週刊サッカーマガジン編集長・平澤大輔氏
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反発の男 |MF|小笠原満男|鹿島|
小笠原満男がアレックス・ミネイロとのパス交換から、右足のインサイドで前方にボールを送る。とてもていねいに。とても優しく。走り込んだのは、柳沢敦だ。
小笠原は柳沢の復帰を、とても喜んだのだという。常日頃から、攻撃について「たくさんの人のイメージが重なり合う瞬間が好き」と話す小笠原にとって柳沢は、シンデレラのガラスの靴のように感覚がぴたりと合う、ベスト・パートナー。
横浜FMを迎えたJ1第2節。そのパスを出したのは、試合が始まってたった2分のことだ。開幕戦は広島を4得点で突き放す勝利で、特に本山、小笠原、柳沢と渡って決めた3点目は、アートだった。それからわずか6日後。横浜FMという難敵を前にして、たった2分で、あの美しきイメージが再現されるだろうという予感が心を躍らせる。
だが、柳沢には合わなかった。
ボールは走り込むわずか先を抜けて、GK榎本達也がしっかりと抱え込んだ。
ズレは本当に小さなものだった。まだ2分だから、残り88分のプレーで合わせれば問題ない。重要なのはトライし続けることだ。
だが、ズレというものはいつも本当のズレよりも小さく見え、修復するには大きな困難を伴う。
小笠原は反発の男だ。
−−試合が続いて疲れがあるのでは。
「試合がたくさんある方が楽しいしリズムができるので、そっちのほうがいいんです」
−−主力が移籍してチーム力が下がってしまったのでは。
「そんなことはない。ポジションを得た選手が頑張っているし、僕はこのチームで優勝したいんです」
こんなやり取りは、日常茶飯事だ。チームに渦巻く不安に関する質問には、テニスのスマッシュのように、もしくは壁に思い切りぶつけたスーパーボールのように、ズバッと反論を返してくる。
最大の反発心を見せたのは、日本代表でだろう。「国内組」としては出場できるが、「海外組」の壁は厚い。その状況に反発を隠さなかった。
それが2月28日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で「海外組」を抑えて先発の座を勝ち取った。反発を表明することで自らに責任を課し、その責任を放棄せずにプレーする。簡単だが難しいことを、やり遂げたしるしだった。
横浜FMとの試合は0-3で敗れた。スコアほどの完敗ではないようにも見えたが、マグロンと上野良治という横浜FMのボランチに中盤を制圧され、広島戦で共有できていたはずのイメージは、高性能のギロチンにかかったようにことごとく分断される。
試合を終え、ミックスゾーンに現れた小笠原は口を真一文字に結び、目は虚空を見据えたままだ。そして少しだけ速い足取りで、迎えの車に乗り込んだ。言葉は、なかった。
無言は無を意味するのではなく、自分自身への強烈な怒りと怒りと怒りを示していた。反発の男は自分自身に反発していた。それは次に、どんな実をむすぶのだろう。
週刊サッカーマガジン編集長 平澤 大輔
彼のコメントは面白い。
彼なりに満男のメンタリティを分析したのであろう。
小笠原満男、この素晴らしい才能を持ったキャプテンにかかる責任は重い。
わずかに合わなかった試合開始直後のパス。
それが最終的には大差の敗戦を呼び起こしてしまった。
本来ならば合わせられなかったアタッカーに責任の所在はあるであろう。
しかし、黄色の帯を巻く男が放った渾身のパスが、その思いが、柳沢敦に届かなかったのである。
この一本、そして一本。
誰もが認める一本にかけた思いが砕け散った。
それだけ。
幸いリーグ戦はまだ二節。
思いをボールにのせて名古屋の地を踏んで欲しい。
反発の男 |MF|小笠原満男|鹿島|
小笠原満男がアレックス・ミネイロとのパス交換から、右足のインサイドで前方にボールを送る。とてもていねいに。とても優しく。走り込んだのは、柳沢敦だ。
小笠原は柳沢の復帰を、とても喜んだのだという。常日頃から、攻撃について「たくさんの人のイメージが重なり合う瞬間が好き」と話す小笠原にとって柳沢は、シンデレラのガラスの靴のように感覚がぴたりと合う、ベスト・パートナー。
横浜FMを迎えたJ1第2節。そのパスを出したのは、試合が始まってたった2分のことだ。開幕戦は広島を4得点で突き放す勝利で、特に本山、小笠原、柳沢と渡って決めた3点目は、アートだった。それからわずか6日後。横浜FMという難敵を前にして、たった2分で、あの美しきイメージが再現されるだろうという予感が心を躍らせる。
だが、柳沢には合わなかった。
ボールは走り込むわずか先を抜けて、GK榎本達也がしっかりと抱え込んだ。
ズレは本当に小さなものだった。まだ2分だから、残り88分のプレーで合わせれば問題ない。重要なのはトライし続けることだ。
だが、ズレというものはいつも本当のズレよりも小さく見え、修復するには大きな困難を伴う。
小笠原は反発の男だ。
−−試合が続いて疲れがあるのでは。
「試合がたくさんある方が楽しいしリズムができるので、そっちのほうがいいんです」
−−主力が移籍してチーム力が下がってしまったのでは。
「そんなことはない。ポジションを得た選手が頑張っているし、僕はこのチームで優勝したいんです」
こんなやり取りは、日常茶飯事だ。チームに渦巻く不安に関する質問には、テニスのスマッシュのように、もしくは壁に思い切りぶつけたスーパーボールのように、ズバッと反論を返してくる。
最大の反発心を見せたのは、日本代表でだろう。「国内組」としては出場できるが、「海外組」の壁は厚い。その状況に反発を隠さなかった。
それが2月28日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で「海外組」を抑えて先発の座を勝ち取った。反発を表明することで自らに責任を課し、その責任を放棄せずにプレーする。簡単だが難しいことを、やり遂げたしるしだった。
横浜FMとの試合は0-3で敗れた。スコアほどの完敗ではないようにも見えたが、マグロンと上野良治という横浜FMのボランチに中盤を制圧され、広島戦で共有できていたはずのイメージは、高性能のギロチンにかかったようにことごとく分断される。
試合を終え、ミックスゾーンに現れた小笠原は口を真一文字に結び、目は虚空を見据えたままだ。そして少しだけ速い足取りで、迎えの車に乗り込んだ。言葉は、なかった。
無言は無を意味するのではなく、自分自身への強烈な怒りと怒りと怒りを示していた。反発の男は自分自身に反発していた。それは次に、どんな実をむすぶのだろう。
週刊サッカーマガジン編集長 平澤 大輔
彼のコメントは面白い。
彼なりに満男のメンタリティを分析したのであろう。
小笠原満男、この素晴らしい才能を持ったキャプテンにかかる責任は重い。
わずかに合わなかった試合開始直後のパス。
それが最終的には大差の敗戦を呼び起こしてしまった。
本来ならば合わせられなかったアタッカーに責任の所在はあるであろう。
しかし、黄色の帯を巻く男が放った渾身のパスが、その思いが、柳沢敦に届かなかったのである。
この一本、そして一本。
誰もが認める一本にかけた思いが砕け散った。
それだけ。
幸いリーグ戦はまだ二節。
思いをボールにのせて名古屋の地を踏んで欲しい。