オリヴェイラ監督の人間力
鹿島V3を呼び込んだオリヴェイラの人間力。
寺野典子=文
text by Noriko Terano
photograph by Toshiya Kondo
2009年12月29日

鹿島の選手たちは口々に指揮官の手腕を称賛する
史上初のJリーグ3連覇を達成した鹿島アントラーズ監督のオズワルド・オリヴェイラは1950年リオデジャネイロの貧しい家庭に生まれた。プロ選手のキャリアはない。アルバイトで生計を立てながら、大学を卒業しフィジカルコーチとなった。
'80年カタールの代表スタッフとなり、'81年ワールドユース選手権(現U-20W杯)で準優勝。その後カタールやUAEのクラブで約15年間を過ごした。この経験が、オリヴェイラ独自の人間観を生んだ。
「まったくの異文化の中で仕事をし、他者を尊重する父の教えの重要性を再認識した」と振り返る。
「私は哲学を持たない。持った瞬間にそれに縛られてしまうから」
'99年コリンチャンスで監督デビューし、3冠を獲得。ブラジルの名門クラブを渡り歩き、'07年鹿島の監督に就任。「私は哲学を持たない。持った瞬間にそれに縛られてしまうから」と語り、記者を驚かせた。
「僕たちの意見にも耳をかたむけてくれ、多くを任せてくれるから非常に仕事のしやすい上司です」と鹿島の日本人スタッフは口をそろえる。
「いつも自分が正しいとは限らないという気持ちで、多くの人の声を聞き、判断をくだすのが私の仕事。スタッフが力を発揮できなければ、選手も能力を発揮できない」
スタッフが情報を上げやすいよう、空気作りにも気を配ったという。
オリヴェイラ監督の武器は、分析力、説得力、空気を読む力。
「『(首位の)川崎フロンターレはきっとつまずくから、我々が連勝すれば優勝できる』という監督の言葉通りの結果となった」とDFの岩政大樹。
'07年に逆転優勝したときも同様の宣言をオリヴェイラはしている。
「ただ闇雲に、頑張れば勝てると言っても選手は信じない」とライバルチームの状況、鹿島の状況を分析し、優勝の可能性を語ってみせたのだ。
「大切なのは選手を説得し、納得させること」という監督は、毎節の試合前にミーティングを行ない、攻略の策を伝える。その話術とトレーニングメニューには、「試合へ向けてのアプローチが、戦術、メンタルともにとても巧みだ」と、JOMOカップでともに戦った遠藤保仁や中村憲剛なども評価していた。
チーム作りの面でも「早い攻守の切り替え」など、戦術の徹底を促し、成功している。
「計画を立て、それを実行する力」が自身の武器だと分析するオリヴェイラは、監督にとって重要なのは空気を読む力だと話す。
「僕たち自身もまだ気がついていないような気の緩みを忠告されることがある。それがまさに絶妙のタイミングなんです」とMFの青木剛。
「サッカーも選手も生鮮食品のようなものです」
活を入れるだけでなく、選手たちの家族からのメッセージビデオや手紙をプレゼントしたりと、硬軟自在のやり方で、選手たちのモチベーションを維持してきた。
「サッカーも選手も生鮮食品のようなものです。旬があれば、ダメなときもある。調理法次第で様々な味が出せる。慎重に扱う必要があります」
状況に応じ臨機応変に対応する懐の深さを持ちながらも、連敗が続いたときも急激にメンバーを替えることはなかった。体調不良の続く内田篤人の苦労を思い、本人の前で涙を流したという。ブレのない姿勢、嘘のない言動に、選手やスタッフが自然とオリヴェイラに厚い信頼を寄せ、彼の言葉を素直に受け止める。
「3連覇という偉業を成し遂げられたのもフロンターレをはじめとする多くのチームの存在があったから」
他チームへの感謝の言葉を述べる心配りもまたオリヴェイラらしい。監督力、リーダーシップの土台とは高い人間力であることを痛感する。
ナンバーのコラムである。
オリヴェイラ監督の手腕を紹介しておる。
彼の就任から3年。
素晴らしい歴史を作ってくれた人物であったと思う。
また来季もオリヴェイラ監督の指揮の下に戦える幸せを感じずにはいられぬ。
ダニーロや田代が去り、チーム編成に不安が無いとは言い切れぬ。
しかしながら、オリヴェイラ監督ならば、現有戦力で十二分に戦う術を持っておろう。
我等と共に幸せを共有し続けて欲しいと願うのである。
寺野典子=文
text by Noriko Terano
photograph by Toshiya Kondo
2009年12月29日

鹿島の選手たちは口々に指揮官の手腕を称賛する
史上初のJリーグ3連覇を達成した鹿島アントラーズ監督のオズワルド・オリヴェイラは1950年リオデジャネイロの貧しい家庭に生まれた。プロ選手のキャリアはない。アルバイトで生計を立てながら、大学を卒業しフィジカルコーチとなった。
'80年カタールの代表スタッフとなり、'81年ワールドユース選手権(現U-20W杯)で準優勝。その後カタールやUAEのクラブで約15年間を過ごした。この経験が、オリヴェイラ独自の人間観を生んだ。
「まったくの異文化の中で仕事をし、他者を尊重する父の教えの重要性を再認識した」と振り返る。
「私は哲学を持たない。持った瞬間にそれに縛られてしまうから」
'99年コリンチャンスで監督デビューし、3冠を獲得。ブラジルの名門クラブを渡り歩き、'07年鹿島の監督に就任。「私は哲学を持たない。持った瞬間にそれに縛られてしまうから」と語り、記者を驚かせた。
「僕たちの意見にも耳をかたむけてくれ、多くを任せてくれるから非常に仕事のしやすい上司です」と鹿島の日本人スタッフは口をそろえる。
「いつも自分が正しいとは限らないという気持ちで、多くの人の声を聞き、判断をくだすのが私の仕事。スタッフが力を発揮できなければ、選手も能力を発揮できない」
スタッフが情報を上げやすいよう、空気作りにも気を配ったという。
オリヴェイラ監督の武器は、分析力、説得力、空気を読む力。
「『(首位の)川崎フロンターレはきっとつまずくから、我々が連勝すれば優勝できる』という監督の言葉通りの結果となった」とDFの岩政大樹。
'07年に逆転優勝したときも同様の宣言をオリヴェイラはしている。
「ただ闇雲に、頑張れば勝てると言っても選手は信じない」とライバルチームの状況、鹿島の状況を分析し、優勝の可能性を語ってみせたのだ。
「大切なのは選手を説得し、納得させること」という監督は、毎節の試合前にミーティングを行ない、攻略の策を伝える。その話術とトレーニングメニューには、「試合へ向けてのアプローチが、戦術、メンタルともにとても巧みだ」と、JOMOカップでともに戦った遠藤保仁や中村憲剛なども評価していた。
チーム作りの面でも「早い攻守の切り替え」など、戦術の徹底を促し、成功している。
「計画を立て、それを実行する力」が自身の武器だと分析するオリヴェイラは、監督にとって重要なのは空気を読む力だと話す。
「僕たち自身もまだ気がついていないような気の緩みを忠告されることがある。それがまさに絶妙のタイミングなんです」とMFの青木剛。
「サッカーも選手も生鮮食品のようなものです」
活を入れるだけでなく、選手たちの家族からのメッセージビデオや手紙をプレゼントしたりと、硬軟自在のやり方で、選手たちのモチベーションを維持してきた。
「サッカーも選手も生鮮食品のようなものです。旬があれば、ダメなときもある。調理法次第で様々な味が出せる。慎重に扱う必要があります」
状況に応じ臨機応変に対応する懐の深さを持ちながらも、連敗が続いたときも急激にメンバーを替えることはなかった。体調不良の続く内田篤人の苦労を思い、本人の前で涙を流したという。ブレのない姿勢、嘘のない言動に、選手やスタッフが自然とオリヴェイラに厚い信頼を寄せ、彼の言葉を素直に受け止める。
「3連覇という偉業を成し遂げられたのもフロンターレをはじめとする多くのチームの存在があったから」
他チームへの感謝の言葉を述べる心配りもまたオリヴェイラらしい。監督力、リーダーシップの土台とは高い人間力であることを痛感する。
ナンバーのコラムである。
オリヴェイラ監督の手腕を紹介しておる。
彼の就任から3年。
素晴らしい歴史を作ってくれた人物であったと思う。
また来季もオリヴェイラ監督の指揮の下に戦える幸せを感じずにはいられぬ。
ダニーロや田代が去り、チーム編成に不安が無いとは言い切れぬ。
しかしながら、オリヴェイラ監督ならば、現有戦力で十二分に戦う術を持っておろう。
我等と共に幸せを共有し続けて欲しいと願うのである。