秋春制への移行に関して
進む秋春制へのシーズン移行。雪国クラブの負担を無視していいのか?
現行の春秋制から秋春制への議論が進んでいる。しかし、積雪の多いクラブにとっては負担が増えてしまうばかりだ。現状の問題点を整理するため、記者が札幌へ飛び、実情をレポートする。
2013年03月24日
text by 鈴木康浩 photo Yasuhiro Suzuki
「秋春制はJクラブを辞めてくれと言っているようなもの」
3月10日にコンサドーレ札幌のホーム開幕戦を取材したが、当日は暴風雪という悪天候だった。普段、地方クラブの取材をするときはレンタカーで回るのだが、タクシーの運転手に「絶対にやめたほうがいい。私たちも慎重になるんだから」と言われてひるんだ。
氷点下2℃。肌を突き刺すような極寒の中、背丈よりも高い雪の山を這い抜けるようにして地下鉄に乗りこんだ。札幌市内は地下鉄網が発達しているため、雪が降っても地下にもぐればほぼ問題はない。

3月10日、ホーム開幕戦の札幌ドーム【写真:鈴木康浩】
札幌ドームへも、宮の沢の「白い恋人パーク」専用練習場へも地下鉄一本でいけるからアクセスはよい。ただし、市外在住者は降雪があるとひとたまりもない。雪かきをしなければ生活に支障が出る。まず雪かきをしてから出勤する。それが積雪地の常識だ。
空路やJRが大幅に遅延したこの日、アウェーの栃木サポーターもやっとの思いで札幌ドームに駆けつけた。JRが運休・遅延していることに伴い、帰りの便に乗り遅れるのを避けるために泣く泣くハーフタイムで帰路につくサポーターも少なからずいた。
「ご覧のとおりですよ」
秋春制をテーマに話を聞くと、コンサドーレ札幌のサポーターたちは言葉に力をこめた。いずれのサポーターからも辛辣な言葉が飛んだ。
「北海道には“しばれる”という方言があるんですが、北海道の冬は、寒くて、暗くて、凍りついてひどい。その冬をじっと耐えて、私たちは今日という開幕を心待ちにしている。日本サッカー協会の人たちは、そういう私たちの気持ちを理解できるのでしょうか」
「秋春制はJクラブを辞めてくれと言っているようなもの。協会の人たちにはひと冬でいいから北海道に住んでほしい。そうすれば実感としてわかるはずだから」
「たかがJリーグの1チームと思われているのかもしれないが、私たちにとってはオンリーワンなんです。関係者に会ったら怒鳴りつけてやりたい気分です」
はっきり見えないウィンターブレイク期間
秋春制=冬にサッカーをやる。積雪地では絶対に無理。長年の議論に辟易しているのか、もはや、そんな条件反射的な抵抗を感じた。
日本サッカー協会が提案している秋春制への移行は、逆に欧州が春秋制への移行を検討する動きが出てきたため、先日、Jリーグの戦略会議が今年5月の結論提示を先延ばししたばかり。このテーマは、これまでの長年の議論が白紙撤回される可能性があるほど大きな転換点を迎えている。
ただし、白紙撤回されたわけではない。現状の有力案について積雪地のクラブの立場になって考えてみたい。

3月9日、札幌市内の情景【写真:鈴木康浩】
秋春制移行の有力案は、そもそもチーム数や試合数の削減なくして成り立たない話なのだが、問題点の1つは、ウィンターブレイク期間がはっきりと見えないということ。現地のサポーターや関係者らの話を踏まえれば明白で、「冬季の試合開催は実質不可能」。
札幌も、山形も、新潟も、初雪の観測は例年11月下旬から。一度で50センチから1メートルは積もるわけだ。それから2月下旬までたっぷりと雪が降り続くため、「12月から2月まで3カ月間のブレイクは必要」。
ちなみに札幌ドームの天然芝は屋外で養生するため、ひとたび積雪があれば使用不可になる。今季のホーム開幕戦の直前にも、例年同様、クラブスタッフとサポーターが総出で除雪作業を行った。そうして試合当日は暴風雪という荒天に見舞われたわけだ。
シーズン移行には資金援助は不可欠だ
ウィンターブレイクはオフではないのだから、その間チームはトレーニングをする必要がある。もし12月上旬からキャンプに出たならばその費用はどう捻出するのか。また、チームが長期間のキャンプに出ている間、クラブは選手たちを起用した集客プロモーションを打てない。ホームタウン活動も皆無になる。
ならばと、チームがホームタウンに残ってトレーニングしようにも、降雪に関係なく、紅白戦形式のトレーニングができるほどの屋内練習施設は現状ない。それらのハードの整備費用はどれほどになるのか。いずれにしても、協会やJリーグの資金援助は不可欠だ。
そもそも春秋制の今でさえ、積雪地のクラブのサポーターはハンデを負っている。毎年1月中旬に新加入選手のお披露目がなされたあと、チームはキャンプに出てしまい、開幕直前にホームに帰ってくる、という流れ。
プレシーズンに練習を覗いたり、トレーニングマッチを眺めたり、プレシーズンマッチから今季の行方を占ったりしながら開幕戦を心待ちにする。そんな他の地域のサポーターが当たり前のように享受している楽しみを享受できていない。
秋春制への移行はそれらを改善するどころか悪化させる可能性が高い。たとえ協会側に、FIFAやAFCとの兼ね合いがあって秋春制への移行は不可避との事情があるにせよ、積雪地のクラブやチームやサポーターにさらなる負担を課し、いびつで不公平なJリーグに成り下がることはあってはならない。このテーマについては引き続き追いかけていきたい。
【了】
春秋制から秋春制への移行に関するフットボールチャンネルの記事である。
積雪地方の問題を現場の声を交えて伝えておる。
ちょっと取材しただけで不可能という声だけが聞こえてくるこのシーズン移行に、耳を貸さぬ協会は何を考えておるのであろうか。
よほどの袖の下を渡されたとしか思えぬ。
それともハニートラップにでも引っかかっておるのであろうか。
それはさておき、問題は簡単に列挙されるが、メリットに関しては全く漏れ聞こえぬ。
単に、一度試しに変えてみれば良いというような、簡単な問題ではないので、ここはきちんと現場の声を吸い上げて欲しい。
結果ありき、移行ありきでの議論はまっぴらゴメンである。
現行の春秋制から秋春制への議論が進んでいる。しかし、積雪の多いクラブにとっては負担が増えてしまうばかりだ。現状の問題点を整理するため、記者が札幌へ飛び、実情をレポートする。
2013年03月24日
text by 鈴木康浩 photo Yasuhiro Suzuki
「秋春制はJクラブを辞めてくれと言っているようなもの」
3月10日にコンサドーレ札幌のホーム開幕戦を取材したが、当日は暴風雪という悪天候だった。普段、地方クラブの取材をするときはレンタカーで回るのだが、タクシーの運転手に「絶対にやめたほうがいい。私たちも慎重になるんだから」と言われてひるんだ。
氷点下2℃。肌を突き刺すような極寒の中、背丈よりも高い雪の山を這い抜けるようにして地下鉄に乗りこんだ。札幌市内は地下鉄網が発達しているため、雪が降っても地下にもぐればほぼ問題はない。

3月10日、ホーム開幕戦の札幌ドーム【写真:鈴木康浩】
札幌ドームへも、宮の沢の「白い恋人パーク」専用練習場へも地下鉄一本でいけるからアクセスはよい。ただし、市外在住者は降雪があるとひとたまりもない。雪かきをしなければ生活に支障が出る。まず雪かきをしてから出勤する。それが積雪地の常識だ。
空路やJRが大幅に遅延したこの日、アウェーの栃木サポーターもやっとの思いで札幌ドームに駆けつけた。JRが運休・遅延していることに伴い、帰りの便に乗り遅れるのを避けるために泣く泣くハーフタイムで帰路につくサポーターも少なからずいた。
「ご覧のとおりですよ」
秋春制をテーマに話を聞くと、コンサドーレ札幌のサポーターたちは言葉に力をこめた。いずれのサポーターからも辛辣な言葉が飛んだ。
「北海道には“しばれる”という方言があるんですが、北海道の冬は、寒くて、暗くて、凍りついてひどい。その冬をじっと耐えて、私たちは今日という開幕を心待ちにしている。日本サッカー協会の人たちは、そういう私たちの気持ちを理解できるのでしょうか」
「秋春制はJクラブを辞めてくれと言っているようなもの。協会の人たちにはひと冬でいいから北海道に住んでほしい。そうすれば実感としてわかるはずだから」
「たかがJリーグの1チームと思われているのかもしれないが、私たちにとってはオンリーワンなんです。関係者に会ったら怒鳴りつけてやりたい気分です」
はっきり見えないウィンターブレイク期間
秋春制=冬にサッカーをやる。積雪地では絶対に無理。長年の議論に辟易しているのか、もはや、そんな条件反射的な抵抗を感じた。
日本サッカー協会が提案している秋春制への移行は、逆に欧州が春秋制への移行を検討する動きが出てきたため、先日、Jリーグの戦略会議が今年5月の結論提示を先延ばししたばかり。このテーマは、これまでの長年の議論が白紙撤回される可能性があるほど大きな転換点を迎えている。
ただし、白紙撤回されたわけではない。現状の有力案について積雪地のクラブの立場になって考えてみたい。

3月9日、札幌市内の情景【写真:鈴木康浩】
秋春制移行の有力案は、そもそもチーム数や試合数の削減なくして成り立たない話なのだが、問題点の1つは、ウィンターブレイク期間がはっきりと見えないということ。現地のサポーターや関係者らの話を踏まえれば明白で、「冬季の試合開催は実質不可能」。
札幌も、山形も、新潟も、初雪の観測は例年11月下旬から。一度で50センチから1メートルは積もるわけだ。それから2月下旬までたっぷりと雪が降り続くため、「12月から2月まで3カ月間のブレイクは必要」。
ちなみに札幌ドームの天然芝は屋外で養生するため、ひとたび積雪があれば使用不可になる。今季のホーム開幕戦の直前にも、例年同様、クラブスタッフとサポーターが総出で除雪作業を行った。そうして試合当日は暴風雪という荒天に見舞われたわけだ。
シーズン移行には資金援助は不可欠だ
ウィンターブレイクはオフではないのだから、その間チームはトレーニングをする必要がある。もし12月上旬からキャンプに出たならばその費用はどう捻出するのか。また、チームが長期間のキャンプに出ている間、クラブは選手たちを起用した集客プロモーションを打てない。ホームタウン活動も皆無になる。
ならばと、チームがホームタウンに残ってトレーニングしようにも、降雪に関係なく、紅白戦形式のトレーニングができるほどの屋内練習施設は現状ない。それらのハードの整備費用はどれほどになるのか。いずれにしても、協会やJリーグの資金援助は不可欠だ。
そもそも春秋制の今でさえ、積雪地のクラブのサポーターはハンデを負っている。毎年1月中旬に新加入選手のお披露目がなされたあと、チームはキャンプに出てしまい、開幕直前にホームに帰ってくる、という流れ。
プレシーズンに練習を覗いたり、トレーニングマッチを眺めたり、プレシーズンマッチから今季の行方を占ったりしながら開幕戦を心待ちにする。そんな他の地域のサポーターが当たり前のように享受している楽しみを享受できていない。
秋春制への移行はそれらを改善するどころか悪化させる可能性が高い。たとえ協会側に、FIFAやAFCとの兼ね合いがあって秋春制への移行は不可避との事情があるにせよ、積雪地のクラブやチームやサポーターにさらなる負担を課し、いびつで不公平なJリーグに成り下がることはあってはならない。このテーマについては引き続き追いかけていきたい。
【了】
春秋制から秋春制への移行に関するフットボールチャンネルの記事である。
積雪地方の問題を現場の声を交えて伝えておる。
ちょっと取材しただけで不可能という声だけが聞こえてくるこのシーズン移行に、耳を貸さぬ協会は何を考えておるのであろうか。
よほどの袖の下を渡されたとしか思えぬ。
それともハニートラップにでも引っかかっておるのであろうか。
それはさておき、問題は簡単に列挙されるが、メリットに関しては全く漏れ聞こえぬ。
単に、一度試しに変えてみれば良いというような、簡単な問題ではないので、ここはきちんと現場の声を吸い上げて欲しい。
結果ありき、移行ありきでの議論はまっぴらゴメンである。