後藤健生氏コラム
【後藤健生コラム】印象深かった大迫勇也(鹿島)のクレバーさ
プレシーズンは、コンディションもバラバラのまま
Jリーグ開幕まであと2週間となったこの週末。全国各地でプレシーズンマッチが行われたので、僕は首都圏で開催された鹿島対水戸(いばらきサッカーフェスティバル)、柏対千葉(ちばぎんカップ)の2試合を観戦した。
開幕まで2週間。千葉のアレックス・ミラー監督も言うように、選手のコンディションはまだまだバラバラである。仕上がりの早い選手は、すぐにでも開幕を迎えられそう(あるいは、迎えたそう)であり、一方ではこれから調整に励まなければいけない選手も多い。1月から2月にかけて代表チームで活動した選手は、チームに合流後トレーニングの負荷をかけた後、もう一度開幕までにピークを持ってこなければならない。
コンディションは、選手個人によってもバラつきがあるが、チームによる違いも大きい。リーグ戦は12月初めまでの長丁場。優勝を目指すチームにとっては、3月7日の開幕日にピークを持ってくるよりも、開幕から1か月経って戦術的な調整が進むころにピークを持っていきたい場合もある。ACLと並行して戦うチームにとっては、また条件も違う。
たとえば、鹿島アントラーズ。水戸との試合では、左サイドの新井場徹は、激しい上下動を繰り返し、再三クロスを上げてチャンスを作っていた。右サイドの内田篤人も、中に切れ込んでのプレーに切れ味の鋭さがあった。「両サイドは昨年よりも強力?」と思わせた出来だった。両サイドバックは調整も進み、すぐにも開幕を迎えられそうだった。
だが、全般的に見れば、鹿島の選手の動きは重かった。昨シーズンは開幕ダッシュを見せたものの、途中で息切れした時期もあった反省もあるのだろう。中心選手の小笠原が欠場するであろう序盤をうまくしのいで、ゲームの多い4月〜5月にピークを持ってくるつもりなのかもしれない。
対戦相手の水戸ホーリーホックは、こちらはJ2の中位チーム。実力の接近したJ2中位では、ちょっとした出来、不出来によって順位も大きく変動する。このクラスのチームはとにかく開幕にピークを持っていって、スタートダッシュを決めて、行けるところまで行くべきだ。実際、鹿島との試合でも、水戸はコンディション的に鹿島を上回っており、前半の途中までは鹿島(前半はベストメンバー)を押し込む場面が何度も見られた。最終的には、鹿島の選手の個人能力の高さにやられて0‐4の完敗となったものの、水戸にとっては大きな自信となったはずだ。
僕が見た2試合(4チーム)の中では、柏レイソルが快勝したという印象を持っている。もっとも、メンバーがそろわないジェフ千葉のDFラインの裏を狙って、オフサイドぎりぎりからの飛び出しが効いた勝利であり、(副審のジャッジを含めて)幸運な先制点で優位に立った試合だ。これがそのまま、守備組織がしっかりしている相手に対して通用するとも思えず、アルセウの長期離脱。山根巌の故障が重なったボランチなど不安材料もある(千葉戦では、ボランチに入った杉山浩太がすばらしいパスで攻撃をスピードアップしたが、杉山と栗澤僚一の組み合わせでは守備力に不安が残る)。
まあ、そんなわけで、何度も言うのだが、この時期の勝敗や、個々の選手の出来、不出来で一喜一憂する必要はまったくないのである。
さて、鹿島と水戸の試合で大きな注目を浴びたのが大迫勇也だった。練習試合でも得点を重ねた大迫が初めてホームのカシマスタジアムに姿を現わし、サポーターの大声援の中でプレーしたのだ。
「若いスター」が大好きなスポーツ新聞も含めて、注目が集まった。そして、ロスタイムの91分に、中盤からドリブルで持ち込むと、ペナルティーエリアまでかなり距離を残したところから左足で、ゴール左上隅へのロングシュートを叩き込んで、期待に見事に応えたのである。
こういう条件の試合の中で、それも後半ロスタイムという時間帯で点を取ってみせるあたりが、大物スターとしての雰囲気を感じさせる。また、得点自体も思い切って強く蹴るのではなく、コースを狙って80%の力で蹴ったもので、シュートの技術の高さも垣間見せた。そして、僕が感心したのは、この得点場面よりも、むしろ前からの守備のうまさだった。
岡田武史監督率いる日本代表も前線からのチェイシングを重視している。日本のFWにとっては、「守備への貢献」は大きな仕事の一つである。その場合に、無闇やたらに走り回ってボールを追いかけるだけでは非効率で、90分運動量が持たないだろう。僕が感心したのは、大迫がいつ、どのタイミングでボールを追いかけるかを考えて動いていたことだ。
後半に登場してすぐ、相手のバックパスがGKに渡った場面があった。そのボールを大迫が右サイドから追った。GKの原田欽庸が慌てて切り返そうとして、ボールを右足の前に置こうとした瞬間、大迫が奪取してこのボールを狙った。その他にも、何度もいいタイミングで、うまくコースを切りながらボールを追ったり、ボールを奪えると判断したときの思い切りのいいチャージなどを見ることが出来た。
つまり、あの最後のシュートもそうだが、大迫勇也は攻守ともに頭のいいクレバーなプレーができる選手だということがよく分かった。もっとも、チームから消えている時間も長かったし、今の体力では45分プレーすることも難しいかもしれないのは事実。もっとも、後半は鹿島が次々と選手を入れ替えたため(大迫を含めて6人交代させた)、全体にパスの回り方は滞り気味だったので、パスが来なかった点については同情の余地はある。しかし、逆に水戸の方にも疲れが出て動きが緩慢になっていたから、もし、もっと高いレベルの相手がフルパワーで動ける時間帯に、大迫が思ったようなプレーができるかも疑問とは言える。
そんなこんなで、スポーツ新聞が期待するように「今すぐ代表入り」というのは難しそうだが、トレーニングと経験を積み、そのクレバーさと技術をコンスタントに発揮できるようになれば、大きく伸びる潜在力を持った選手であることは間違いないだろう。天候にも恵まれた週末、久しぶりにスタジアムで試合を見たので、僕にとっても「開幕近し」を体感した2日間だった。
後藤健生氏ベタ褒めの両サイドバックと大迫である。
確かに水戸戦ではサイドバックからの大きなサイドチェンジが随所に見られ、ダイナミックな攻撃を演出しておった。
今季は昨季の継続だけでなく進化した攻撃が見られそうである。
そして表題にも挙げられた大迫のサッカー脳であろう。
まさにクレバーという言葉がふさわしい。
彼はスターである素質の一つである頭脳を持っておる。
サッカー選手に必要なものに三つの「B」がある。
「Ball Control」ボール扱う能力。
「Body Balance」身体能力。
そして「Brain」である。
大迫は最も重要なBを持っておると言えよう。
我等はこのスターを磨き上げて世に送り出す義務があると言えるのだ。
メディアに乗せられず地道に鍛え上げていこうではないか。
プレシーズンは、コンディションもバラバラのまま
Jリーグ開幕まであと2週間となったこの週末。全国各地でプレシーズンマッチが行われたので、僕は首都圏で開催された鹿島対水戸(いばらきサッカーフェスティバル)、柏対千葉(ちばぎんカップ)の2試合を観戦した。
開幕まで2週間。千葉のアレックス・ミラー監督も言うように、選手のコンディションはまだまだバラバラである。仕上がりの早い選手は、すぐにでも開幕を迎えられそう(あるいは、迎えたそう)であり、一方ではこれから調整に励まなければいけない選手も多い。1月から2月にかけて代表チームで活動した選手は、チームに合流後トレーニングの負荷をかけた後、もう一度開幕までにピークを持ってこなければならない。
コンディションは、選手個人によってもバラつきがあるが、チームによる違いも大きい。リーグ戦は12月初めまでの長丁場。優勝を目指すチームにとっては、3月7日の開幕日にピークを持ってくるよりも、開幕から1か月経って戦術的な調整が進むころにピークを持っていきたい場合もある。ACLと並行して戦うチームにとっては、また条件も違う。
たとえば、鹿島アントラーズ。水戸との試合では、左サイドの新井場徹は、激しい上下動を繰り返し、再三クロスを上げてチャンスを作っていた。右サイドの内田篤人も、中に切れ込んでのプレーに切れ味の鋭さがあった。「両サイドは昨年よりも強力?」と思わせた出来だった。両サイドバックは調整も進み、すぐにも開幕を迎えられそうだった。
だが、全般的に見れば、鹿島の選手の動きは重かった。昨シーズンは開幕ダッシュを見せたものの、途中で息切れした時期もあった反省もあるのだろう。中心選手の小笠原が欠場するであろう序盤をうまくしのいで、ゲームの多い4月〜5月にピークを持ってくるつもりなのかもしれない。
対戦相手の水戸ホーリーホックは、こちらはJ2の中位チーム。実力の接近したJ2中位では、ちょっとした出来、不出来によって順位も大きく変動する。このクラスのチームはとにかく開幕にピークを持っていって、スタートダッシュを決めて、行けるところまで行くべきだ。実際、鹿島との試合でも、水戸はコンディション的に鹿島を上回っており、前半の途中までは鹿島(前半はベストメンバー)を押し込む場面が何度も見られた。最終的には、鹿島の選手の個人能力の高さにやられて0‐4の完敗となったものの、水戸にとっては大きな自信となったはずだ。
僕が見た2試合(4チーム)の中では、柏レイソルが快勝したという印象を持っている。もっとも、メンバーがそろわないジェフ千葉のDFラインの裏を狙って、オフサイドぎりぎりからの飛び出しが効いた勝利であり、(副審のジャッジを含めて)幸運な先制点で優位に立った試合だ。これがそのまま、守備組織がしっかりしている相手に対して通用するとも思えず、アルセウの長期離脱。山根巌の故障が重なったボランチなど不安材料もある(千葉戦では、ボランチに入った杉山浩太がすばらしいパスで攻撃をスピードアップしたが、杉山と栗澤僚一の組み合わせでは守備力に不安が残る)。
まあ、そんなわけで、何度も言うのだが、この時期の勝敗や、個々の選手の出来、不出来で一喜一憂する必要はまったくないのである。
さて、鹿島と水戸の試合で大きな注目を浴びたのが大迫勇也だった。練習試合でも得点を重ねた大迫が初めてホームのカシマスタジアムに姿を現わし、サポーターの大声援の中でプレーしたのだ。
「若いスター」が大好きなスポーツ新聞も含めて、注目が集まった。そして、ロスタイムの91分に、中盤からドリブルで持ち込むと、ペナルティーエリアまでかなり距離を残したところから左足で、ゴール左上隅へのロングシュートを叩き込んで、期待に見事に応えたのである。
こういう条件の試合の中で、それも後半ロスタイムという時間帯で点を取ってみせるあたりが、大物スターとしての雰囲気を感じさせる。また、得点自体も思い切って強く蹴るのではなく、コースを狙って80%の力で蹴ったもので、シュートの技術の高さも垣間見せた。そして、僕が感心したのは、この得点場面よりも、むしろ前からの守備のうまさだった。
岡田武史監督率いる日本代表も前線からのチェイシングを重視している。日本のFWにとっては、「守備への貢献」は大きな仕事の一つである。その場合に、無闇やたらに走り回ってボールを追いかけるだけでは非効率で、90分運動量が持たないだろう。僕が感心したのは、大迫がいつ、どのタイミングでボールを追いかけるかを考えて動いていたことだ。
後半に登場してすぐ、相手のバックパスがGKに渡った場面があった。そのボールを大迫が右サイドから追った。GKの原田欽庸が慌てて切り返そうとして、ボールを右足の前に置こうとした瞬間、大迫が奪取してこのボールを狙った。その他にも、何度もいいタイミングで、うまくコースを切りながらボールを追ったり、ボールを奪えると判断したときの思い切りのいいチャージなどを見ることが出来た。
つまり、あの最後のシュートもそうだが、大迫勇也は攻守ともに頭のいいクレバーなプレーができる選手だということがよく分かった。もっとも、チームから消えている時間も長かったし、今の体力では45分プレーすることも難しいかもしれないのは事実。もっとも、後半は鹿島が次々と選手を入れ替えたため(大迫を含めて6人交代させた)、全体にパスの回り方は滞り気味だったので、パスが来なかった点については同情の余地はある。しかし、逆に水戸の方にも疲れが出て動きが緩慢になっていたから、もし、もっと高いレベルの相手がフルパワーで動ける時間帯に、大迫が思ったようなプレーができるかも疑問とは言える。
そんなこんなで、スポーツ新聞が期待するように「今すぐ代表入り」というのは難しそうだが、トレーニングと経験を積み、そのクレバーさと技術をコンスタントに発揮できるようになれば、大きく伸びる潜在力を持った選手であることは間違いないだろう。天候にも恵まれた週末、久しぶりにスタジアムで試合を見たので、僕にとっても「開幕近し」を体感した2日間だった。
後藤健生氏ベタ褒めの両サイドバックと大迫である。
確かに水戸戦ではサイドバックからの大きなサイドチェンジが随所に見られ、ダイナミックな攻撃を演出しておった。
今季は昨季の継続だけでなく進化した攻撃が見られそうである。
そして表題にも挙げられた大迫のサッカー脳であろう。
まさにクレバーという言葉がふさわしい。
彼はスターである素質の一つである頭脳を持っておる。
サッカー選手に必要なものに三つの「B」がある。
「Ball Control」ボール扱う能力。
「Body Balance」身体能力。
そして「Brain」である。
大迫は最も重要なBを持っておると言えよう。
我等はこのスターを磨き上げて世に送り出す義務があると言えるのだ。
メディアに乗せられず地道に鍛え上げていこうではないか。