新監督の明暗
【Jリーグ】鹿島・ジョルジーニョ監督
「短期的にすべてがうまくいくことはない」
小室功●文 text by Komuro Isao
photo by AFLO

2012年シーズン序盤戦。新監督の明暗(1)
ジョルジーニョが監督として鹿島に戻ってくる――。このビッグニュースに鹿島のサポーターは心躍らせ、Jリーグにかかわるすべての人たちも大きな関心を寄せていたに違いない。
鹿島に在籍した1995年からの4年間で、Jリーグ初制覇をはじめ、4つのタイトル獲得に貢献したジョルジーニョ。監督就任の際には、「皆さんから熱烈な歓迎を受け、とても感激している。ここで過ごした選手時代以上の成果をあげ、1年でも長く指揮を執りたい。鹿島は常に優勝を争うチーム。2位や3位で満足せず、Jリーグの主役でいることが重要だ」と、力強く所信表明した。
現在47歳。まだまだ体が動くとあって、選手とともに汗をかき、ボールを蹴る。ピッチ内外で選手たちとも積極的に意見交換する姿が見られ、いい雰囲気の中でチーム作りは進められていった。
そんなジョルジーニョ監督が目指すサッカーの肝とは何か。
「ボールをポゼッションし、攻撃的に戦いたいと思うが、攻撃的であればいいわけじゃない。試合の流れをしっかりと読んで、守るべきときは守る。攻守両面でバランスがとれていることが大切だ。伝統の4−4−2がベースになるが、対戦相手や状況によって4−3−3も考えられるだろう。今いる選手の特徴を最大限に生かしながら、もっともいいバランスを見つけたい」
チームに新たな刺激を与えるべく、中盤を従来のボックス型からダイヤモンド型に変更するなど、ワンランクアップするための試行錯誤も繰り返された。その結果、開幕までの準備期間で、新生・鹿島の輪郭が少しずつ見え始め、細部の課題を残しつつも、周囲の期待は高まるばかりだった。
ところが、ふたを開けてみれば、開幕3連敗とクラブ史上最悪のスタート。受け入れ難い現実に指揮官の表情も険しい。チャンスがないわけではないが、決め手を欠き、よもやの3試合ノーゴール。勝利を手繰り寄せられない最大の原因はそこにある。
それでも、指揮官の信念は揺るがない。標榜するサッカーに対するブレもない。
「今はまだいろいろなことにトライしている段階。改善すべき点はたくさんあるけれど、鹿島には質の高い選手がそろっている。チームみんなで力を合わせていけば、間違いなくよくなる」
これは単なる強がりからくる言葉ではない。裏づけとなるのは、ナビスコカップ初戦のパフォーマンスだ。Jリーグ第2節を終えた3日後、地元カシマスタジアムに神戸を迎えた一戦。前半20分に大迫勇也が先制点を決めると、前半ロスタイムには遠藤康が続いてゴール。守備では新人の山村和也が公式戦初スタメン、フル出場を果たすなど、次代を担う人材が躍動した。
「落ち着いてボールを運び、相手ゴールにたどり着いて、しっかり得点するという、私が見たいサッカーをやってくれた。ボランチの小笠原(満男)と増田(誓志)のポジショニングがよく、(攻撃的MFの)遠藤にしろ、柴崎(岳)にしろ、絞るところでは絞り、離れるところでは離れるなど、中盤のオーガニゼーションが素晴らしかった」
そう満足気に試合を振り返った指揮官は、続けてこうも語った。
「選手たちがスパイクのつま先までハートを込めてプレイしていたことが、大きな、大きな、収穫だ」
主将の小笠原がジョルジーニョ監督の思いをさらに代弁する。
「システムがどうとか、戦術がどうとか、いろいろ言うけれど、今日のような気持ちだったら、どんなやり方でもうまくいくし、逆に今日のような気持ちがなければ、何をやってもうまくいかない。大事なのはそこだから。あとは続けていくこと。ひとつ勝ったくらいじゃ満足できない。ここで安心しているようでもいけない」
結局、ナビスコカップの勢いは継続できずに、リーグ戦での初勝利はお預けのままだが、現役時代から世界のハイクラスでしのぎを削り、数多くの修羅場を潜り抜けてきたジョルジーニョ監督。それだけに、逆境に立たされれば立たされるほど冷静さを増す。
「監督やスタッフが代わり、選手の入れ替えもあった。短期的にすべてがうまくいくことはない」と試合後の会見では堂々と構え、慌てたそぶりを見せない。指揮官が右往左往してしまうのが、チームにとって何よりマイナスであることを知り尽くしているからだ。
その指揮官のもと、チームの一体感は失われていない。確かに出足は躓(つまず)いたが、ここからいかに巻き返していくのか。ジョルジーニョ監督の手腕の見せどころである。
小室氏による記事である。
ここまでのジョルジーニョ監督と小笠原主将のコメントを元に書き起こしておる。
ここで、外からチームを観ておるだけの者は、リーグ戦三連敗・最下位という状況に心が騒ぐのも理解出来る。
しかも、無得点とあっては戦術に問題があるのではと言いたくなるのも当然であろう。
しかしながら、ジョルジーニョ監督を含めたクラブはブレておらぬ。
ここでアタフタし、一時的な結果を求めるようなことはせぬのだ。
長期的な視野で、チームを作り、育て行こうではないか。
ジョルジーニョ監督の手腕を楽しみにしたい。
「短期的にすべてがうまくいくことはない」
小室功●文 text by Komuro Isao
photo by AFLO

2012年シーズン序盤戦。新監督の明暗(1)
ジョルジーニョが監督として鹿島に戻ってくる――。このビッグニュースに鹿島のサポーターは心躍らせ、Jリーグにかかわるすべての人たちも大きな関心を寄せていたに違いない。
鹿島に在籍した1995年からの4年間で、Jリーグ初制覇をはじめ、4つのタイトル獲得に貢献したジョルジーニョ。監督就任の際には、「皆さんから熱烈な歓迎を受け、とても感激している。ここで過ごした選手時代以上の成果をあげ、1年でも長く指揮を執りたい。鹿島は常に優勝を争うチーム。2位や3位で満足せず、Jリーグの主役でいることが重要だ」と、力強く所信表明した。
現在47歳。まだまだ体が動くとあって、選手とともに汗をかき、ボールを蹴る。ピッチ内外で選手たちとも積極的に意見交換する姿が見られ、いい雰囲気の中でチーム作りは進められていった。
そんなジョルジーニョ監督が目指すサッカーの肝とは何か。
「ボールをポゼッションし、攻撃的に戦いたいと思うが、攻撃的であればいいわけじゃない。試合の流れをしっかりと読んで、守るべきときは守る。攻守両面でバランスがとれていることが大切だ。伝統の4−4−2がベースになるが、対戦相手や状況によって4−3−3も考えられるだろう。今いる選手の特徴を最大限に生かしながら、もっともいいバランスを見つけたい」
チームに新たな刺激を与えるべく、中盤を従来のボックス型からダイヤモンド型に変更するなど、ワンランクアップするための試行錯誤も繰り返された。その結果、開幕までの準備期間で、新生・鹿島の輪郭が少しずつ見え始め、細部の課題を残しつつも、周囲の期待は高まるばかりだった。
ところが、ふたを開けてみれば、開幕3連敗とクラブ史上最悪のスタート。受け入れ難い現実に指揮官の表情も険しい。チャンスがないわけではないが、決め手を欠き、よもやの3試合ノーゴール。勝利を手繰り寄せられない最大の原因はそこにある。
それでも、指揮官の信念は揺るがない。標榜するサッカーに対するブレもない。
「今はまだいろいろなことにトライしている段階。改善すべき点はたくさんあるけれど、鹿島には質の高い選手がそろっている。チームみんなで力を合わせていけば、間違いなくよくなる」
これは単なる強がりからくる言葉ではない。裏づけとなるのは、ナビスコカップ初戦のパフォーマンスだ。Jリーグ第2節を終えた3日後、地元カシマスタジアムに神戸を迎えた一戦。前半20分に大迫勇也が先制点を決めると、前半ロスタイムには遠藤康が続いてゴール。守備では新人の山村和也が公式戦初スタメン、フル出場を果たすなど、次代を担う人材が躍動した。
「落ち着いてボールを運び、相手ゴールにたどり着いて、しっかり得点するという、私が見たいサッカーをやってくれた。ボランチの小笠原(満男)と増田(誓志)のポジショニングがよく、(攻撃的MFの)遠藤にしろ、柴崎(岳)にしろ、絞るところでは絞り、離れるところでは離れるなど、中盤のオーガニゼーションが素晴らしかった」
そう満足気に試合を振り返った指揮官は、続けてこうも語った。
「選手たちがスパイクのつま先までハートを込めてプレイしていたことが、大きな、大きな、収穫だ」
主将の小笠原がジョルジーニョ監督の思いをさらに代弁する。
「システムがどうとか、戦術がどうとか、いろいろ言うけれど、今日のような気持ちだったら、どんなやり方でもうまくいくし、逆に今日のような気持ちがなければ、何をやってもうまくいかない。大事なのはそこだから。あとは続けていくこと。ひとつ勝ったくらいじゃ満足できない。ここで安心しているようでもいけない」
結局、ナビスコカップの勢いは継続できずに、リーグ戦での初勝利はお預けのままだが、現役時代から世界のハイクラスでしのぎを削り、数多くの修羅場を潜り抜けてきたジョルジーニョ監督。それだけに、逆境に立たされれば立たされるほど冷静さを増す。
「監督やスタッフが代わり、選手の入れ替えもあった。短期的にすべてがうまくいくことはない」と試合後の会見では堂々と構え、慌てたそぶりを見せない。指揮官が右往左往してしまうのが、チームにとって何よりマイナスであることを知り尽くしているからだ。
その指揮官のもと、チームの一体感は失われていない。確かに出足は躓(つまず)いたが、ここからいかに巻き返していくのか。ジョルジーニョ監督の手腕の見せどころである。
小室氏による記事である。
ここまでのジョルジーニョ監督と小笠原主将のコメントを元に書き起こしておる。
ここで、外からチームを観ておるだけの者は、リーグ戦三連敗・最下位という状況に心が騒ぐのも理解出来る。
しかも、無得点とあっては戦術に問題があるのではと言いたくなるのも当然であろう。
しかしながら、ジョルジーニョ監督を含めたクラブはブレておらぬ。
ここでアタフタし、一時的な結果を求めるようなことはせぬのだ。
長期的な視野で、チームを作り、育て行こうではないか。
ジョルジーニョ監督の手腕を楽しみにしたい。