「仕事とは何か。仕事に取り組むとは何か」、還暦を迎えた名スカウトの生きざまは、それを教えてくれている



二宮 寿朗

柳沢、内田、柴崎らを見つけた鹿島の名スカウトに学ぶ「仕事とは何か」
J1鹿島アントラーズ・椎本邦一スカウト部長インタビュー

 裏表がない。いつ会っても屈託ない。

 鹿島アントラーズの椎本邦一スカウトと知り合って15年。話をしていると、いつしか何だか自分も笑っている。彼はそんな人だ。

 柳沢敦にはじまり、中田浩二、興梠慎三、岩政大樹、興梠慎三、内田篤人、大迫勇也、柴崎岳、昌子源、植田直通らのちに日本代表となる逸材を発掘してきた名スカウトは5月1日で還暦を迎えた。


椎本邦一スカウト

 ひょっとして引退?

 久々に電話を入れたら、「引退しねーよ。何、俺を引退させたいわけ?」と懐かしい、いつもの笑い声。「じゃあ還暦記念にインタビューしましょうか?」と申し込んだら、「あっ、俺は表に出ない人だから」とまさかの拒否。鹿島に申し込むと、本人あっさり受諾したとか。うーん早速、椎本ペースだ。60歳を目前に控えた吉日、笑みを浮かべたおじさんスカウトが待っていた。

 仕事は楽しいですか?

 いや、聞くまでもなかった。見ていれば、話をしていればそれは伝わってくる。

◆ ◆ ◆

「誰を取るかは一任してくれている」

――現役時代は対人に強いディフェンダーでした。駒大からJFLの住友金属サッカー部に進み、30歳で現役を引退。同部でコーチを務めていましたけど、鹿島アントラーズの誕生に伴ってユース監督に就任しました。最初からスカウトだったわけじゃない。

「クラブから “何をやりたい”って聞かれたから、ユースの指導者をやらせてほしいって言ったわけよ。3年弱ぐらいやったかな、当時は強化部のなかにスカウト専門の人がいなくて、強化部みんなでやっていた。だったら専門のセクションをつくろうとなって、“じゃあ椎本やれ”ってスカウト担当になったのが1994年12月かな。もう24年目になる」


©三宅史郎/文藝春秋

――ここまで23年間。柳沢からはじまって、のちの日本代表を次々と活躍選手を獲得していくことになります。

「俺がクラブに感謝しなきゃいけないのは、誰を取るかは俺に一任してくれていること。もちろんどのポジションの選手を獲得するかは(要望が)来るけど、別にイチイチ相談しなくていい。俺が決めて、“学校側にこの選手を獲得したい”と言ったらそれがオファーになる。俺を信じてくれるから、やりやすい」

――監督やフロントの幹部に相談するというのが一般的ですよね。自分で決めていい分、オファーも早い。内田篤人選手(清水東)にも、真っ先に声を掛けています。

「会社に対して誰々にオファーしていますよ、というのはもちろん報告はしているよ。篤人にも、他のクラブからいろいろと声は掛かっていたんじゃないかな」

「すぐに試合に出られるなんて嘘は言わない」

――練習に参加させてオファーするかどうかというパターンはないのですか?

「ないね。俺が声を掛けた時点で、それがオファー。つまり選手は自分の意思で練習に参加してくれている。もちろん俺のほうでクラブで練習の受け入れ態勢を調整するし『せっかく来るなら1週間ぐらいやったほうが、自分のプレーを見てもらえる』とかアドバイスはするけどね。結局、こっちからのオファーを受けるかどうかは、選手側の判断になるわけだから」

――オファーしても獲得できるとは限らない。どんな口説き文句を?

「嘘を言っても仕方ない。だからすぐに試合に出られると思うなんてことは口が裂けても言わない。それは今いる選手に失礼。むしろ厳しい世界であることを伝える。ただ、育てることに関してクラブが自信を持っていること、高校生であれば1、2年で体をつくっていけばポジション争いできると思うから声を掛けさせてもらっている、とは言う。学校や親御さんにもそうやって説明する。

 だから嘘は言わない。昔、オファーを出して練習に参加した高校生が『鹿島はちょっとレベルが違う』と話し、最終的にオファーを断ってきたことがあった。断られたのは残念だけど、ちょっと嬉しかったのよ。だってすぐに試合に出られそうだと思われたら、トップチームのことが心配になるよ(笑)」

――数限られたオファーを早く決断して、学校を通じ本人に伝え、甘い誘い文句もないわけですね。

「それは俺がどうこうじゃなくて、クラブに魅力があるからだよ。いい施設があって、タイトルを多く獲って、選手を伸ばしてくれているから。それが一番」

無名に近い選手をどう発掘するのか

――高校時代から注目された選手もいますが、昌子選手(米子北)のように全国的には無名に近い選手もいました。あらためてうかがいますけど、椎本さんはどんな基準で選手を見ているんですか?

「基準は自分の目を信じること。その基準というのは、技術があって、身体能力があってというのはもちろんだけど、何か抜けているところがあるかどうか。昌子が2年のインターハイで見て、センターバックなのにスピード、技術があった。3年生のときにも見て、オファーを決めた」



――今、2年目の安倍裕葵選手も瀬戸内高時代、無名に近かったと思います。しかしプロでは1年目から出場機会を得ています。鹿島の10番を背負った本山雅志選手(現在はJ3北九州)のようなセンスを感じます。よく発掘しましたね。

「3年のインターハイで見て、ちょっと驚いたね。タッチのリズムが独特で、周りがしっかり見えていた。へえ、そこも見ているのか、面白いなって気になった仕方がなかった」

――じゃあすぐにオファーを?

「いや、実は同じポジションで先に声を掛けていた選手がいた。まあ結局、その選手には断られたのよ。安倍のことは気になっていたんだけど、あっちがダメだったからこっちに行くのはやっぱり失礼だと思って。でも正直に(瀬戸内高の)先生に伝えたら、“いや、それは縁ですから”って言ってくれて」

――隠すよりもストレートに打ち明けたほうがいい。好きな人への告白みたいなものですね。

「そうかもなあ(笑)。鹿島は変わらないサッカースタイルだから、合う選手だなって思うと、頭から離れなくなる。一般の人だってさ、男性も女性も、好きなタイプは?って聞かれると、言葉で説明できないものだったりするだろ? それと一緒。俺も、どんな選手をスカウトするんですかと聞かれても、言葉じゃ説明つかない。大事なのは惚れるかどうかってところじゃないかな」

スカウトにとってつらいことは?

――椎本さんは入団させたら終わりじゃない。1年目のルーキーに厳しいことを言っているとも聞きます。

「1年目って試合に出ていなくてもお金も入るし、チヤホヤもされる。だからトップチームの練習を見ていて気持ちが入っていなかったら、『そんなんじゃ試合に出られないぞ』って怒ることもある。サッカーのことは監督、コーチが言うから、基本的に俺はサッカー以外のこと。サッカー以外のこともしっかりしないと一流にはなれないって見てきているから」



――スカウトをやってきて、つらいことって何ですか?

「プロの世界ではみんながみんな成功するというのは難しい。アントラーズは基本的に、3年間は芽が出なくても在籍させる。でも獲得して3年経っても試合に出られずに移籍するとなると、俺は学校と親に連絡を入れる。そのときはやっぱり一番つらいな」

――逆に、スカウトの醍醐味を教えてください。

「何だろうな、自分が声を掛けた選手がアントラーズのユニフォームを着て試合に出て、活躍してくれたら何よりうれしいよ。俺もアントラーズの一員。勝ちたいし、優勝したい。その気持ちはみんなと一緒だから」

――スカウトは試合に合わせて全国を飛び回るし、忙しいこと極まりないイメージがあります。やめたいと思ったことはないんですか?

「思ったことはあるよ。でも、好きというより嫌いじゃないってことかな。だってクラブからやってくれよって任されているんだから。やり甲斐というと言いすぎかもしれないけど」

 目尻と口元に深い皺をつくり、スカウトはこちらに笑みを向けた。

 誇りを持って、自分の目を信じて。誠実に、等身大に。

 嘘のない仕事が、味わいのある皺をつくっているのだと感じた。

 仕事とは何か。仕事に取り組むとは何か。

 還暦を迎えた名スカウトの生きざまは、それを教えてくれている。

写真 三宅史郎/文藝春秋




椎本邦一スカウト部長を取材した文春オンラインの二宮氏である。
安部裕葵獲得エピソードが興味深い。
「いや、実は同じポジションで先に声を掛けていた選手がいた。まあ結局、その選手には断られたのよ。安部のことは気になっていたんだけど、あっちがダメだったからこっちに行くのはやっぱり失礼だと思って。でも正直に(瀬戸内高の)先生に伝えたら、“いや、それは縁ですから”って言ってくれて」とのこと。
京都に行った岩崎悠人が鹿島を選んでおったら裕葵へのオファーはなかったこととなる。
瀬戸内高校の先生が言うようにこれこそが“縁”である。
非常に面白い。
ただ、これは書いた二宮氏のミスであろうが、裕葵は安部であり安倍ではない。
このあたりは気をつけて欲しいところ。
また、「そうかもなあ(笑)。鹿島は変わらないサッカースタイルだから、合う選手だなって思うと、頭から離れなくなる。一般の人だってさ、男性も女性も、好きなタイプは?って聞かれると、言葉で説明できないものだったりするだろ? それと一緒。俺も、どんな選手をスカウトするんですかと聞かれても、言葉じゃ説明つかない。大事なのは惚れるかどうかってところじゃないかな」というスカウト観は腑に落ちる。
センスとは言葉に出来ぬもの。
還暦を迎え更に円熟味を増す選手発掘能力を更に発揮していって欲しい。
毎年、新入団の選手を楽しみにしておる。

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