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伝統を取り戻すには

失われつつある鹿島の伝統的な日常
なぜ名門クラブは低迷したのか

2012年11月27日(火)

■味わったことがないプレッシャー


J1残留を決め喜ぶ鹿島の選手たち。終盤まで降格の危機にさらされた初めてのシーズンとなってしまった【Getty Images】

 左コーナーに立った名古屋グランパスの田口泰士が、鋭いボールをニアサイドに蹴り込んだ。そこに走り込む田中マルクス闘莉王。2つのベクトルがピタリと合致する、そう思われた瞬間、背後から忍び寄った鹿島アントラーズの岩政大樹が闘莉王を押しのけるように跳び上がり、渾身のヘディングではじき返した。

 名古屋の最後のチャンスがついえたことを見届けた廣瀬格主審が、ホイッスルを吹き鳴らす。それを聞いた岩政がほえながらガッツポーズを繰り返し、新井場徹と曽ヶ端準はガッチリと肩を抱き合った。他会場の結果を知っていた昌子源が「残留決定」を知らせてまわると、アドレナリンが出続けていた選手にも柔和な表情が戻り、ベンチだけでなくピッチにも安堵(あんど)感が広まっていった。

「味わったことがないプレッシャーだった」

 試合後に大迫勇也が振り返ったように、つねに優勝争いに絡んできたこのクラブにとって、2012年のリーグ戦は初めてJ1残留を意識するシーズンとなってしまった。99年にもゼ・マリオ監督を途中解任する危機を味わっているが、このときはジーコを総監督に迎えたことで潮目が変わり、最後まで残留争いに巻き込まれることはなかった。ここまで苦しい思いをしたのは今回が初めてのケースと言えるだろう。それだけに「喜びよりもほっとした気持ちの方が強い」という岩政を筆頭に、前日までの重苦しい表情とは打って変わり、つき物が落ちたようなすっきりした笑顔を見せる選手たちが多かった。

■最後まで続いた低空飛行

 今季、ここまで鹿島が苦戦することを予想した人は少ないだろう。野沢拓也、田代有三という3連覇を知る中心選手が移籍してしまったが、第一次黄金期の中心選手だったレジェンドであるジョルジーニョが監督として戻ってきてくれたことは、それを忘れさせるほどの期待感をもたらした。

 しかし、開幕5試合未勝利から始まり、1度も一けた順位を経験することがない低空飛行。第33節を終えた時点での最高順位は10位と、つねに黒星が先行し、最後まで安定した戦いをすることができずにここまで来てしまった。昨季も優勝争いに加わることができない寂しいシーズンを送ったが、今季はさらにそれを下回る結果だったのである。

 なぜ、今季の鹿島はリーグ戦で低迷したのか。その原因としてはさまざまな要素が絡み合う。まず、ジョルジーニョ監督自身が「僕の新しいやり方が浸透するのと、選手の特徴を把握するまでに時間がかかってしまった」と繰り返してきたように、新布陣が機能しなかった側面はあるだろう。長らくボックス型の4−4−2に慣れ親しんだ鹿島に、トップ下が存在するダイヤモンド型の新布陣を持ち込んだが、それに適した選手を保有しておらず、長所よりも短所を突かれる試合の方が多くなってしまった。さらには、不運な判定に泣かされる試合が多かったことも要因として挙げられるだろう。

■継続できない気持ちを押し出すサッカー

 とはいえ、こうしたことで勢いを削がれた部分はあったかもしれないが、シーズンを通した低迷の主原因に結びつけてしまっては、名門クラブとしてはあまりにも情けない。実際、リーグ戦とは異なり、ヤマザキナビスコカップでは連覇を達成している。一発勝負のカップ戦では強さを発揮できたのだ。

 逆に言えば、それくらいプレッシャーがかかる試合でなければ、最高のパフォーマンスを出せないところに、今季の問題点が集約される。それは、名古屋戦後の選手から出てくるコメントでも明らかだった。

「しっかりやれば勝てるのは分かっていた」(本山雅志)

「プレッシャーがかかる試合の方が、結構うまくいくというのが、今年のチームの傾向だった」(岩政)

「自分たちはプロだから気持ちを毎試合入れなきゃいけないんだけど、今日の試合は全員で勝つという気持ちの入った良い試合だった」(本田拓也)

「今日勝てばほぼ決まるだろうと思っていましたし、全員がその気持ちを試合に出せて、結果につながったというのは良かったんじゃないかなって思います」(柴崎岳)

 気持ちを前面に押し出すサッカーをできたときは強い。が、それをどの試合でも継続できなかったところに、リーグ戦低迷の原因が隠されていた。

■「鹿島の良いところが伝わっていかない」


黄金期を支えたジョルジーニョは低迷する鹿島を立て直すことができるのか【写真:アフロスポーツ】

 かつて、鹿島の紅白戦は火の出るような激しさを持っていた。主力組には本田泰人、秋田豊、相馬直樹といった日本代表が、ズラリと顔をそろえていながらも、サブ組に入った小笠原満男、本山、中田浩二らが、おくすることなく必死の形相で食らいついていく。

「試合に出るためには、この選手たちを越えていかなければならなかった」と小笠原が振り返るように、紅白戦のメンバーに入るために1本のダッシュから手を抜かずに取り組み、紅白戦に出られるようになれば主力組に勝利するため全力でぶつかる。小笠原にしてみれば、その延長線上に、ベンチ入り、先発入りが待っていることを考えれば当然のこと。それが鹿島の伝統であり、日常の光景だった。

 その空気感はどのクラブにも存在するわけではない。鹿島OBが他クラブで監督をすると、まず乗り越えなければならないのがこの部分と聞く。1本のダッシュにどういう意味があるのか、そこに全力を傾けなければならない理由を、説明するところから始めなくてはならなかった。

 ところが、それがいまの鹿島でも薄れつつある。そのことが露呈したのは10月10日の天皇杯3回戦だった。この日の鹿島は主力組を温存して、中2日という強行日程となったガイナーレ鳥取を迎え撃ったが、出場した若手に足をつる選手が続出。延長戦の末になんとか勝利したものの、主力を温存するどころか、逆に負担をかける結果となってしまった。

 強化担当の吉岡宗重は天皇杯の鳥取戦後、若手選手を厳しく叱咤したという。

「確かに、試合勘の問題はあったと思います。でも、(小笠原)満男やモト(本山)が1本のダッシュにも手を抜かずに取り組んでいるのと同じように若手がやっているかと言えば、僕の目にはそう見えなかった。『吉岡、うるせえな』、と思われてもいい。このままだと鹿島の良いところが伝わっていかない」

■異端となった柴崎の取り組み方

 若手選手の試合経験の少なさは、Jリーグ全体に大きな問題として横たわる。だが、鹿島がほかの追随を許さないタイトル数を有してきたということは、ほかのクラブにはない良さがあったからだ。

 鹿島は伝統的に、高卒の選手を鍛え上げ戦力を充実させてきた。年長の選手がどういう日常を過ごしているかを見ることで、若い選手たちは意識を高く磨き上げ、チーム内で激しく競争することがチーム力を支えてきたのである。

 とはいえ、その競争力を自然発生的に生むためには、質の高い選手がある程度そろうことが必要だ。いまいるレギュラーを追い越すことに本気で取り組むためには、それだけの自信と気迫を兼ね備えていないと難しい。

「チーム数が増えて質の高い選手が分散するようになった。そろえようと思っても難しい」

 強化責任者である鈴木満常務取締役も時代が変わったことを認めていた。79年組が日本を代表する選手たちに育ったときのように、そうした意識も技術も高い選手を多数そろえることは困難を極めている。

 それでも鹿島のスカウトは、大迫、柴崎、山村和也と、このオフには植田直通(大津高校)と、その年代を代表する選手を獲得し続けてきた。だが、それより前に獲得した内田篤人(現シャルケ04)はすでにチームを離れており、柴崎らも同じ道をたどることが予想される。良い選手であればあるほど鹿島を離れる可能性が高く、なかなか選手はそろっていかない。それでも、同年代の選手が柴崎に追随していけば話は別なのだが、「岳は特別」と別格扱いする空気が流れてしまっている。かつては柴崎のような取り組み方が普通だったはずが、いまでは異端となってしまったのだ。

■大きな岐路を迎えている名門

 自然発生的な競争に期待するのが難しいのであれば、外部からの刺激に頼るしかない。しかし、J1残留を決めたことで来季も続投することが濃厚となったジョルジーニョは、選手との距離感が非常に近く、日々の練習に全力を尽くすのはプロであれば当然のことと考えている。06年、監督に就任したパウロ・アウトゥオリが厳格な指導と、ドラスティックな選手起用でチームの雰囲気を一新させたが、同じような手法を2年目のジョルジーニョがとるとは考えづらい。それは彼の手腕の問題というよりも、監督の期待に若手選手が応え切れていない状態と言える。

 昨オフの動きを振り返ってみると、一昨年が4位、昨年が6位と順位が下降してきたなかで、主力を放出した代わりに獲得した即戦力がジュニーニョのみとあっては、強化部の見込みが甘かったことは事実だ。しかし、より長期的な視野に立つと、いままでのように質の高い選手をそろえ、鍛え上げ、強さを発揮するというやり方が通用しなくなってきたという、大きな問題が透けて見えてくる。

 ナビスコカップを連覇したことで、「さすが鹿島」や「勝負強い」という決まり文句が並んだが、それをカップ戦という“非日常”でしか発揮できなかったことは、百戦錬磨のベテラン選手たちにも限界が近づいていることを示す。今季は天皇杯も獲得するチャンスが残されているが、それも非日常であることに変わりはない。

 チーム内の質を保つには、西大伍、本田拓らを獲得した2011年のような大型補強を行うか、はたまた99年のように中堅選手を大量放出して次世代を担う若手に自覚と奮起を促すなど、いくつかの方法が考えられるが、いずれにしてもなにがしかの打開策が必要な状況であることは確かだ。

 再びリーグ王座を奪還できるチームとなるか、それともこのまま低迷期を迎えてしまうのか。Jリーグ20年の歴史で輝かしい実績を残してきた名門クラブが、大きな岐路に立たされている。

<了>


田中氏のコラムである。
鹿島初となったJ1残留争いについて述べておる。
かつてあった伝統が失われつつあり、ゆるい空気が漂っておる様子。
これには危機感を覚える。
しかしながら、かつてイタリアから戻った小笠原満男も、当時の様子を同じように語っており、定期的に訪れるものなのではなかろうか。
今回も小笠原主将が締め、また、若き岳が後押しし、そしてチャンスを得つつある若い選手が理解していくことで、強い鹿島は戻ってこよう。
それが歴史を積み重ねた名門の伝統である。
ジョルジーニョ監督のみに背負わせず、チーム全体で、クラブ全体で歴史を作って欲しい。

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鹿島愛。
狂おしいほどの愛。
深い愛。
我が鹿島アントラーズが正義の名のもとに勝利を重ねますように。

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