなくなってしまいます。
 選手たちをアントラーズらしくしているのは、鹿島の練習グラウンドの空気です。ここは「サッカーに真摯に向き合わない者は必要ない、帰っていいよ」という厳しい雰囲気に包まれています。実際、チームのためにならないことをした選手は、そういう言葉で先輩から叱責されます。この空気を私は大切に守ってきました。おかしな言動をした選手にはその場で厳しく注意しますし、個人面談もします。練習グラウンドの空気が選手を鹿島の色に染めていきます。
 選手たちはいつの間にか「アントラーズは勝利を義務づけられている」「2位では意味がない」「優先すべきはチームの勝利であり、自分を犠牲にしなければならないときもある」と口にするようになります。
 最近、土居聖真(25)がそういうことを言うようになったのには驚きました。鹿島ユース時代の聖真は「オレはオレ」というタイプでしたから。「よく、おまえがそんなことを言うようになったな」と、からかいたくなります。でも、そういう言葉を耳にするとうれしいですよ。

――鹿島の選手はこうあるべきというものは、強化部が選手に伝えているのですか。

鈴木 そういう話をすることもありますが、それだけではありません。チーム内で先輩が後輩に継承していきます。草創期なら本田泰人、秋田豊、奥野僚右、相馬直樹らが後輩に継承し、いまなら小笠原満男、曽ケ端準がその役割を果たしています。
 しかし、最近、継承という作業が難しくなってきています。以前は本田、秋田がそうだったように、選手が長い期間、鹿島でプレーしてくれました。その間に継承という作業ができます。いまは選手の海外志向が強まり、頭角を現してきたと思ったら、欧州のクラブに移籍してしまいます。内田篤人(シャルケ)も大迫勇也(ケルン)も柴崎岳(テネリフェ)もそうでした。選手から選手へと伝統を継承する時間がなくなっているので、危機感があります。
 だから、OBの柳沢敦(40)、羽田憲司(35)を若いうちにコーチとして呼び寄せました。彼らは選手と年齢があまり離れていないので、兄貴分として鹿島の選手のあるべき姿、鹿島の選手に求められる姿勢について語りかけてくれます。かつて本田や秋田が果たした役割をコーチの彼らに与えたわけです。

――鹿島のことを知り尽くしたOBを継承役として使っているわけですね。

鈴木 欧州のクラブでプレーする内田や大迫もその役割を果たしてくれています。OBが帰ってきやすい雰囲気づくりをしていることもあり、彼らはオフになると必ず鹿島のクラブハウスに立ち寄ってくれます。鹿島で練習をすることもあるし、内田の場合は昨年、治療とリハビリのために長い間、滞在していました。そういうときは意図的にいまの鹿島の選手とOBが交わる時間をつくっています。
 監督の許しを得て、OBがチームと一緒に練習する機会もつくります。そのとき、OBは昔話や外から見たアントラーズについて語るでしょうし、「鹿島とはこういうクラブなんだぞ」という話をしてくれるでしょう。そうやって伝統が継承されていきます。このところ監督には鹿島のOBを据えています。
 監督交代にも継承の意味を込めています。2012年にジョルジーニョを監督にしたのは、彼が選手として鹿島でプレーし、このクラブの伝統を熟知しているからだし、ジョルジーニョが家庭の事情で退任せざるをえなくなったときは、一度、鹿島を率いた経験のあるトニーニョ・セレーゾに指揮権を託しました。
 15年のシーズン途中にセレーゾを解任した際は、選手、コーチとして20年以上、鹿島に尽くしてきた石井正忠をコーチから昇格させ、今年は石井監督解任の後を、同じく選手、コーチとして鹿島に在籍してきた大岩剛につなぎました。鹿島を知り尽くした監督がチームを率いることで、伝統が守られていくのです。

「公平性は大事だが平等にはしない」アントラーズ常勝を築いた男の信念
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー3
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 写真:西尾和生 2017年06月15日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q3.選手と食事に行かない、選手に子どもがいるかどうかも知らない、と伺いました。その理由をあらためてお教えください。



――選手の私生活には無関心で、そこには踏み込まないということでしょうか。

鈴木 選手の私生活をほったらかしにしているわけではありません。生活が乱れたらプレーに影響するので、選手がピッチ外でどうすごしているかにはアンテナを張っています。「いつも帰りが遅い」とか、「ある店に入り浸っている」とか、「東京にしょっちゅう遊びに行っている」という悪い情報は私の耳に入ってくるようになっています。
 しかし、選手に子どもが何人いるとか、どんな車に乗っているかには興味がないし、知らない方がいいと思っています。GKの佐藤昭大が家を新築して、年末に引っ越しというタイミングで戦力外通告をしたことがあります。佐藤が家を建てたばかりであるのを知らなかったのですが、もし知っていたら戦力外にしづらかったと思います。だから、そういうことは知らない方がいいのです。選手とは食事にも行きません。

――それはなぜですか。

鈴木 強化部長は公平でなければいけません。「満さんはあいつと食事に行っているのに、オレとは行ってくれない」「あいつばかり優遇されている」と思われるようなことがあってはまずいでしょう。なぜなら、私がチームのルールブックであり、審判でなければならないからです。

 何かもめごとが起きたとき、ジャッジするのは私です。私がダメと言ったらダメ。そうでなければなりません。「審判」である私は公平性を保つ必要があります。だから、選手との間に一線を引いています。私は選手の車が駐車場にとまっていたら、その店には入りません。選手も私の流儀がわかっているので、私のいる店には入ってきません。私だってたまには選手と食事がしたいので、寂しい部分はあります。

――選手はすべて平等に扱うのでしょうか。

鈴木 それは違います。
 公平性は重要ですが、すべての選手を平等に扱うわけではありません。数々のタイトル獲得に貢献してきた小笠原満男や曽ケ端準と加入して1、2年目の選手を同じように扱ったら、おかしなことになります。ベテランを特別扱いするのとは違いますが、彼らの立場は考慮します。たとえば飛行機のビジネスクラスが10席しか確保できなかったら、実績のある選手を優先して座らせます。何の実績もない選手を座らせたら、ひずみが生まれます。「文句を言うなら、満男たちのようにタイトルを取ってみろ」と言います。
 それとはまたちょっと違う話ですが、私はふだん、チームの中で立場の弱い人間に話しかけるようにしています。用具係やベンチに入れない選手に私から語りかけて、話を聞く。彼らは「オレのことも気にかけてくれているんだ」と感じて士気が高まるでしょうし、不満の解消になります。弱い立場の人間と私が対話している様子を見れば、すべての選手、スタッフが私に話しかけやすくなって、一体感が生まれます。

――一般の企業では上司が部下と食事に行って、愚痴を聞いてあげることがありますが、そういうフォローはしないのですか。

鈴木 そういうフォローは強化部とは別の部署が行っています。強化部は風紀委員みたいなもので、選手を試合に集中させるために「ああしちゃいけない、こうしちゃいけない」と厳しいことばかり言います。
 これだけでは息が詰まってしまうでしょう。手綱を引き締めるだけでは選手の管理はうまくいきません。ムチだけではなくアメも必要です。選手を甘やかすわけではありませんが、食事に行って愚痴を聞いたり、私生活での面倒をみたりするのは主に事業部です。事業部は選手にイベントなどで協力をあおぐことが多いので、食事を一緒にする機会が多くなります。
 そのとき、選手の話に耳を傾けてあげることでガス抜きができます。もちろん事業部と強化部は情報交換をしていて、事業部は選手がどんなことを考えているか、どんなことに不満を抱いているかを伝えてくれます。それをもとに、私は落ち込んでいる選手を前向きにする言葉を掛けます。こうやって鹿島はすべての部署のスタッフが選手を大事にし、管理・サポートしているわけです。これは他のクラブにはないことだと思います。

ジーコの何がすごかったか。鈴木満氏が忘れられない怒鳴った後の行動
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー4
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 写真:西尾和生 2017年06月16日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q4.鹿島の礎を築いたジーコのすごさはどこにあったのでしょうか。



――ブラジルの偉人であるジーコが日本のクラブのためにあれほど尽くしてくれたのが不思議です。

鈴木 ジーコは何事に対しても本気でした。決して妥協しません。そこがジーコのすごいところです。
 初代チェアマンの川淵三郎さんから「鹿島のJリーグ入りは99・9999パーセント無理」と言われました。何しろ、ホームタウンが小さな地方都市で、プロサッカーがビジネスとして成り立つとは誰も思いませんでした。そういう中で地元自治体、経済界の協力を得て、サッカー専用スタジアムをつくり、Jリーグ入りを実現させました。しかし、チームの母体となった住友金属工業蹴球団は日本リーグの1部と2部を行ったり来たりの弱小チームでした。アントラーズはJリーグのお荷物になるだろうと言われました。にもかかわらず、ジーコは最初から「優勝する」と言い続けました。本気で言っていたのです。

――1993年Jリーグ初年度、開幕前のイタリア合宿でジーコがとてつもない怒りを表したことが語り継がれています。

鈴木 あの合宿で鹿島はクロアチア代表に1―8で大敗しました。その試合のハーフタイムでジーコは髪の毛を逆立てて怒りを爆発させ、「おまえらも同じプロだろ! 勝つつもりはないのか!」と叫びました。ジーコはすべての試合で勝とうとします。「負けるかもしれない」と思って試合に臨むことがありません。クロアチアに完敗したあの日からアントラーズは変わりました。そして93年の第1ステージでジーコが唱えたとおり、鹿島は優勝しました。開幕戦のジーコのハットトリックは伝説になりました。

――ジーコは選手として活躍しただけでなく、プロクラブづくりをリードしてくれました。

鈴木 ジーコは鹿島を本物のプロにするために命を賭けていたと言っても大げさではありません。
「プロとは何か」を我々に伝え、環境整備に力を注いでくれました。ジーコは自分が本気だから、人に対しても非常に厳しくて、連日、説教を聞かされました。私は一方的に怒られるばかりです。でも、いくら罵声を浴びせられても、反抗的にはならず、「この人についていこう」という気持ちになりました。
 それはジーコが本気だったからです。ジーコの本気にこちらも本気で応えました。Jリーグの草創期にはリネカー、リトバルスキー、ディアスら世界的な大物選手が日本でプレーしましたが、ジーコのように本気でプロクラブづくりに取り組んでくれた人はいませんでした。ジーコがいなかったら、いまの鹿島はありません。

――ジーコは厳しさ一辺倒だったのですか。

鈴木 厳しいけれど、優しさもありました。ある合宿でホテルの手配がうまくいかなかったり、練習場にシャワーがなかったり、落ち度がたくさん重なったことがありました。
 遅れて合流し、ブラジル人選手から不平を聞いたジーコは私に「おまえなんか、鹿島に帰れ!」と雷を落としました。しかし、夜中にもう一度、私を呼び出し、「こういう問題が起きたときはこういうふうにすればいいんだ」と対処法を丁寧に諭してくれました。そういうところにジーコの優しさを感じました。
 ジーコは私が強化責任者になったばかりのころ、練習中に必ず私を自分の隣に座らせ、雑談をしました。ジョルジーニョをはじめとしたブラジル人の大物選手がその様子を目にすれば、私とジーコが近い関係にあると理解します。ジーコはそうやって、私の権威づけをしてくれたのです。そのために私をいつも隣に呼んでいるとは説明しませんでしたが、そういうことだったのです。

――ジーコの配慮がよくわかります。

鈴木 新しいブラジル人の監督や選手が加入すると、ジーコはいつも冗談をまじえながら、鹿島の昔話を長々としました。
「発足当初はロッカールームの床がコンクリートで、個別のロッカーもなかったし、パイプ椅子だったんだぞ。笑っちゃうだろ」と言いながら、必ず「でも、こいつらがハンガーを掛けるフックを買ってきて壁に取りつけたりして、一生懸命、環境を整えてきたんだ」と付け加えてくれました。
 アントラーズの歴史を一から築いてきた我々を評価し、ブラジル人が敬意を抱くように仕向けたのです。そういうところにジーコの細やかさと優しさを感じました。

常勝チーム鹿島の強化部長20年、「ITも事務処理も苦手だけど、唯一の存在価値が……」
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー5
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 写真:西尾和生 2017年06月17日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q.本を出版した理由をおしえてください。



――この本を読むと、クラブの強化部長が何をしなければいけないのかがわかります。

鈴木 えらそうにするのは嫌だし、大したことはしていなので、本にするのはやめようと思ったのですが……。でも、強化部長やゼネラルマネジャー(GM)の役割の重要性を伝えたいと思って、本にまとめることにしました。
 Jリーグには54のクラブがありますが、強化部長がコロコロ替わっています。他のクラブの同業者から「社長が交代したら、クラブの方針が変わってしまう」「こういう選手を取りたいと思っても、自分に権限が与えられていない」という嘆きをよく耳にします。
 クラブの社長が強化部長の重要性を理解していないのです。これでは仕事になりせん。幸い、鹿島は歴代の社長が私に権限を与えてくれているので、他クラブの強化部長のような苦労はありません。

――この本の読者にどんなことを伝えたいと思っていますか。

鈴木 組織は人の集合体です。組織をうまく機能させるには、人と人との間にいい関係を築かなくてはなりません。そういうことのできる人間がリーダーになれば、組織の力は強くなります。そういう人間がいないと組織はまとまらないし、強くなりません。
 それはプロサッカークラブでも一般の企業でも同じだと思います。この本には、鹿島アントラーズという組織の力を最大限に発揮させるために、私たち強化部が何をしているかをまとめました。

――組織を結束させ、力を強くするために必要なことは何でしょうか。

鈴木 私はITに弱いし、事務処理も苦手ですが、私がいると不思議と、けんかになりません。チーム内でも争い事があまり起きません。みんな、ちゃんと役割を果たします。
 私の唯一の存在価値はそこにあるのではないかと思っています。なぜそうなるかというと、私がフラットな目でみんなの仕事を評価してあげているからだと思います。私の仕事は見ることです。公平な目でみんなを見続けることです。

――どういうことですか?

鈴木 誰かがえこひいきされていたら、面白くありませんよね。不公平感があると、やる気がなくなります。ずるいことをした方が得をするようなことがあってはなりません。頑張っている者がちゃんと評価される組織にしないと、ずるいことをしたり、足の引っ張り合いをしたり、「あのプロジェクトは失敗した方がいい」と考えたりするようになります。
 頑張った者が報われる組織にしなければ、正常に機能しません。そのためには、見ることが重要なのです。しかもフラットな目で見ることです。
 土曜日に試合があると、クラブは日曜と月曜が休みになりますが、私は月曜の練習には出てきます。ほかに用事があったときは最後までいられませんが、必ず顔を出すようにしています。私が見ている姿を選手に見せることが重要だからです。常に見ているから、私は自信を持って選手の評価ができます。選手は見られているのがわかっているから、私が下した評価に納得します。契約交渉でも反論ができません。もめ事があったとき、私のジャッジを受け入れます。フラットな目で正しく評価していれば、規律が高まり、組織は結束し、正常に機能します。

――だから、チームの遠征中も最初から最後までチームと過ごすのですね。

鈴木 遠征中は食事もずっと一緒です。そして、見ています。ほかのクラブの強化責任者は「試合に間に合うように行けばいいじゃないですか。何しているんですか。ヒマでしょう」と言います。「満さん、何しに来たんですか」「見ているだけでいいですね」と冗談で言われることもあります。
 アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で海外に遠征するときは、空港での荷物運びを用具係だけに任せず、選手もコーチも一緒にやります。そういうときも私は選手の様子を見ています。運ばずにいる選手がいたら、みんなの前で叱ります。「みんなの前で」というのが重要で、そうすれば、しっかり役割を果たしている選手が自分は評価されていると感じます。
 単純なことですが、こういうことにも気を使って強い組織をつくっていきます。選手を集めてチームを編成するのは私の仕事の3割だと思っています。あとの7割はいかに有効な人間関係をつくって組織のポテンシャルを発揮させることです。チームを編成したら仕事は終了、あとは監督に任せる、ではないのです。

小笠原満男だってよく怒った。いまの若手を動かすには? アントラーズ鈴木満氏に聞く。
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー6
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 写真:西尾和生 2017年06月18日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q6.10年前と比べ、選手のメンタリティやパーソナリティは変化していると思いますか? また変化しているとすればどのあたりでしょうか。



――選手のメンタリティの変化を感じますか。

鈴木 時代の流れとともに当然、選手のメンタリティは変わってきています。以前は強いチームに入って優勝を味わいたいと考える選手が多かったけれど、最近は、弱くてもいいから試合に出られるチームに入り、そこで自分をアピールして早く海外に行きたいと考えるようになってきました。最初から海外移籍が頭にあって、Jリーグはそのためのステップの場と位置づけている選手が少なくありません。

――選手の精神面はどうでしょうか。

鈴木 我慢強さがなくなってきている気がします。試合に出られないと、すぐに、出られるチームに移籍しようとします。試合に出られようになるまで、ここで辛抱しようと考える選手が減ってきました。以前は高卒の選手が30代まで在籍してくれたけれど、いまはそういう時代ではありません。
 一生、この会社に尽くそうという人が減ったのと同じでしょう。だから、先をにらんだチーム編成がしにくくなっています。それでも、変えてはいけない部分、クラブの伝統を守っていく努力を怠ってはいけません。こういう時代だからこそ、教育をして「鹿島の選手」にしていく必要があります。

――チームには伝統を継承してくれる選手が必要ですね。

鈴木 いまのチームでいえば、昌子源が伝統を次の世代に継承していく中心になると思っています。そういうことができるかどうかは個人の資質の問題でしょう。誰でもできることではありません。リーダーになる資質を持った選手を獲得して、その資質を磨いていくしかありません。
 小笠原満男はむかしからリーダーだったわけではありません。やんちゃ坊主で、勝手なことばかりしたので、よく説教をしました。まさか、いまのようなリーダーになるとは思っていませんでしたね。イタリア(メッシーナ)に移籍して、鹿島に戻ってきてから変わりました。あの世代では中田浩二が一番、バランス感覚があった。本山雅志は前向きで、常に一生懸命、取り組む姿勢を示して後輩たちに影響を及ぼしました。曽ケ端準はすすんで若手にうるさいことを言うわけではないけれど、満男とセットでチームを引き締めてくれています。

――チームは「生きもの」とよく言いますが、その変化に対応していかなくてはなりませんね。

鈴木 以前より選手の出入りが増えているので、チームづくりの計算が立てにくくなっています。3年後はこの選手を中心にチームをつくろう、それにはこういうタイプの監督がいいだろうと考えていても、その選手がポッと出て行ってしまうことがあります。
 そのたびに、また新しくチームをつくり直さなくてはなりません。選手が入れ替わり、チームが変化するので、それに対応したタイムリーな監督人事が必要になってきました。勝つ確率を高めるには、現状に合った監督を当てはめていかなくてはなりません。対応の素早さが求められます。

――情報過多の時代になって、強化部長の仕事は変わりましたか。

鈴木 この世界でもいろんな情報があふれていて、大事なことが筒抜けになっています。代理人を通じて選手も情報を豊富に持っています。「あのクラブにいったら年俸はいくらもらえる」「海外に移籍すればいくらになる」ということを選手は知っています。契約交渉の場で対抗するには、代理人に負けないだけの情報を持っていなくてはなりません。そうしないと負けてしまいます。

――選手との年齢差が開くにつれ、コミュニケーションが難しくなりませんか。

鈴木 私の子どもより若い選手が入ってきているわけですから、話をするのが難しくなっています。最近は強化部の若い吉岡宗重に間に入ってもらっています。でも、私もグラウンドに出たら、なるべく若い選手に話し掛けるようにしています。私が現役のころは理不尽なことでも言われたとおりにやりましたが、今の選手は理屈を説明しないと動きません。合理性とか効率を重視します。だから監督も練習の目的とか意義をきちんと説明しなければなりません。何のためか分からないけれど、やらされているうちに身についたという私の時代とは違います。「いいからやれ」「黙ってやれ」は通用しません。

ブラジル代表OBが指摘した日本サッカーの「弱点」。鹿島強化部長・鈴木満氏に聞く。
常勝軍団の秘密に迫る、鈴木満氏インタビュー最終回
鈴木 満
文:ベストタイムズ編集部 写真:西尾和生 2017年06月19日


Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。最終回。

Q7・日本サッカーが世界で勝っていくために必要なことは何だと考えますか?



――昨年末のクラブ・ワールドカップで鹿島はアジア勢として初めて決勝に進出しました。レアル・マドリード(スペイン)に敗れたとき、どんな思いを抱きましたか。

鈴木 あの時期は翌シーズンに向けたチーム編成で忙しくて、疲れていたこともありますが、レアルに負けた瞬間は本当にアタマにきました。「ここまで来て、何だよ」と腹がたちました。相手が欧州王者のレアルだから負けてもしょうがない、とはまったく思っていませんでしたから。
 石井正忠監督(当時)も選手たちも同じでした。本気で勝とうと思って、決勝に臨みました。だから、負けた瞬間はとにかく悔しかった。にもかかわらず、「素晴らしかった」「感動をありがとう」というメールや手紙をたくさん受け取ったときには違和感を覚えました。負けたのに、どうしてこんなに喜んでもらえるのだろうと思いました。善戦はしたけれど、タイトルは取っていないのですから。

――すべての試合を勝ちにいく、すべてのタイトルを取りにいくのは鹿島の伝統ですね。

鈴木 鹿島アントラーズが大きく変わった転換点は1993年の開幕前のイタリア合宿です。クロアチア代表との試合で鹿島は1―8で大敗を喫しました。あのとき、ジーコが「相手の方が格上だから、負けてもいいと思って試合に臨むな」と激怒しました。すべての試合に勝ちにいく鹿島の伝統はあそこから始まりました。あの教えが財産となっています。私もことあるごとに「負けていい試合はない」と選手に言い聞かせてきました。だから、レアル戦も本気で勝ちにいきました。

――日本サッカーが世界で勝つための課題は何でしょう。

鈴木 鹿島はジーコ、トニーニョ・セレーゾ、ジョルジーニョをはじめ、ブラジル代表として世界で戦ったトップクラスの選手や指導者から多くを学んできました。彼らは「日本人はまじめで、礼儀正しく、道徳心がある」と褒めてくれます。しかし、サッカーをするには欠けているものがあるとも言います。彼らの言葉でいえば「マリーシア」、ずる賢さです。
 日本の選手は目指すサッカー、こうしようと決めた戦術を90分間、やり通そうとします。しかし、ゲームではスコアや時間帯によって、やるべきことは変わります。相手を畳みかけなければならない時間帯もあれば、守りに徹しなければならない時間帯もあります。刻々と状況が変化する中で巧にゲームをコントロールしなければなりません。ジーコをはじめとしたブラジル人は「日本の選手はゲームマネジメントがつたない」と指摘します。そこが日本サッカーの最大の課題でしょう。国際試合をすると、その点を痛感します。

――鹿島はその点では優れているのではないですか。

鈴木 日本の中では最もたけているでしょうね。だから、多くのタイトルを獲得できたのだと思います。
 ビスマルクがいたときの天皇杯決勝の終盤、リードしていた鹿島は敵陣のコーナーでボールをキープし、時間稼ぎをしました。勝つために必要なゲームマネジメントの一つですが、日本サッカー協会の関係者から「ああいうことをしてはいけない」という注文がつきました。
 私は「なぜですか? 日本代表が勝つために同じことをしたら、文句を言いますか?」と反論しました。あれがダメと言っていたら、イラク戦の試合終了間際に同点にされて、94年の米国ワールドカップ出場を逃した「ドーハの悲劇」のようなことが起きてしまいます。日本サッカー協会が「指導書で、ずる賢さを推奨するわけにはいかない」と言うのもわからないではないですが、世界で勝つためには状況に合わせたゲームマネジメントが必要です。
 日本サッカー協会の技術委員会(※2014年4月に就任)でも、毎回、日本サッカーの課題としてゲームマネジメントが挙がります。フィジカルの弱さとか技術の問題も課題でしょうが、ゲームマネジメントを向上させれば世界に近づけると思います。


インタビューを行ったベストタイムズ編集部のインタビューに応じた鈴木満常務強化部長である。
血を繋げる。を書くこととなったいきさつが興味深い。
この本は、鹿島の裏話も少々あるが、そうではなく組織運営のノウハウが詰まっておる。
鹿島ファンだけでなく、人と接する可能性のある人に読んで欲しいと願う。
また、今回のインタビューでは、2002年度の天皇杯決勝に於いて京都を甘く見てかかり、敗れたチームの雰囲気が伝えられる。
鹿島のようなクラブでも、21世紀になってさえこのようなことがあったんだと強く感じさせられる。
手綱を緩めてはならぬと改めて思う。
「小さな事の積み重ね」「基本的なことを性格に丁寧に行う」これを鹿島の教えとして肝に銘じたい

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いつだったかのナビスコ杯決勝でも、当時のサッカー協会の技術委員長からマリーシアに苦言が出てましたね。

勝つためにやるべきことをやってるのに何を行ってるんだ⁇と憤ったのを思い出しました。

そして先日のイラク戦やブラジルワールドカップ…、日本の試合運びの拙さは変わってないですね…。なんかため息が出ました。

マリーシアを単純否定すると、散華の花の思想まであと一歩ですよね。。

「日本には勝ち負けよりも大切なものがある」的な発想に容易に行き着く気がします。得てして負けの正当化ロジックに結びつく思想です。

それも一つの哲学であることは否定しませんが、代表にあれだけ結果を求める協会の姿勢とは矛盾する気がします。

別に良し悪しはどちらでもいいのですが、鹿島みたいに立ち位置はしっかりとった方が発展性はあるかなと、常々思います。

サッカーに横綱などいない

相手コーナー付近での時間稼ぎをするのが印象深かったのか、ネット上を中心にスラングとして使われることが多い「鹿島る」という言葉。まるでこれが特殊な行為みたいに言われてる時点で日本サッカーのレベルは・・・
旧い記憶の中で思いつくのは2000年2ndステージ最終節柏戦で延長戦の末にドローに持ち込んだシーンからでしょうか
あの試合あの時間帯での必死のボールキープがなければ史上初の3冠制覇も達成されなかったかもしれない

「子供に見せられるような戦い方じゃない」「正々堂々戦え」そんな批判も諸々有りましたが、
それらは真っ当な意見に見えても結局「美徳のために勝利への執着心を捨てろ」と言ってるのと同じなんですよね。

「ああいうことをしてはいけない」と愚直さを求めるなら「最後まで諦めず戦え」と同じ口で言ってほしくない
あのプレーこそ最後まで諦めない心、執念の塊。
相撲の横綱のように勝ち方が悪ければ負けるのと同じみたいな考え方でもあるんでしょうかね。サッカーですよこれ。

No title

勝利のために何でもやって全力を尽くす。
相手に対してこれ以上の礼儀は無いのに、協会はそこに気づかないのでしょうか。
その昔某ゲームであったハメ、待ち論争と構図が似てると感じる自分は、もう良い歳ですね笑

日本サッカー協会が「指導書で、ずる賢さを推奨するわけにはいかない」←裏を返せば駆け引きはけしからんってことですね。

オトナの世界はそんなことばかりですし、協会の皆さんももっとずるい事やってきたでしょうに…苦笑

No title

マリーシアは「ずる賢さ」ではないよ。
「ずる」はファールだ。 やってはいけないことだ。
マリーシアは「賢さ」だよ。
「ずる」をつけるから誤解される。
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鹿島愛。
狂おしいほどの愛。
深い愛。
我が鹿島アントラーズが正義の名のもとに勝利を重ねますように。

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