大宮戦レポート
【J1:第32節 大宮 vs 鹿島】レポート:大宮の先制から始まった、残り25分の手に汗握る攻防。鹿島が土壇場で勝負強さを見せ勝点1を分け合う。(11.11.20)
11月19日(土) 2011 J1リーグ戦 第32節
大宮 1 - 1 鹿島 (17:03/NACK/9,537人)
得点者:67' 李天秀(大宮)、90' 興梠慎三(鹿島)
大宮が1点を先制するまでは、退屈なゲームだった。既に優勝はもちろんACL圏内にも届かない鹿島と、14時キックオフの甲府が敗れたことで試合前に残留が確定した大宮。鹿島はゲームを支配するものの攻めあぐね、受けに回った大宮もカウンターに迫力は見せられなかった。そんな物足りない空気も漂い始めた67分、大宮の右サイドから渡邉大剛が上げたクロスに李 天秀が飛び込む。ここから、雨の中、スタジアムに駆け付けたオレンジとエンジのサポーターにとって、スリリングで幸福な時間が始まった。
大宮は開幕以来、チームの攻撃を司っていた上田康太ではなく、守備のスペシャリストである金澤 慎をボランチとして先発起用した。「柴崎と増田の両ボランチを自由にさせると厳しいのでそこにプレッシャーをかけたい」(鈴木淳監督)という意図だか、指揮官が認めるように、前半はそれがうまくハマらなかった。興梠慎三のスピードを警戒した最終ラインが低く、ボランチとの間へ野沢拓也や遠藤 康に侵入され、それを気にして金澤と青木拓矢のボランチが「本来マークすべき相手のボランチの近くに行けなかった」(青木)。鹿島は中田浩二が水曜日の天皇杯で負傷し、新井場徹がCBに入るスクランブル編成だったが、大宮はそこを突くところまで至らなかった。ラファエルと李 天秀の2トップが孤立し、攻撃はロングボール頼みとなって、前半のシュートはたったの3本に終わる。
ただそのぶん、大宮の守備意識は高かった。CBの近くからSBの裏へ斜めに走る興梠のランニングにしっかりついていってつぶし、野沢がバイタルエリアでボールを受けてもすぐに挟み込んで自由にさせなかった。左サイドで裏を取られて2度ピンチを招いた場面はあったが、北野貴之のセーブとバーに救われた。
後半、大宮は「勇気を持ってラインを上げるよう指示した」(鈴木監督)ことで、前半よりも高い位置でボールを奪い、攻撃にかける時間と人数が増えていった。李 天秀を鹿島DFがつかまえきれず、前線で起点となって攻撃に厚みが生まれた。それでもどちらかというと鹿島ペースだったが、互いに集中した守備で、20分過ぎまでは膠着状態に陥った。先制点となった場面も、鹿島の守備は決して乱れていなかった。渡邉のクロスはチェックに行った遠藤の右足に当たり、意図した軌道で入ってきたわけではない。そのボールの落下点を急造CBの新井場がわずかに見誤ったのは確かだが、新井場のマークを外し、西大伍との間を縫うように飛び込んだ李 天秀の得点感覚をほめるべきだろう。
そして試合が激しく動く。直後に鹿島はカウンターから遠藤→フェリペ ガブリエル→遠藤→野沢とつないで、右からの野沢のクロスを興梠がボレーでとらえる直前に、深谷友基がかろうじてゴールラインにかき出した。さらに鹿島は西に代えて小笠原満男を投入。小笠原がボランチに入り、柴崎 岳が右SBに回った。試合は撃ち合いの様相を呈し始め、大宮がもう一点を取りに行くことも十分に可能だった。渡邉のクロスに対してペナルティエリア内に4人が入り込むという、大宮には珍しい場面も見られた。
鹿島は焦りからかオフサイドにかかったり、意図がかみ合わないパスミスを連発した。遅れて投入した本山雅志のスルーパスから興梠が北野と1対1になった場面もあったが、ループシュートは北野が弾き落とした。チャンスは作るものの、連動してのものというより、出し手の「お前何とかしろ」的な無理めのパスを、受け手が能力の高さで何とかできたときにはチャンスになるが、無理がありすぎてどうにもならないときのほうが多いといった具合で、ビルドアップもままならない場面すら出てきていた。
ただ大宮にすれば、流れとしては悪くはなかったが、チャンスを作られているのは見過ごしておくわけにいかなかった。特に「右SBの柴崎から危ない形を作られていた」(鈴木監督)ことで、疲れの見える左MFの橋本早十を下げ、右SBに坪内秀介を入れ、右SBだった杉山 新を右MFに、右MFだった渡邉を左MFに回すことで手当てした。ところがその柴崎からペナルティエリア内に縦パスを入れられ、受けた野沢が本山へ。本山のシュートは北野が防いだが、こぼれ球を興梠が押し込み、鹿島が土壇場で試合を振り出しに戻した。
交代策が裏目に出たと結果論で断じるのはたやすいが、ダイレクトで野沢に入れた柴崎の縦パス、そしてそれをワントラップから、飛び出してきた本山にノールックのアウトサイドでアシストした野沢の技術をほめるべきだ。問題があるとすれば、撃ち合うよりも1点を守りきろうとする意識が強く、全体が引きすぎてしまったことであって、選手交代がなくても結局は同じような形でやられていただろう。
そしてアディショナルタイム。両ゴール裏を埋め尽くしたオレンジとエンジのサポーターの、「俺たちが勝たせる!」といわんばかりの熱気に煽られるように、短い時間に互いのゴール前での場面が頻出した。先制点が入るまでの停滞した空気は、まったく消え去っていた。決定的チャンスの数では上回った鹿島サポーターにとっても、そしてホーム2勝目が目の前で消えてしまった大宮サポーターにとっても、勝点1では満足できない気持ちはあっても、冷たい雨の中で声をからしただけの価値があるゲームだったに違いない。
以上
2011.11.20 Reported by 芥川和久

守備的なポジションにこそベテランがおったが、中盤より前は若手で挑んだ鹿島は経験が少々足りなかったのではなかろうか。
とはいえ、それは結果論であり、ヤスのミドルや西のスルーパスは効果的であった。
ここで勝負をつけきれなかったツケを払う羽目になっただけである。
しかしながら、全てを否定するような試合ではなかったと言えよう。
熟成を重ね、足りぬピースを来季ははめ込みたい。
楽しみにしておる。
11月19日(土) 2011 J1リーグ戦 第32節
大宮 1 - 1 鹿島 (17:03/NACK/9,537人)
得点者:67' 李天秀(大宮)、90' 興梠慎三(鹿島)
大宮が1点を先制するまでは、退屈なゲームだった。既に優勝はもちろんACL圏内にも届かない鹿島と、14時キックオフの甲府が敗れたことで試合前に残留が確定した大宮。鹿島はゲームを支配するものの攻めあぐね、受けに回った大宮もカウンターに迫力は見せられなかった。そんな物足りない空気も漂い始めた67分、大宮の右サイドから渡邉大剛が上げたクロスに李 天秀が飛び込む。ここから、雨の中、スタジアムに駆け付けたオレンジとエンジのサポーターにとって、スリリングで幸福な時間が始まった。
大宮は開幕以来、チームの攻撃を司っていた上田康太ではなく、守備のスペシャリストである金澤 慎をボランチとして先発起用した。「柴崎と増田の両ボランチを自由にさせると厳しいのでそこにプレッシャーをかけたい」(鈴木淳監督)という意図だか、指揮官が認めるように、前半はそれがうまくハマらなかった。興梠慎三のスピードを警戒した最終ラインが低く、ボランチとの間へ野沢拓也や遠藤 康に侵入され、それを気にして金澤と青木拓矢のボランチが「本来マークすべき相手のボランチの近くに行けなかった」(青木)。鹿島は中田浩二が水曜日の天皇杯で負傷し、新井場徹がCBに入るスクランブル編成だったが、大宮はそこを突くところまで至らなかった。ラファエルと李 天秀の2トップが孤立し、攻撃はロングボール頼みとなって、前半のシュートはたったの3本に終わる。
ただそのぶん、大宮の守備意識は高かった。CBの近くからSBの裏へ斜めに走る興梠のランニングにしっかりついていってつぶし、野沢がバイタルエリアでボールを受けてもすぐに挟み込んで自由にさせなかった。左サイドで裏を取られて2度ピンチを招いた場面はあったが、北野貴之のセーブとバーに救われた。
後半、大宮は「勇気を持ってラインを上げるよう指示した」(鈴木監督)ことで、前半よりも高い位置でボールを奪い、攻撃にかける時間と人数が増えていった。李 天秀を鹿島DFがつかまえきれず、前線で起点となって攻撃に厚みが生まれた。それでもどちらかというと鹿島ペースだったが、互いに集中した守備で、20分過ぎまでは膠着状態に陥った。先制点となった場面も、鹿島の守備は決して乱れていなかった。渡邉のクロスはチェックに行った遠藤の右足に当たり、意図した軌道で入ってきたわけではない。そのボールの落下点を急造CBの新井場がわずかに見誤ったのは確かだが、新井場のマークを外し、西大伍との間を縫うように飛び込んだ李 天秀の得点感覚をほめるべきだろう。
そして試合が激しく動く。直後に鹿島はカウンターから遠藤→フェリペ ガブリエル→遠藤→野沢とつないで、右からの野沢のクロスを興梠がボレーでとらえる直前に、深谷友基がかろうじてゴールラインにかき出した。さらに鹿島は西に代えて小笠原満男を投入。小笠原がボランチに入り、柴崎 岳が右SBに回った。試合は撃ち合いの様相を呈し始め、大宮がもう一点を取りに行くことも十分に可能だった。渡邉のクロスに対してペナルティエリア内に4人が入り込むという、大宮には珍しい場面も見られた。
鹿島は焦りからかオフサイドにかかったり、意図がかみ合わないパスミスを連発した。遅れて投入した本山雅志のスルーパスから興梠が北野と1対1になった場面もあったが、ループシュートは北野が弾き落とした。チャンスは作るものの、連動してのものというより、出し手の「お前何とかしろ」的な無理めのパスを、受け手が能力の高さで何とかできたときにはチャンスになるが、無理がありすぎてどうにもならないときのほうが多いといった具合で、ビルドアップもままならない場面すら出てきていた。
ただ大宮にすれば、流れとしては悪くはなかったが、チャンスを作られているのは見過ごしておくわけにいかなかった。特に「右SBの柴崎から危ない形を作られていた」(鈴木監督)ことで、疲れの見える左MFの橋本早十を下げ、右SBに坪内秀介を入れ、右SBだった杉山 新を右MFに、右MFだった渡邉を左MFに回すことで手当てした。ところがその柴崎からペナルティエリア内に縦パスを入れられ、受けた野沢が本山へ。本山のシュートは北野が防いだが、こぼれ球を興梠が押し込み、鹿島が土壇場で試合を振り出しに戻した。
交代策が裏目に出たと結果論で断じるのはたやすいが、ダイレクトで野沢に入れた柴崎の縦パス、そしてそれをワントラップから、飛び出してきた本山にノールックのアウトサイドでアシストした野沢の技術をほめるべきだ。問題があるとすれば、撃ち合うよりも1点を守りきろうとする意識が強く、全体が引きすぎてしまったことであって、選手交代がなくても結局は同じような形でやられていただろう。
そしてアディショナルタイム。両ゴール裏を埋め尽くしたオレンジとエンジのサポーターの、「俺たちが勝たせる!」といわんばかりの熱気に煽られるように、短い時間に互いのゴール前での場面が頻出した。先制点が入るまでの停滞した空気は、まったく消え去っていた。決定的チャンスの数では上回った鹿島サポーターにとっても、そしてホーム2勝目が目の前で消えてしまった大宮サポーターにとっても、勝点1では満足できない気持ちはあっても、冷たい雨の中で声をからしただけの価値があるゲームだったに違いない。
以上
2011.11.20 Reported by 芥川和久

守備的なポジションにこそベテランがおったが、中盤より前は若手で挑んだ鹿島は経験が少々足りなかったのではなかろうか。
とはいえ、それは結果論であり、ヤスのミドルや西のスルーパスは効果的であった。
ここで勝負をつけきれなかったツケを払う羽目になっただけである。
しかしながら、全てを否定するような試合ではなかったと言えよう。
熟成を重ね、足りぬピースを来季ははめ込みたい。
楽しみにしておる。