アントラーズの「伝統と変革」を生み出す、さまざまなチャレンジを温かく見守っていきたい
鹿島アントラーズの小泉文明社長とookami 代表取締役の尾形太陽を取材したForbes JAPAN 編集部の新川氏である。
鹿島アントラーズFCがベンチャー気質あふれるクラブになったことが強く伝わってくる。
新たな取り組み・チャレンジに対してスピード感を持って進んでいくこととなろう。
日本サッカー界を前進させる存在となっていくことよくわかる。
これからも「伝統と変革」を併せ持つ鹿島アントラーズを応援していきたい。

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鹿島アントラーズは「ギフティング(投げ銭)」にどんな可能性を見たか?
Forbes JAPAN 編集部 FORBES JAPAN

カシマスタジアム
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で公式戦が延期となり、サポーターをスタジアムへ呼び込むことも出来なくなった。最大の収入源となるはずの試合が開催できない中、サポーターとの繋がりを生み続ける手段に悩み続けるスポーツ業界の関係者は多い。
しかし、鹿島アントラーズは違った。テクノロジーとの掛け合わせ、スピーディーにチャレンジすることで、ファンへの新たな感動体験を次々に届け続けている。
試合がなく、ファンとの接点が減ってしまった際に最も恐るべきは「忘れ去られてしまうこと」だ。サッカーがない、アントラーズがない日常が当たり前となってしまう可能性がある中で、“サッカーがある日常”をどうキープしていくか。そのためにアントラーズは、ookamiが手がけるスポーツエンターテイメントアプリ「Player!」と共にギフティング(投げ銭)企画を実施。音声配信アプリ「stand.fm」を使って公式番組の配信も開始した。公式戦がなくとも、新たな感動や体験価値が味わえるコンテンツを生み出している。
なぜ、これだけスピード感を持って新しいことに取り組めたのか。なぜ、投げ銭の企画を実施したのか。また、それは今後のスポーツ界にとってどのような可能性を持つのか。鹿島アントラーズの小泉文明社長とookami 代表取締役の尾形太陽に話を聞いた。
「チャレンジすることを忘れない」中断期間
テクノロジーとスポーツを掛け合わせて新たな体験をファンに届ける方法を模索している鹿島アントラーズにとって、新型コロナウイルスでのJリーグ中断はデジタル施策の実施を少し早めるきっかけに過ぎなかったのだと小泉は振り返る。
「良い意味で背中を押してもらいました。こうした中断期間がないと、普段の業務に忙殺されていてなかなか手を付けられない部分もあったと思います。会社のメンバーにはこういった事態に陥ったときにただ終息を待つのではなく、この環境の中でどうやって会社を前に進めるかを話していました」
リモートでディスカッションが活発化していく中、最優先事項は、Jリーグ再開後も取り組んでいける施策だった。新型コロナウイルスが終息した後もスポーツの視聴スタイルは変化する。その中で、元々検討していたギフティングに取り組むことになった。
Jクラブとして初めて行ったのが、ookamiのスポーツエンターテイメントアプリ「Player!」を活用し、過去のアーカイブ映像観戦を行うオンラインライブイベント「鹿ライブ」だ。
これは、Jリーグ公式YouTubeとNHK BS-1で配信・放送される過去の試合に合わせ、当時試合に出場していたクラブOBや現役選手が登場し、その試合でのエピソードを交えながら解説するというもの。ギフティングによるチームへの応援企画もあり、サポーターは鹿島アントラーズの活動を直接支援することができた。
これは単に中断期間を乗り切るための苦し紛れの企画ではない。「再開後どのようにしてオフラインとオンラインを融合させていくかを考えてのチャレンジだ」と小泉氏はいう。
「リアルで体験した価値がデジタルで増殖していき、それがまたリアルで見ている人たちに返ってきます。オンラインとオフラインの両方の体験がどんどんアップデートされていく流れは今後も加速すると思っています」
現在はオンラインでのギフティングという取り組みだが、公式戦再開後はスタジアム内で試合を楽しむ人も当然ながら出てくるだろう。そうするとピッチで起こっている試合、サポーター個人が持つ端末、そしてスタジアムのビジョンの「トリプルスクリーン」を活用してリアルな場でもファンを楽しませる機会を生み出していくことが可能となる。
横一線となったスポーツ業界で新たな施策の提供
コロナ禍によって事業の可能性が広がったのがookamiだ。代表の尾形はスポーツ業界の現状を以下のように捉えている。
「新型コロナウイルスの影響によって、スポーツ業界が一気に横一線となり、世界同時多発的に同じ課題にぶつかりました。どのクラブも何をすべきか頭を悩ませていたと思いますが、私たちは一気に業界を変えていけるチャンスだと思いました。元々、Player!はスポーツ観戦をオンライン化することを目的に取り組んできたサービスなので、スポーツ観戦のオンライン化が喫緊の課題となり、どのような価値を発揮できるかを考えている中で、鹿島アントラーズとの取り組みは先進的で良いものになりました」
Player!は現在は約1000の大学スポーツやアマチュアスポーツのチームと提携し、それらの試合を中心に配信。またOB・OGの会費集金機能を展開し、この1年間で実績を作ってきた。それが今回の「ギフティング」のベースの機能となっている。
Player!が最も大切にするのは、どうやってチームに収益を還元できるかということだ。他のサービスとは異なり、手数料をビジネスとしていない。ファンとクラブの関係性を高め、ユーザー数を増やすことが収益に繋がると考えている。
「これから先、無観客試合、または観客数を制限した試合が続いていくことが予想され、従来のようなスタジアムを満席にする方針がガラッと変わってくると思います。その中で私たちが持っている機能、オンラインのファンコミュニティー化で、熱量の高いファンの方々にも価値提供できないかなと思っています」

「ギフティング(投げ銭)」の可能性
アントラーズとPlayer!の取り組みである「鹿ライブ」は、結果がわかっている過去の試合ながら、総視聴回数が約6万回、総視聴者数は約1.5万人が参加した。ギフティングの金額以上に、ファンからの好意的な反応が多く見られ、クラブとの接触を望んでいたファンにとっては絶好の機会となったと尾形はいう。
「アントラーズのサポーターが熱く、温かったこともあり、たくさんの方々が参加してくださいました。既存の顧客ベースが強かったからこそ、スタジアムを満席にする数に優に至ったのだと思います」
今後、勝敗が分からない試合を題材にしていけば、より多くの人がアクセスし、ゴールシーンなど感動してもらえる瞬間はより多くなる。今回はアントラーズにとっても「テスト」の意味合いが含まれていたが、反響を今後のアクション設計に活かすことができることからも、小泉は手応えを感じている。
「ファンは試合をすごく待ち望んでいてくれている。良いコンテンツを提供すれば、絶対に見に来てくれることが分かりました。応援してくれているのも見て取れましたし、Jリーグにとっても新たな収益の機会として、今後ギフティングを一般化していけるのではないかという手応えもありました」
これまではクラブが収益化出来るのは主にホームゲームに限られていたが、ギフティングのような取り組みによって、パブリックビューイングなども含め、アウェイゲームのマネタイズも出来るようになってくる。また、年に何度もカシマスタジアムに足を運ぶことが難しかったファンにとっては、ユニフォームやグッズを購入する以外の新たな応援の形にもなる。
「今までJリーグとして収益化できていなかったところがテクノロジーでどんどん収益化出来るようになっていく思います。それがチームの強化費となり、より強く、より魅力的になっていく。チーム強化とビジネスの両輪がグルグル回るようになってきます。ギフティングみたいなものはJリーグの経営体力を強めるという意味でも大事だったのではないかと思います」(小泉)

ベンチャー精神を持つスポーツクラブに
この中断期間、アントラーズはデジタル施策を加速させている。親会社であるメルカリからの出向者もいるクラブ内部ではスピード感を持って取り組めている、という。尾形もアントラーズとの話は「最初のミーティングから一週間半で実施まで実現できた」と振り返る。
「これからもアントラーズはベンチャー気質を持って、小さな取り組みから始め、それをブラッシュアップしてファンに感動体験を提供していきたい。色んなベンチャーのサービスを利用しながら、一緒に良いものを作っていきたいと思っています。スポーツは感動を与えるもの。そしてクラブは、それを提供するだけでなく、適切な価値として収入を得ることに向き合わなくてはいけない。Jリーグや他のプロチームが参考にできるような、良い事例を作っていきたい」と小泉は語る。
チャレンジをすることには失敗も付き物だ。だがアクションを起こさないことには変化も進化も生まれない。基盤がしっかりしたスポーツクラブがベンチャー精神を持つとどんな体験が生まれるのか。これからも続くアントラーズの「伝統と変革」を生み出す、さまざまなチャレンジを温かく見守っていきたい。
文=新川諒
鹿島アントラーズFCがベンチャー気質あふれるクラブになったことが強く伝わってくる。
新たな取り組み・チャレンジに対してスピード感を持って進んでいくこととなろう。
日本サッカー界を前進させる存在となっていくことよくわかる。
これからも「伝統と変革」を併せ持つ鹿島アントラーズを応援していきたい。

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鹿島アントラーズは「ギフティング(投げ銭)」にどんな可能性を見たか?
Forbes JAPAN 編集部 FORBES JAPAN

カシマスタジアム
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で公式戦が延期となり、サポーターをスタジアムへ呼び込むことも出来なくなった。最大の収入源となるはずの試合が開催できない中、サポーターとの繋がりを生み続ける手段に悩み続けるスポーツ業界の関係者は多い。
しかし、鹿島アントラーズは違った。テクノロジーとの掛け合わせ、スピーディーにチャレンジすることで、ファンへの新たな感動体験を次々に届け続けている。
試合がなく、ファンとの接点が減ってしまった際に最も恐るべきは「忘れ去られてしまうこと」だ。サッカーがない、アントラーズがない日常が当たり前となってしまう可能性がある中で、“サッカーがある日常”をどうキープしていくか。そのためにアントラーズは、ookamiが手がけるスポーツエンターテイメントアプリ「Player!」と共にギフティング(投げ銭)企画を実施。音声配信アプリ「stand.fm」を使って公式番組の配信も開始した。公式戦がなくとも、新たな感動や体験価値が味わえるコンテンツを生み出している。
なぜ、これだけスピード感を持って新しいことに取り組めたのか。なぜ、投げ銭の企画を実施したのか。また、それは今後のスポーツ界にとってどのような可能性を持つのか。鹿島アントラーズの小泉文明社長とookami 代表取締役の尾形太陽に話を聞いた。
「チャレンジすることを忘れない」中断期間
テクノロジーとスポーツを掛け合わせて新たな体験をファンに届ける方法を模索している鹿島アントラーズにとって、新型コロナウイルスでのJリーグ中断はデジタル施策の実施を少し早めるきっかけに過ぎなかったのだと小泉は振り返る。
「良い意味で背中を押してもらいました。こうした中断期間がないと、普段の業務に忙殺されていてなかなか手を付けられない部分もあったと思います。会社のメンバーにはこういった事態に陥ったときにただ終息を待つのではなく、この環境の中でどうやって会社を前に進めるかを話していました」
リモートでディスカッションが活発化していく中、最優先事項は、Jリーグ再開後も取り組んでいける施策だった。新型コロナウイルスが終息した後もスポーツの視聴スタイルは変化する。その中で、元々検討していたギフティングに取り組むことになった。
Jクラブとして初めて行ったのが、ookamiのスポーツエンターテイメントアプリ「Player!」を活用し、過去のアーカイブ映像観戦を行うオンラインライブイベント「鹿ライブ」だ。
これは、Jリーグ公式YouTubeとNHK BS-1で配信・放送される過去の試合に合わせ、当時試合に出場していたクラブOBや現役選手が登場し、その試合でのエピソードを交えながら解説するというもの。ギフティングによるチームへの応援企画もあり、サポーターは鹿島アントラーズの活動を直接支援することができた。
これは単に中断期間を乗り切るための苦し紛れの企画ではない。「再開後どのようにしてオフラインとオンラインを融合させていくかを考えてのチャレンジだ」と小泉氏はいう。
「リアルで体験した価値がデジタルで増殖していき、それがまたリアルで見ている人たちに返ってきます。オンラインとオフラインの両方の体験がどんどんアップデートされていく流れは今後も加速すると思っています」
現在はオンラインでのギフティングという取り組みだが、公式戦再開後はスタジアム内で試合を楽しむ人も当然ながら出てくるだろう。そうするとピッチで起こっている試合、サポーター個人が持つ端末、そしてスタジアムのビジョンの「トリプルスクリーン」を活用してリアルな場でもファンを楽しませる機会を生み出していくことが可能となる。
横一線となったスポーツ業界で新たな施策の提供
コロナ禍によって事業の可能性が広がったのがookamiだ。代表の尾形はスポーツ業界の現状を以下のように捉えている。
「新型コロナウイルスの影響によって、スポーツ業界が一気に横一線となり、世界同時多発的に同じ課題にぶつかりました。どのクラブも何をすべきか頭を悩ませていたと思いますが、私たちは一気に業界を変えていけるチャンスだと思いました。元々、Player!はスポーツ観戦をオンライン化することを目的に取り組んできたサービスなので、スポーツ観戦のオンライン化が喫緊の課題となり、どのような価値を発揮できるかを考えている中で、鹿島アントラーズとの取り組みは先進的で良いものになりました」
Player!は現在は約1000の大学スポーツやアマチュアスポーツのチームと提携し、それらの試合を中心に配信。またOB・OGの会費集金機能を展開し、この1年間で実績を作ってきた。それが今回の「ギフティング」のベースの機能となっている。
Player!が最も大切にするのは、どうやってチームに収益を還元できるかということだ。他のサービスとは異なり、手数料をビジネスとしていない。ファンとクラブの関係性を高め、ユーザー数を増やすことが収益に繋がると考えている。
「これから先、無観客試合、または観客数を制限した試合が続いていくことが予想され、従来のようなスタジアムを満席にする方針がガラッと変わってくると思います。その中で私たちが持っている機能、オンラインのファンコミュニティー化で、熱量の高いファンの方々にも価値提供できないかなと思っています」

「ギフティング(投げ銭)」の可能性
アントラーズとPlayer!の取り組みである「鹿ライブ」は、結果がわかっている過去の試合ながら、総視聴回数が約6万回、総視聴者数は約1.5万人が参加した。ギフティングの金額以上に、ファンからの好意的な反応が多く見られ、クラブとの接触を望んでいたファンにとっては絶好の機会となったと尾形はいう。
「アントラーズのサポーターが熱く、温かったこともあり、たくさんの方々が参加してくださいました。既存の顧客ベースが強かったからこそ、スタジアムを満席にする数に優に至ったのだと思います」
今後、勝敗が分からない試合を題材にしていけば、より多くの人がアクセスし、ゴールシーンなど感動してもらえる瞬間はより多くなる。今回はアントラーズにとっても「テスト」の意味合いが含まれていたが、反響を今後のアクション設計に活かすことができることからも、小泉は手応えを感じている。
「ファンは試合をすごく待ち望んでいてくれている。良いコンテンツを提供すれば、絶対に見に来てくれることが分かりました。応援してくれているのも見て取れましたし、Jリーグにとっても新たな収益の機会として、今後ギフティングを一般化していけるのではないかという手応えもありました」
これまではクラブが収益化出来るのは主にホームゲームに限られていたが、ギフティングのような取り組みによって、パブリックビューイングなども含め、アウェイゲームのマネタイズも出来るようになってくる。また、年に何度もカシマスタジアムに足を運ぶことが難しかったファンにとっては、ユニフォームやグッズを購入する以外の新たな応援の形にもなる。
「今までJリーグとして収益化できていなかったところがテクノロジーでどんどん収益化出来るようになっていく思います。それがチームの強化費となり、より強く、より魅力的になっていく。チーム強化とビジネスの両輪がグルグル回るようになってきます。ギフティングみたいなものはJリーグの経営体力を強めるという意味でも大事だったのではないかと思います」(小泉)

ベンチャー精神を持つスポーツクラブに
この中断期間、アントラーズはデジタル施策を加速させている。親会社であるメルカリからの出向者もいるクラブ内部ではスピード感を持って取り組めている、という。尾形もアントラーズとの話は「最初のミーティングから一週間半で実施まで実現できた」と振り返る。
「これからもアントラーズはベンチャー気質を持って、小さな取り組みから始め、それをブラッシュアップしてファンに感動体験を提供していきたい。色んなベンチャーのサービスを利用しながら、一緒に良いものを作っていきたいと思っています。スポーツは感動を与えるもの。そしてクラブは、それを提供するだけでなく、適切な価値として収入を得ることに向き合わなくてはいけない。Jリーグや他のプロチームが参考にできるような、良い事例を作っていきたい」と小泉は語る。
チャレンジをすることには失敗も付き物だ。だがアクションを起こさないことには変化も進化も生まれない。基盤がしっかりしたスポーツクラブがベンチャー精神を持つとどんな体験が生まれるのか。これからも続くアントラーズの「伝統と変革」を生み出す、さまざまなチャレンジを温かく見守っていきたい。
文=新川諒