浦和戦レビュー
【J1:第21節 浦和 vs 鹿島】レポート:勝利を掴みかけていた浦和だったが、最後に鹿島の意地を見た(10.08.29)
8月28日(土) 2010 J1リーグ戦 第21節
浦和 1 - 1 鹿島 (18:03/埼玉/51,177人)
得点者:80' ポンテ(浦和)、90'+5 本山雅志(鹿島)
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あとは歓喜の瞬間を迎えるだけのはずだった。時計の針がロスタイムの5分に差し掛かろうとしていた時、浦和は1−0で勝っていた。
ところが、最後の最後で白星が指のすき間からこぼれていった。鹿島にとっては最後のチャンスだったスローインの場面、新井場徹がペナルティエリア内にボールを放り込み、岩政大樹が頭で後ろに流すと、そこにはフリーの本山雅志が待ち構えていた。浦和の選手も慌てて反応したが、本山は冷静にゴールネットを揺らした。5月5日の名古屋戦を最後にホームで勝ち星のない浦和だったが、またしても勝利はお預けとなった。
全体的にゲームを支配したのは鹿島だった。特に前半は鹿島が完全に主導権を握っていた。マルキーニョスのボールを引き出す動き出し、小笠原満男、野沢拓也を中心とした中盤のゲームメイク、新井場とジウトンの攻撃参加。そういった個々のプレーが有機的に連鎖して、ボールが小気味よく回っていた。「今までやってきた他のチームと比べても、パス回しが格段にうまい」と宇賀神友弥が脱帽したように、鹿島のボール回しは実に巧みだった。
仕掛けも上手かった。鹿島は浦和の守備が薄いところを的確に狙った。中央ではゾーンとゾーンのつなぎ目を狙ってパスをつなぎ、ワイドではサイドバックの裏を突いてフィニッシュの局面を作ろうとした。「上がろうとすると裏を突いてきたし、そういう駆け引きがあって押し込まれたシーンもあった」。サイドで劣勢を強いられた平川忠亮は鹿島のクレバーな攻撃に舌を巻いた。
それに対し、前半の浦和は攻撃でいいところがほとんどなかった。DFラインのところからプレッシャーをかけられてボールを落ち着いて回すことができず、前線にボールを入れることもほとんどできない。苦し紛れのエジミウソンへのハイボールは、ほとんど岩政に跳ね返される。頼みのポンテにボールを預けても、集中マークに苦しみボールをキープできない。浦和はアタッキングサードまで侵入するのにも難儀した。
ただ、攻撃で形を作れなかったことは、結果的に浦和を助けた面もあった。ポゼッションを高めて前に人数をかけたものの、最後のところで崩せずに逆にカウンターからピンチを招くというのが浦和にありがちな失点パターンだが、幸か不幸か、鹿島のプレッシャーに苦しみ、前に行けなかったことで守備の枚数が足りなくなることはなく、自分たちがチャンスを作れなかったかわりに相手にも決定機を作らせることはほとんどなかった。「プレー中に逐一監督からの指示を聞いているわけにはいかない」とは平川の弁だが、劣勢を感じ取った選手たちが自らの判断で守備に重きを置いた判断も素晴らしかった。前半、浦和のシュートはわずか2本だったが、押し込み続けていた鹿島も4本しか打てなかった。
後半に入っても鹿島ペースは変わらなかったが、浦和にもアタッキングサードまでボールを運ぶシーンが出てきた。ここでも前半の不振が結果的に奏功していた。立ち上がりから攻守に渡って運動量の多いサッカーをしていた鹿島に対し、自陣で守りを固めることが多かった浦和はそれが体力温存につながっていた。「相手があれだけ速くプレッシャーにきたら90分はもたないだろうと思ったし、我慢すれば相手が攻め込んでいる分、スペースができると思っていた」と平川が振り返ったように、鹿島は少しずつ動きが鈍くなり、浦和がカウンターで反撃するシーンが増えていった。
そして80分、浦和が均衡を破る。ペナルティエリア右隅、エジミウソンのパスを受けたポンテが右足を振り抜くと、弾丸シュートがゴール左隅に突き刺さった。このゴールは大ピンチをしのいだあとのカウンターから生まれたものだった。
浦和は先制点を奪ったあとも粘り強い守備で鹿島の攻撃に耐え、何度かカウンターで相手を脅かした。そして、後半ロスタイムを迎え、あとは終了のホイッスルが吹かれるのを待つだけとなったが、あと少しというところで鹿島の執念に泣かされた。
最後は経験の差が出たのかもしれない。「後ろの選手が中盤の選手に声をかけて、ペナルティエリア内にいる必要のない選手には外に出ろと、ボールに行けと言わなければならなかった」とフォルカー フィンケ監督は嘆いたが、鹿島はその欠点を前もってスカウティングで洗い出していた。「試合前から監督にあのエリアは空くと言われていたし、あそこは狙い目だった」と本山が明かしている。
欠点を見抜かれていた浦和と、その盲点を突く準備をしていた鹿島。しかも、ラストプレーになるかもしれないあの局面で、まさに狙い通りの形からゴールを決める。それは百戦錬磨の鹿島だからこそできた芸当なのかもしれない。
以上
2010.08.29 Reported by 神谷正明
浦和の戦術を見抜ききっておったオリヴェイラ監督である。
フィニッシュの精度が高ければ大差の勝利もあったであろう。
しかし結果は異なった。
こういう部分がサッカーの面白いところと言えよう。
何はともあれ、邪悪なるアウェイの地で勝ち点を拾うことが出来た。
采配を揮った指揮官と懸命にプレイした選手を誇りに思う。
8月28日(土) 2010 J1リーグ戦 第21節
浦和 1 - 1 鹿島 (18:03/埼玉/51,177人)
得点者:80' ポンテ(浦和)、90'+5 本山雅志(鹿島)
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あとは歓喜の瞬間を迎えるだけのはずだった。時計の針がロスタイムの5分に差し掛かろうとしていた時、浦和は1−0で勝っていた。
ところが、最後の最後で白星が指のすき間からこぼれていった。鹿島にとっては最後のチャンスだったスローインの場面、新井場徹がペナルティエリア内にボールを放り込み、岩政大樹が頭で後ろに流すと、そこにはフリーの本山雅志が待ち構えていた。浦和の選手も慌てて反応したが、本山は冷静にゴールネットを揺らした。5月5日の名古屋戦を最後にホームで勝ち星のない浦和だったが、またしても勝利はお預けとなった。
全体的にゲームを支配したのは鹿島だった。特に前半は鹿島が完全に主導権を握っていた。マルキーニョスのボールを引き出す動き出し、小笠原満男、野沢拓也を中心とした中盤のゲームメイク、新井場とジウトンの攻撃参加。そういった個々のプレーが有機的に連鎖して、ボールが小気味よく回っていた。「今までやってきた他のチームと比べても、パス回しが格段にうまい」と宇賀神友弥が脱帽したように、鹿島のボール回しは実に巧みだった。
仕掛けも上手かった。鹿島は浦和の守備が薄いところを的確に狙った。中央ではゾーンとゾーンのつなぎ目を狙ってパスをつなぎ、ワイドではサイドバックの裏を突いてフィニッシュの局面を作ろうとした。「上がろうとすると裏を突いてきたし、そういう駆け引きがあって押し込まれたシーンもあった」。サイドで劣勢を強いられた平川忠亮は鹿島のクレバーな攻撃に舌を巻いた。
それに対し、前半の浦和は攻撃でいいところがほとんどなかった。DFラインのところからプレッシャーをかけられてボールを落ち着いて回すことができず、前線にボールを入れることもほとんどできない。苦し紛れのエジミウソンへのハイボールは、ほとんど岩政に跳ね返される。頼みのポンテにボールを預けても、集中マークに苦しみボールをキープできない。浦和はアタッキングサードまで侵入するのにも難儀した。
ただ、攻撃で形を作れなかったことは、結果的に浦和を助けた面もあった。ポゼッションを高めて前に人数をかけたものの、最後のところで崩せずに逆にカウンターからピンチを招くというのが浦和にありがちな失点パターンだが、幸か不幸か、鹿島のプレッシャーに苦しみ、前に行けなかったことで守備の枚数が足りなくなることはなく、自分たちがチャンスを作れなかったかわりに相手にも決定機を作らせることはほとんどなかった。「プレー中に逐一監督からの指示を聞いているわけにはいかない」とは平川の弁だが、劣勢を感じ取った選手たちが自らの判断で守備に重きを置いた判断も素晴らしかった。前半、浦和のシュートはわずか2本だったが、押し込み続けていた鹿島も4本しか打てなかった。
後半に入っても鹿島ペースは変わらなかったが、浦和にもアタッキングサードまでボールを運ぶシーンが出てきた。ここでも前半の不振が結果的に奏功していた。立ち上がりから攻守に渡って運動量の多いサッカーをしていた鹿島に対し、自陣で守りを固めることが多かった浦和はそれが体力温存につながっていた。「相手があれだけ速くプレッシャーにきたら90分はもたないだろうと思ったし、我慢すれば相手が攻め込んでいる分、スペースができると思っていた」と平川が振り返ったように、鹿島は少しずつ動きが鈍くなり、浦和がカウンターで反撃するシーンが増えていった。
そして80分、浦和が均衡を破る。ペナルティエリア右隅、エジミウソンのパスを受けたポンテが右足を振り抜くと、弾丸シュートがゴール左隅に突き刺さった。このゴールは大ピンチをしのいだあとのカウンターから生まれたものだった。
浦和は先制点を奪ったあとも粘り強い守備で鹿島の攻撃に耐え、何度かカウンターで相手を脅かした。そして、後半ロスタイムを迎え、あとは終了のホイッスルが吹かれるのを待つだけとなったが、あと少しというところで鹿島の執念に泣かされた。
最後は経験の差が出たのかもしれない。「後ろの選手が中盤の選手に声をかけて、ペナルティエリア内にいる必要のない選手には外に出ろと、ボールに行けと言わなければならなかった」とフォルカー フィンケ監督は嘆いたが、鹿島はその欠点を前もってスカウティングで洗い出していた。「試合前から監督にあのエリアは空くと言われていたし、あそこは狙い目だった」と本山が明かしている。
欠点を見抜かれていた浦和と、その盲点を突く準備をしていた鹿島。しかも、ラストプレーになるかもしれないあの局面で、まさに狙い通りの形からゴールを決める。それは百戦錬磨の鹿島だからこそできた芸当なのかもしれない。
以上
2010.08.29 Reported by 神谷正明
浦和の戦術を見抜ききっておったオリヴェイラ監督である。
フィニッシュの精度が高ければ大差の勝利もあったであろう。
しかし結果は異なった。
こういう部分がサッカーの面白いところと言えよう。
何はともあれ、邪悪なるアウェイの地で勝ち点を拾うことが出来た。
采配を揮った指揮官と懸命にプレイした選手を誇りに思う。