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セルクル・ブルージュ・植田、今までそういったサッカーをしてこなかった

オランダで「若手の星」と評される堂安
植田は“上”を見据えてスタメン争い中

中田徹
2018年8月21日(火) 11:20


一瞬のひらめきを評価される堂安

 8月17日(現地時間、以下同)はオランダでフローニンゲン対ウィーレム2を見た。堂安律は4分、ドリブルでペナルティーエリア内右側に侵入し、強烈な右足シュートを放った。相手を背負った状態からターンしてドリブルしたり、FWトム・ファン・ウェールが空中戦で競ったこぼれ球をスプリントして拾ったり、堂安のコンディションはかなり良さそうだった。


 だが、チームとしてフローニンゲンは中盤を作れず、前線へのロングボール任せの攻めばかりで、いささか心もとない。堂安とダブルエースを組むミムン・マヒーが負傷し、前半いっぱいでベンチに退くと、堂安にマークが集中し、ほとんどボールを触れなくなってしまった。


 それでも「無」の状態から、ビッグチャンスを作ってしまうのが、堂安のすごいところだ。後半15分、右サイドライン際に張ってボールを持った堂安が、遠くをルックアップすると、低く鋭いミドルパスを左45度でフリーのFWメンデス・モレイラに通してしまった。残念ながらモレイラのシュートはDFにブロックされてしまったが、こう着状態の展開を一気に崩す堂安のパスセンスの良さが光った。


 翌朝、フローニンゲンのカフェで地元紙『ダッハブラット・ファン・ヘット・ノールデン』を開くと、なんと堂安には「7」という高採点が付いていた。かつての指導者、ハンス・ウェステルホフの寸評を読むと「堂安を責めることはできない」と記している。


 全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』はやはり「7」、サッカー専門誌『フットボール・インターナショナル』は「6.5」と、堂安に対して実に高い評価を下している。試合は良いところなくフローニンゲンがホームで0−1と敗れ、堂安自身、後半半ばからチームの放り込み戦術の犠牲になり、ボールにほとんど絡めなかったのだ。

オランダ国内では「若手の星」

 堂安自身は、試合後、どう語っていたのだろう。いくつか、彼の言葉を拾ってみる。


「点差以上に残念な内容でした。(前半は)チームとしても個人としてもチャンスを多く作れたので良かったですけれど、チームの調子が悪くなるとともに自分の調子も下がっていった。そういうところで助けることができるような、違いを作れるような選手になりたいです」


「ああいうサッカー(終盤の放り込み)をするなら、俺を代えてセンターバック(CB)の選手を入れたほうがいいと思います。そう思っちゃうようなゲームでした。サッカーがしたいです」


「僕は『中にステイしておけ。あんまり外に張るな』と言われています。だけれど中に留まっていると、相手も去年の活躍を見ているので潰しにくるシーンが多いので、すごく窮屈な試合展開でしたし、視野も狭くダメでした」


 私は、ウィーレム2戦の堂安を「5.5」と見ていた。ポツリポツリと力なく試合を振り返る堂安を見てしまい、少しバイアスがかかってしまったのかもしれない。それでも前述の「堂安を責めることができない」という寸評には同意である。


 ちょっと客観的な意見を聞きたいと思い、私はテレビ解説でも有名なAさんに連絡をとってみた。


「俺は採点には興味ないけれど、確かにウィーレム2戦の堂安は良かったよ」とAさん。


「開幕のフィテッセ戦で堂安はゴールを決めたけれど、今回のほうがプレーは良かった。前半は特に良いプレーを見せていたよね。中田さんは『後半、堂安は消えていた』って言うけれど、右サイドからミドルパスでチャンスを作った、あのプレーひとつで十分じゃん。全くチャンスが生まれそうもない状態から、堂安の力だけでビッグチャンスになっちゃたんだから。それに加えて、今、オランダでは堂安に対して『若手の星』という期待が大きい。だから、堂安には好意的だよね」


 オランダにおける堂安の、評価基準の参考にしてほしい。

展開によってポジションが変わる植田


前節スタメンだった植田だが、この日はベンチスタートとなった【Getty Images】

 18日はベルギーでセルクル・ブルージュ対ズルテ・ワレヘムを見た。植田直通は前節、スタンダール・リエージュ戦で先発フル出場を果たし、強豪相手の無得点ドローに貢献していたが、この日はベンチだった。


 1−1で進んだ後半27分、セルクル・ブルージュがPKを奪った。すると、ウォームアップをしていた控え選手たちがベンチに集められ、指示を受けていた。恐らく、このPKの成否によって、交代枠残り1つをどう使うのか説明したのだろう。


 後半28分、ジャンニ・ブルーノが見事にPKを成功させ、セルクル・ブルージュが勝ち越した。こうなると、ローラン・グヨ監督の次の手は唯一、守備固めだ。後半32分、植田がピッチに入ったことで、セルクル・ブルージュは4バックから5バックにシステムを変更し、その後のズルテ・ワレヘムの反撃をゼロに抑えたばかりか、アディショナルタイムには鮮やかなカウンターから3−1とするダメ押しゴールまで奪ってしまった。


 4バックから5バックへ――。植田によると、この形の準備をセルクル・ブルージュは常日頃からやっているという。スタンダール戦では、試合の入りは4バックで、植田は右のCBを任された。その後、0−0で試合が進むと、このまま引き分けで試合を終わらせようと5バックに切り替え、植田は3枚のCBの右端を務めた。ちなみに、ズルテ・ワレヘム戦でも植田は3枚のCBの右に入っている。


「(スタンダール戦では)後半途中でCBをもう一枚入れた時点で5バックにするということは、チーム全体で意思統一できていました。ここは守り切って勝ち点をとるという練習もしています。試合の展開によって(自分の)ポジションがすごく変わると思います」

モナコという「明確な上」の存在


植田はチームで「3番目のCB」という序列だが、上を見据え成長を誓った【Getty Images】

 現在の植田は「3番目のCB」というチーム内序列だ。前節、スタンダール戦で先発したのはレギュラーのジェレミー・トラベルが負傷したため。トラベルの復帰によって、ズルテ・ワレヘム戦はベンチスタートになった。この状況を「マイナスではない」と植田は言う。その理由を植田は2つ挙げてくれた。


 1つは試合中に4バックから5バックにシステム変更をするチームだから、植田にも出場機会が与えられるということ。2つ目が、31歳のベテランCBコンビ、トラベルとバンジャマン・ランボットの存在だ。


「あの2人はうまい。学ぶものがたくさんある。2人は自分にとっても高い壁になると思いますが、良いCBだからこそ超えがいがあります。自分がベンチの場合でも、いろいろなものを学べると思います」


 そうは言いつつも、やはり狙っているのはレギュラーの座だ。


「やっぱりスタメンで出たいという気持ちが強いし、次はスタメンで出られるように、練習からアピールしたいと思います」


 ブルージュの街はオランダ語圏だが、植田は「英語でフランス語を勉強しています」という。その背景にあるのが、セルクル・ブルージュはモナコのサテライトクラブであること。監督のグヨもフランス人だし、選手も多くのフランス人がいる。オランダ語話者のベルギー人は、基本的にフランス語も操れることもあり、クラブ内の共通言語がフランス語なのだ。


「覚えたことを言うというのはすごく大事だと思う。だから、自分からどんどん言ってコミュニケーションを取っています。それを続けていきたいです」


 ヨーロッパに来たのは「自分が成長するため。そしてステップアップため」だと植田は言う。ならば、親クラブであるモナコへのステップアップも狙っているのだろうか。


「それは、このクラブにいる全員が思っていることだと思います。これだけつながりがあれば、見てくれるというのがある。だから、そうですね」


 ヨーロッパには「見えない上」がたくさんある。しかし、セルクル・ブルージュにいればモナコという「明確な上」がある。セルクル・ブルージュに集う若者たちはまずはモナコを目指し、そこからさらなる上を目指していくのだろう。

植田直通はベルギーの小クラブで
初めて守りの文化を味わい成長中。

posted2018/08/21 11:45


まともなバトルならば植田直通が簡単に負けるとは考えづらい。まずは欧州のリズムと間合いに慣れることだろう。

text by
中田徹
Toru Nakata

photograph by
UNIPHOTO PRESS


 同じヤン・ブレイデル・スタディオンを使用しているが、クラブ・ブルージュが2万8000人近い観客を集めるのに対し、セルクル・ブルージュの観客数は6000人ほど。それでもメインスタンド側はかなり埋まり、ゴール裏には熱狂的サポーターに加え、育成世代の子どもたちも陣取って声をからして応援している。

 スタンドは閑散としているものの、意外と雰囲気は良い。

 1899年創設という歴史と、小クラブながら1部リーグ常連である誇りが、セルクル・ブルージュの試合からは伝わってくる。

 第4節、8月18日のズルテ・ワレヘム戦も、少ない観衆の大声援に後押しされたゲームだった。戦力で明らかに劣るセルクル・ブルージュは立ち上がり、相手にボールを明け渡し、ゴール裏のサポーターと共に自軍のゴールに鍵をかけた。

守備固めに植田直通が投入された。

 ズルテ・ワレヘムは一方的にボールを持っているのにチャンスを作れない。その焦りを、セルクル・ブルージュは楽しむかのように守り、ジャブのようにカウンターを繰り出した。

 攻撃陣には主にフランスで育ったタレントがいる。ボールを持った時の遊び心は格別だ。いったい彼らは何度、パナ(股抜き)を決め、ファンの喝采を浴びたことだろう。

 セットプレーから先制し、PKで勝ち越し、後半アディショナルタイムには高速カウンターからダメ押しゴールを決めて3-1の勝利を飾った、セルクル・ブルージュの試合巧者ぶりが光った試合だった。

 1-1で迎えた72分、セルクル・ブルージュがPKを獲得すると、アップをしていた控え選手たちが一斉にベンチ前に呼ばれ、交代カードをどう切るか説明を受けていた。

 73分、ブルーノがPKを成功させ、セルクル・ブルージュが2-1と勝ち越すと、その4分後に植田直通が守備固めに入った。

 システムを4バックから5バックに移行し、植田のポジションは3枚のセンターバックの右だった。

「与えられた任務は達成できたかな」

 ズルテ・ワレヘムは万能型ストライカーのハルバウイに加え、俊足のシラ、巨漢のべディアを投入する。しかし、31歳のベテランCBコンビ、ランボットとトラベル、そして植田の3人は、ズルテ・ワレヘムの三者三様のストライカーに仕事をさせることなく試合を終わらせることに成功した。

 植田は、開幕2試合こそ出場機会がなかったが、前節のスタンダール戦ではトラベルの負傷によって右CBで先発し、アウェイでの0-0のクリーンシートに貢献。ズルテ・ワレヘム戦でも、自身が出た時間帯はしっかりとゼロで抑えた。

「今日の試合で自分が入った目的は、失点せず、勝って試合を終わらせるため。それが使命。僕はそれを遂行できたと思う。監督に与えられた任務は達成できたかな、と」

 だが植田は、「まだ全然やれてないなという感じです」と、この2試合を振り返った。「前回はスタメンで出ましたけれど、自分の良さをそこまで出せる試合ではなかった。 今回もそんなに時間が長くなかった。まだ試合の中で僕のプレーも見せていないので、監督もチームメートも分かっていない部分が多いと思う。練習からもそうですが、そういうところを試合でも見せたいと思います」

スタメンの2人は「ものすごくうまい」。

 チームに中堅層は少なく、無名のベテラン選手と、若いタレントによってメンバーが構成されている。守備の中心は、経験豊富なランボットとトラベルのCBコンビ。この2人を見ていると、どんなにチームが劣勢でも動じることなく、時には黙々と、時には激しく正確な守備をしていることに気づく。

 修羅場をくぐった男の余裕が、この2人からは伝わってくる――。そのような感想を簡潔に植田に伝えてみた。

「あの2人は、ものすごくうまい。学ぶことがたくさんあります。やっぱり、とても落ち着いているし、2人のコンビネーションが良いものをチームにもたらしていると思う。その壁を崩すというのは、自分にとってもかなり高いものになると思いますが、良いセンターバックだからこそ超え甲斐もある。

 今までも、自分は学びながら成長してきたと思うので、ベンチの場合でもいろんなことを学べると思っています。そういう意味では、現状をマイナスには捉えてません。今は成長、成長とやっていきたいです」

鹿島の「勝者の精神」との葛藤は?

 植田は「勝者の精神」をDNAに持つ鹿島アントラーズで活躍したDFだ。だが、セルクル・ブルージュは「引き分けで良し」とするチーム。そこに葛藤はないのだろうか。

「そこはやっぱり、この前の試合でも、すごく戸惑いましたね」

 植田は正直な胸の内を語る。「この前の試合」とは0-0で終わったスタンダール戦のこと。終盤、セルクル・ブルージュは勝ちに行かず、5バックとして守りを固め、そのまま試合を終わらせようとした。

「今までそういったサッカーをしてこなかった。鹿島でやっているときは、常に勝利しか見ていませんでした。相手が引いて守って――という経験はしてきましたが、自分たちがそうやって守るというのは、なかなかなかった。複雑な気持ちになりましたけれど、やってみて、かなりチームの力の差があるなと思いましたし、勝ち点1でも拾っていきながらやっていくサッカーもありだと思いました」

力の差があっても目標は優勝から変えない。

 まるで現状を受け止めるかのように語る植田だが、やはり「勝者の精神」が、それを許さない。

「今までサッカーをやってきた中で、優勝しか見てこなかった。どれだけ力の差があろうと、いろいろな戦い方があるとしても、優勝を狙いたいと思います。今年は調子が良いし、しっかり勝ち切れている試合も多いし、まだ負けてもない。泥臭く上に食らいついていきたいです」

 2勝2分けという最高の開幕スタートを切ったセルクル・ブルージュ。今はまだ「3番目のCB」と位置づけられている植田だが、戦術上、早くも重要な存在になりつつある。


セルクル・ブルージュの植田への取材結果をSportsnaviとNumberWebに寄稿した中田氏である。
植田の現状と考えが伝えられる。
CBとして3番手であること、レギュラーの二人は上手く、学べるものを数多く吸収しようとしていることなど、向上心の塊が感じられて嬉しい。
そしてオランダ語ではなくフランス語習得に努力しておることも、ステップアップを視野に入れており好感度アップと言えよう。
更なる上を目指すのだ。
また、2部から昇格したチームということで常に勝利を目指さない状況についての気持ちを吐露する。
「今までそういったサッカーをしてこなかった。鹿島でやっているときは、常に勝利しか見ていませんでした。相手が引いて守って――という経験はしてきましたが、自分たちがそうやって守るというのは、なかなかなかった。複雑な気持ちになりましたけれど、やってみて、かなりチームの力の差があるなと思いましたし、勝ち点1でも拾っていきながらやっていくサッカーもありだと思いました」
「今までサッカーをやってきた中で、優勝しか見てこなかった。どれだけ力の差があろうと、いろいろな戦い方があるとしても、優勝を狙いたいと思います。今年は調子が良いし、しっかり勝ち切れている試合も多いし、まだ負けてもない。泥臭く上に食らいついていきたいです」とは、鹿島での経験を強く感じさせる。
やはり、鹿島にて培ったからこそ、欧州での活躍が見込まれるのだ。
植田はこの地にて更に成長してくれよう。
その礎には鹿島があることを忘れておらぬ。
今後が楽しみである。

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