シャルケ・篤人、充実の練習
スタメン定着&ベストイレブン!
内田篤人が語る「成長の証」。

ミムラユウスケ = 文
text by Yusuke Mimura
photograph by Getty Images
香川真司は開幕前から飛ぶ鳥を落とす勢いで走り続けている。負傷で開幕から2試合に欠場した長谷部誠は、ブンデスリーガで3年戦い続けてきた貫禄を見せている。
矢野貴章がリーグ開幕後にフライブルクに加入するという難しい立場からスタートすることになったことを例外として考えれば、内田篤人は日本人選手の中では出遅れたと言ってもよいだろう。
チーム加入直後のキャンプでは熱を出して、休養を余儀なくされた。開幕戦では途中交代を命じられ、9月の日本代表戦で左足の小指を負傷したために一時、戦列を離れた。シャルケとドルトムントによるレヴィアー・ダービーで香川がドルトムントのヒーローとなった試合は、ピッチではなく観客席から目にしていた。
しかし、ここに来て自身の得意とする攻撃参加を連想させるような勢いを、内田は見せている。11月13日のブンデスリーガ第12節時点で、公式戦8試合連続スタメンを飾り、そのうちの7試合ではフル出場を果たしている。
「良い練習が出来ているのでね、ぜひ、見てもらいたい!」
コンスタントに出場機会を得ている理由をたずねると、内田は少し首をかしげた。
「なんでかなぁ……。まぁ、運動量は自分の中で意識しているんですよ。後半になっても、こっちの選手は頑張れる、無理が利くんですよ。だから、それには負けないように意識したいです。でも、なんで(最近の試合でコンスタントに出場できるの)かは、わからないです」
シーズン序盤でプレー時間をのばせなかった理由については、どうだろうか。
「怪我もあったけど、信頼も全然なかっただろうし。『こいつは試合に出して、大丈夫か』というのが(監督の心の中に)あったと思う。やっぱり、そこは練習を見て、『使ってみようかな』と思ってもらわないとダメですから。(大切なのは)練習じゃないですか? 真面目にやることじゃないですかね」
ドイツにやってきてから、内田が説き続けてきたのが、練習の重要性だった。ヨーロッパの中でも最もハードだと言われるマガト監督の課す練習を通じて、自分自身を鍛えたいと語っていた。
「試合に出るのももちろんなんだけど、練習がすごく良い。良い練習が出来ているのでね、ぜひ、見てもらいたいくらいです」
そんな内田のプレーに変化が見られたのは、スタメンに定着し始めた10月の半ばころからだろう。
過酷な練習で、当たり負けしない頑強な身体ができた。
「まだまだですし、もっと良くなると思いますけど、最初のころと比べたら、慣れて来たんじゃないですか。自分の特徴をわかってもらえるというか……。こういうプレーは出来るし、こういうプレーは出来ない、というのを(チームメイトに)頭に入れてもらって、わかり合うというかね」
チームに加わってから3カ月、少しずつチームメイトとも呼吸があって来た。ほどなくして、今度は、ディフェンダーとして求められる球際の競り合いについての変化も語るようになった。
「相手はデカイけど、タイミングさえあえば、(懐に)入れる。そこら辺のすばしっこさはオレの方があるので。それに、(相手に)ぶつかられても、それがボール持っているときでも、なかなか体勢が崩れなくなってきた」
11月13日の第12節、ヴォルフスブルクとの試合が終わった直後のことだった。ヴォルフスブルクの2トップには、昨季の得点王であるジェコと一昨季の得点王グラフィッチが並んでいる。屈強なフィジカルを持つ二人と互角に渡り合えたことで、手ごたえを口にした。
「ガチャガチャと(競り合いに)なったときに負けなくなったかな、ボールを奪い取れるようになったのかな」
この試合では、ゴールライン際でボールを持つグラフィッチの懐に飛び込み、体を当てながら内田がクリアした場面があったのだが、ドイツ全土に中継をするCS放送の「SKY」では、このシーンのリプレーをわざわざ流していた。この国で求められるプレーを見せられるようになってきた証だろう。
徐々に結果を出しつつある攻撃面での積極的なプレー。
そして、マガトがほれ込んだ攻撃参加でも、少しずつではあるが、成果を残すようになった。
『キッカー』誌でベストイレブンに選ばれた第11節のザンクト・パウリ戦でのこと。先制点を呼び込んだのが内田だった。
右サイドのスペースに出たボールに合わせて走り込み、ダイレクトで中央に折り返す。ニアサイドに走り込んだフンテラールが絶好のタイミングで走り込むものの、力んでしまって合わせることができず、ファーサイドにつめていたラウールが押し込んだ。フンテラールがわずかにボールに触れたために、内田のアシストは記録されなかったが、試合後に内田はこう振り返っている。
「フンテラールとのタイミングが合って、いいところに入って来てくれた」
先制点を演出したという意味でも、狙い通りにフンテラールの元にボールを送ることが出来たという意味でも、意義のあるプレーだった。
フンテラールやラウールにクロスを送り続ける内田。
さらに、翌週のヴォルフスブルク戦でも決定機を演出した。ファーサイドにクロスを送り、ラウールが頭で折り返し、ゴール前でフンテラールが合わせた場面だ。フンテラールのシュートが浮いてしまい、ゴールにはならなかったのだが、これもまた狙い通りだった。その前の試合では「人」に合わせたが、この試合では「エリア」を狙った。
「ファーに送ろう、という狙いでした。ニアサイドには(ディフェンダーが)いるだろうなと思って。(自分のところにボールが来るまでに)時間もかかっていたので、ファーに送ろうと。ああいうところにラウールがいてくれる。少しずつ合ってきたのかな」
確実に歩みを進めているものの、内田自身は満足する素振りは見せない。
「まだ試されているという感じもするので。毎試合そうですけど、誰が出ても一緒だから。(レギュラーが)固定されることはないですから」
毎日極度の緊張感に包まれる、マガト監督の練習風景。
ヴォルフスブルク戦の翌週、ミニゲームを主体としたハードな練習が1時間半あまりも続いたあとのことだ。一部のメンバーは、居残りでの練習を課された。
内田、ハオ、エスクデロの3人のサイドバックは、さらに30分近くにわたってサイドからクロスを送り続けた。別のグラウンドでは、左サイドバックを務めるシュミッツらが、ヘディングの練習を課されていた。
一足先に練習を終えたシュミッツは、クラブハウスへと続く階段の前で立ち止まり、内田たちの練習を眺めていた。
マガト監督のもとでは、いつスタメンを外されるかわからない。ある試合でスタメンだった選手が、次の試合ではベンチ入りメンバーから外れることさえある。右サイド、左サイドも関係ない。だからこそ、ポジションを同じくするライバルの動きに敏感になっているのだ。
しばらくして、練習を終えた内田が引きあげてくる。
「まぁ、いつもやってることですからね」
こともなげに内田は、居残り練習について振り返った、
緊張感うずまくハードな練習は、毎日のように続いていく。決して楽しい類のものではない。
「練習は大変ですけど、これくらいやらないとねぇ……まだ若いですから」
涼しげな表情でそう語る内田は、一体どんな成長を遂げていくのだろうか。
ナンバーのコラムである。
充実した練習を積むシャルケの篤人について書き連ねておる。
レギュラーを取れぬ時期は信頼が無かったと振り返る篤人の意見は重い。
練習し、信頼を得ることで、ポジションを得られるのだ。
フロントや監督が無理矢理レギュラーに据えてもチームの為にも本人の為にもならぬ。
欧州に於いても、日本に於いても同じ事と言えよう。
鹿島の若手も実力でポジションを得るのだ。
それだけの才能は持っておる。
練習で信頼を得、途中出場の短い時間帯で実績を積むのである。
それがプロの世界なのである。
未来のレギュラーが楽しみである。
内田篤人が語る「成長の証」。

ミムラユウスケ = 文
text by Yusuke Mimura
photograph by Getty Images
香川真司は開幕前から飛ぶ鳥を落とす勢いで走り続けている。負傷で開幕から2試合に欠場した長谷部誠は、ブンデスリーガで3年戦い続けてきた貫禄を見せている。
矢野貴章がリーグ開幕後にフライブルクに加入するという難しい立場からスタートすることになったことを例外として考えれば、内田篤人は日本人選手の中では出遅れたと言ってもよいだろう。
チーム加入直後のキャンプでは熱を出して、休養を余儀なくされた。開幕戦では途中交代を命じられ、9月の日本代表戦で左足の小指を負傷したために一時、戦列を離れた。シャルケとドルトムントによるレヴィアー・ダービーで香川がドルトムントのヒーローとなった試合は、ピッチではなく観客席から目にしていた。
しかし、ここに来て自身の得意とする攻撃参加を連想させるような勢いを、内田は見せている。11月13日のブンデスリーガ第12節時点で、公式戦8試合連続スタメンを飾り、そのうちの7試合ではフル出場を果たしている。
「良い練習が出来ているのでね、ぜひ、見てもらいたい!」
コンスタントに出場機会を得ている理由をたずねると、内田は少し首をかしげた。
「なんでかなぁ……。まぁ、運動量は自分の中で意識しているんですよ。後半になっても、こっちの選手は頑張れる、無理が利くんですよ。だから、それには負けないように意識したいです。でも、なんで(最近の試合でコンスタントに出場できるの)かは、わからないです」
シーズン序盤でプレー時間をのばせなかった理由については、どうだろうか。
「怪我もあったけど、信頼も全然なかっただろうし。『こいつは試合に出して、大丈夫か』というのが(監督の心の中に)あったと思う。やっぱり、そこは練習を見て、『使ってみようかな』と思ってもらわないとダメですから。(大切なのは)練習じゃないですか? 真面目にやることじゃないですかね」
ドイツにやってきてから、内田が説き続けてきたのが、練習の重要性だった。ヨーロッパの中でも最もハードだと言われるマガト監督の課す練習を通じて、自分自身を鍛えたいと語っていた。
「試合に出るのももちろんなんだけど、練習がすごく良い。良い練習が出来ているのでね、ぜひ、見てもらいたいくらいです」
そんな内田のプレーに変化が見られたのは、スタメンに定着し始めた10月の半ばころからだろう。
過酷な練習で、当たり負けしない頑強な身体ができた。
「まだまだですし、もっと良くなると思いますけど、最初のころと比べたら、慣れて来たんじゃないですか。自分の特徴をわかってもらえるというか……。こういうプレーは出来るし、こういうプレーは出来ない、というのを(チームメイトに)頭に入れてもらって、わかり合うというかね」
チームに加わってから3カ月、少しずつチームメイトとも呼吸があって来た。ほどなくして、今度は、ディフェンダーとして求められる球際の競り合いについての変化も語るようになった。
「相手はデカイけど、タイミングさえあえば、(懐に)入れる。そこら辺のすばしっこさはオレの方があるので。それに、(相手に)ぶつかられても、それがボール持っているときでも、なかなか体勢が崩れなくなってきた」
11月13日の第12節、ヴォルフスブルクとの試合が終わった直後のことだった。ヴォルフスブルクの2トップには、昨季の得点王であるジェコと一昨季の得点王グラフィッチが並んでいる。屈強なフィジカルを持つ二人と互角に渡り合えたことで、手ごたえを口にした。
「ガチャガチャと(競り合いに)なったときに負けなくなったかな、ボールを奪い取れるようになったのかな」
この試合では、ゴールライン際でボールを持つグラフィッチの懐に飛び込み、体を当てながら内田がクリアした場面があったのだが、ドイツ全土に中継をするCS放送の「SKY」では、このシーンのリプレーをわざわざ流していた。この国で求められるプレーを見せられるようになってきた証だろう。
徐々に結果を出しつつある攻撃面での積極的なプレー。
そして、マガトがほれ込んだ攻撃参加でも、少しずつではあるが、成果を残すようになった。
『キッカー』誌でベストイレブンに選ばれた第11節のザンクト・パウリ戦でのこと。先制点を呼び込んだのが内田だった。
右サイドのスペースに出たボールに合わせて走り込み、ダイレクトで中央に折り返す。ニアサイドに走り込んだフンテラールが絶好のタイミングで走り込むものの、力んでしまって合わせることができず、ファーサイドにつめていたラウールが押し込んだ。フンテラールがわずかにボールに触れたために、内田のアシストは記録されなかったが、試合後に内田はこう振り返っている。
「フンテラールとのタイミングが合って、いいところに入って来てくれた」
先制点を演出したという意味でも、狙い通りにフンテラールの元にボールを送ることが出来たという意味でも、意義のあるプレーだった。
フンテラールやラウールにクロスを送り続ける内田。
さらに、翌週のヴォルフスブルク戦でも決定機を演出した。ファーサイドにクロスを送り、ラウールが頭で折り返し、ゴール前でフンテラールが合わせた場面だ。フンテラールのシュートが浮いてしまい、ゴールにはならなかったのだが、これもまた狙い通りだった。その前の試合では「人」に合わせたが、この試合では「エリア」を狙った。
「ファーに送ろう、という狙いでした。ニアサイドには(ディフェンダーが)いるだろうなと思って。(自分のところにボールが来るまでに)時間もかかっていたので、ファーに送ろうと。ああいうところにラウールがいてくれる。少しずつ合ってきたのかな」
確実に歩みを進めているものの、内田自身は満足する素振りは見せない。
「まだ試されているという感じもするので。毎試合そうですけど、誰が出ても一緒だから。(レギュラーが)固定されることはないですから」
毎日極度の緊張感に包まれる、マガト監督の練習風景。
ヴォルフスブルク戦の翌週、ミニゲームを主体としたハードな練習が1時間半あまりも続いたあとのことだ。一部のメンバーは、居残りでの練習を課された。
内田、ハオ、エスクデロの3人のサイドバックは、さらに30分近くにわたってサイドからクロスを送り続けた。別のグラウンドでは、左サイドバックを務めるシュミッツらが、ヘディングの練習を課されていた。
一足先に練習を終えたシュミッツは、クラブハウスへと続く階段の前で立ち止まり、内田たちの練習を眺めていた。
マガト監督のもとでは、いつスタメンを外されるかわからない。ある試合でスタメンだった選手が、次の試合ではベンチ入りメンバーから外れることさえある。右サイド、左サイドも関係ない。だからこそ、ポジションを同じくするライバルの動きに敏感になっているのだ。
しばらくして、練習を終えた内田が引きあげてくる。
「まぁ、いつもやってることですからね」
こともなげに内田は、居残り練習について振り返った、
緊張感うずまくハードな練習は、毎日のように続いていく。決して楽しい類のものではない。
「練習は大変ですけど、これくらいやらないとねぇ……まだ若いですから」
涼しげな表情でそう語る内田は、一体どんな成長を遂げていくのだろうか。
ナンバーのコラムである。
充実した練習を積むシャルケの篤人について書き連ねておる。
レギュラーを取れぬ時期は信頼が無かったと振り返る篤人の意見は重い。
練習し、信頼を得ることで、ポジションを得られるのだ。
フロントや監督が無理矢理レギュラーに据えてもチームの為にも本人の為にもならぬ。
欧州に於いても、日本に於いても同じ事と言えよう。
鹿島の若手も実力でポジションを得るのだ。
それだけの才能は持っておる。
練習で信頼を得、途中出場の短い時間帯で実績を積むのである。
それがプロの世界なのである。
未来のレギュラーが楽しみである。